新NISAが始まり、資産運用に対する国民の熱が高まってきています。
ただ、世にあふれる資産運用の情報は、主に現役世代向けが中心であり、仕事を徐々にリタイヤしていく60歳からの個人は参考にしない方がよい内容を含んでいます。
また、金融機関からお薦めされる資産運用は、基本的にその金融機関が儲けるためのセールスでしかなく、取り組んではいけないと筆者は考えています。
先に申し上げておきますが、筆者はまだ60歳台ではありません。それでも、長年にわたり金融機関に勤め、そしてお客様や自らの資産運用を考える中で、ポイントとなる資産運用の心得をご説明ができるのではないかと考えています。
ただ、筆者の資産運用の心得は、雑誌の特集やノウハウ本のようなものではありません。むしろ基礎的で、つまらない話ばかりでしょう。それでも、資産運用をこれから考える60歳以上の方にはお役に立つものと確信しています。もちろん60歳までの方にも参考になるはずです。
それでは、60歳からの資産運用の心得を皆さんと共に確認していきましょう。
■資産運用の基本、「安全性」「流動性」「収益性」
資産運用を行うとなると、一般的には金融商品を購入することを考える方が多いでしょう。
金融商品には、預金のみならず、株式、債券、投資信託、保険などがあります。投資信託の中には、上場しているETFやREIT、ファンドラップと言われるようなお任せ運用のファンドや私募REITなどがあります。
そして、今や金融商品に近くなってきた不動産投資もあります。収益不動産への一棟投資や区分投資、私募ファンド、不動産クラウドファンディング、不動産セキュリティー・トークンといった投資類型が存在しています。
さらには金(ゴールド)投資のような商品投資や、仮想通貨(暗号資産)投資もあります。
このような分かりやすい投資対象だけではなく、航空機、船舶、クラシックカー、高級時計といったものから、絵画のようなアートまで、世の中は投資対象で溢れています。
では、このような投資対象から何を選べばよいのでしょうか?
投資を行う上で、考えなければならない視点は「安全性」「流動性」「収益性」です。
「安全性」とは、その対象資産(金融商品等)で運用した結果、元本の棄損確率が低いことです。
次に「流動性」とは、必要になったときに現金に換えやすいことです。資産運用対象によっては、あらかじめ決められた期限(例:仕組預金の満期)まで自由に換金できなかったり、売却しても手元にお金を受け取るまでに日数かかったりするものがあります。そして、簡単には換金できないものも多いのです。
最後に「収益性」とは、利回りの高さ(お金が増えやすいこと)です。
資産運用は、これら3つの視点から見ると自分が何に投資すべきかを整理する参考となります。ただし投資において、この3つすべてを充足することはできません。何かを優先すれば、何かを諦めることになると言えば良いかもしれません。
基本的には安全性と収益性は両立しません。また、収益性と流動性は両立が難しいものです。
ただ、安全性と流動性は両立可能です。
例えばですが、安全性と流動性を重視し、一方で収益性を犠牲にすれば、現金をそのまま保有するか、僅かばかりの利息を得ることが可能な銀行の普通預金が運用対象となるでしょう。
現金は日本国のリスクを取っていることと同義ですから、安全性は最も高く、どこでも使えますので流動性も高いことになります(その代わり保有していても1円も儲かりません)。
普通預金は銀行の信用リスク(倒産リスク)がありますので、安全性は現金に劣りますが、いつでも引き出せ、振り込みができるという点では流動性は極めて高い資産です。
一方で、不動産の私募ファンドへの投資だと、立地と評価次第ですが安全性は相対的に低く、すぐには売れないので流動性も低い、ただし収益性は相応で安定している、といった資産になります。
この3つの視点をもう少し掘り下げて行きましょう。
■金融商品における3つの視点
では安全性、流動性、収益性といった観点で、金融商品にどのような特徴にあるのかを簡単に見てみましょう。
以下の図は金融庁が作成した金融商品の特徴をまとめたものです。
(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)
投資信託は流動性については高いのですが、収益性、安全性は、投資対象次第のためこのような表示となっています。
また債券には国債や社債があります。国債であれば安全性は非常に高くなります。これらの金融商品について、あえて順番をつけるとすると以下のようになるでしょう。
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・安全性:預金>債券>投資信託>株式
・流動性:預金>株式>投資信託>債券
・収益性:株式>投資信託>債券>預金
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ただし、流動性がある株式だったとしても、東京証券取引所において取引可能な時間は限定されています。
東証の取引時間外で大きなニュースが出たなら(例えば、イスラエルがイランにミサイルを発射)すぐに売却したい場合もあるでしょう。この場合、投資家が証券取引所を経由せずに株式などを売買できる私設取引システム(PTS)でも取引が出来ますが、限られた証券会社しか提供していませんし、取引時間にも制約があります。また、出来高が乏しい株式だったとすると売りたくても簡単には売却出来ないこともあります。
金融商品それぞれにはもっと細かい特徴がありますが、概ね上記のように理解しておけばよいでしょう。
■どんな投資商品がある?
前項では、資産を運用する際に最も一般的な選択肢となる金融商品を、安全性、流動性、収益性で比較しました。それ以外の運用資産についても簡単に確認しましょう。
1.金(ゴールド)
金については、現物(店頭)で購入・売却することも可能ですが、流動性には乏しいこと、そして業者に中抜きされることがネックです。その点、ETF(上場投資信託)を選べばコストも安く、保管も気にせず、流動性も高い形で投資が可能です。
金はインフレに強く、地政学的リスクが懸念される時代には有効な投資先です。しかしながら、利息が付かない点は先ほど触れてきたような金融商品に比べて劣後します。
2.仮想通貨(暗号資産)
仮想通貨は「デジタルゴールド」と呼ばれることもあるように、利息が付かない運用資産です。
仮想通貨への投資の是非はここでは述べませんが、まだまだ投資対象としては微妙(インフレヘッジのために投資するならば、伝統的な金に投資した方が良いように思います)というのが筆者の所見です。
3.クラシックカー・腕時計・アートなど
金融商品以上に個々の投資対象資産の個別性が強く、目利きが重要な運用資産です。知見があるならば投資することはアリだと思いますが、マーケットがそれほど大きくなく、流動性も乏しく、売買するにも業者などに中抜きされるという問題があります。
それでもメルカリのような仕組みが提供され、さまざまなものに「金銭的価値」が付くようになりました。目利きさえできるのであれば、「経験のある大人」が戦える領域かもしれません。
4.不動産
不動産は、プロの投資家にとってオルタナティブ投資(代替投資)の代表格と言われるほどにメジャーな投資対象です。
ただし、不動産と一口に言ってもさまざまな投資対象が存在します。具体的には、レジデンス(住居)、商業(店舗・ホテルなど)、オフィス、物流などがあります。
また、一棟を丸ごと所有し投資するタイプのみならず、最近は区分所有で投資するパターンもあります。そして、投資手法としては、現物(いわゆるそのままの不動産)、上場REIT、私募REIT(非上場、基本的にプロ向け)、不動産私募ファンド(非上場)、不動産クラウドファンディング、不動産セキュリティ・トークン(デジタル証券)などがあります。
筆者としては、流動性と内容の透明性が高く、物件の分散が効く上場REITが投資初心者には良いと考えています。
私募での不動産投資(不動産クラウドファンディングやトークンも基本的に含む)は、流動性に乏しいのがネックです。またクラウドファンディングのような投資は資料開示等の投資家保護に課題があります。
区分所有での不動産投資も流動性には難があり、且つ他所有者との協議が必要であり意思決定が遅れます(適切な意思決定ができないこともあり得ます)。
現物の不動産(一棟)は、不動産投資としては最も収益性が高くなるはずであり、意思決定もスムーズです。そして(これは区分所有も同様ではありますが)銀行借入を活用できます。
株に投資したいからお金を貸してくれと頼んでも銀行は認めてくれません。ただ、不動産に投資したいと言えばお金を貸すことを通常は検討してくれます。
借入を活用して投資が出来るのは不動産ぐらいです(株式は信用取引という形で実質入が可能ですが)。借入を活用した不動産投資は、元々の手元資金との対比では大きな収益をえることになります。ただしもちろん、投資額が膨らむのでリスクも大きくなります。
また、相続対策になることは間違いありませんが、とにかく現物の投資は、物件の立地を重視した方が良いでしょう。立地が良ければ、価格はともかく売却が出来るためです。これは、流動性の視点です。
5.プライベート・エクイティ(PE)
最近は、プライベート・エクイティ投資(PE投資)も注目されています。これは単純に言えば、未公開株式への投資です。過去のトラックレコード(運用実績)が良く、プロの機関投資家も注目しています。
少なくとも過去実績の利回りは良いファンドが多いと思われますが、未公開株式が投資対象ですから流動性は乏しいと考えた方良いです。そして、世の中におカネが溢れていた時代なら簡単に上場等で資金を回収できましたが、これからも同じかは分かりません。
なお、PE投資を日本で行うことができるのは、基本的に機関投資家と富裕層です。例えば、野村証券が個人富裕層向けのPEファンドを公募投資信託の形式で販売していますが、最低投資額は5万ドル(約750万円)です。個人ではなかなか手の届かない額でしょう。
他にクラウドファンディングのような形で未公開株式投資が募集されていることはあります。ただし、このような投資はほとんどがかなり規模の小さなベンチャー企業への投資の募集です。リスクが高く、日本のベンチャー企業は成長性も海外企業に劣りますので、筆者としてはお勧めしません。PE投資で儲け話があると誰かに持ちかけられたら、大抵は詐欺だと思っておく方が賢明です。
6.その他
資産運用は、安全性、流動性、収益性が大事な視点です。怪しい資産運用商品の中には、「安全でいつでも換金出来て、収益性が高い」ということ訴求するものがあります。このような商品は通常は詐欺です。
本当に素晴らしい投資話があるのであれば、我々一般個人にはそのような情報は入りませんし、投資出来ません。投資が出来る機会なんて絶対に手に入りません。筆者も確実に儲かるのであれば誰にも紹介せず、売らずに借金をしてでも自分で投資します。
■プロに「お任せ」商品はおすすめできない
ここまで、資産運用における投資対象の特徴を確認してきました。
資産運用における3つの大事な視点は、「安全性」「流動性」「収益性」でした。60歳からの資産運用では、やはり「安全性」と「流動性」に主眼を置いた運用が有効だと、筆者は考えています。
60歳以降は、会社勤めの個人だと定年やポストオフなどで給与が減少してきます。若いうちだったら、運用で失敗しても給与で取り戻せばよいかもしれません。ただ、60歳からは取り返すのが難しくなってくるのです。時間は資産運用を行う若者の味方であり、年齢が高くなってきた時には、時間は味方とはなってくれません。
したがって、大きな損失を被らないことに重きを置き、安全性と流動性を重視すべきでしょう。
なお、投資信託の中には「ファンドラップ」と呼ばれるようなプロにお任せする運用商品があります。
銀行や証券会社は、安心をうたってファンドラップを勧めてくるところもあります。ただし、(これは筆者の私見ですが)ファンドラップは金融機関に高い手数料を取られるだけの商品です。
プロが絶対的に運用が「上手い」わけではありません。プロでも元本を棄損する事例はいくらでもあります。プロに任せても安全性が上がるわけでもありません。
ファンドラップに投資するぐらいならば、もっとコストの低いインデックス運用(TOPIXや日経平均、もしくは米S&P500などの指数に連動するように運用)する投資信託、特に上場しているETFに投資する方が有効です。
そして、損失を限定できるように「損切り」を徹底することです。
60歳を超えてくると、長期で運用して損失を取り戻すにも時間が足りない場合も出てきます。先日、日経平均株価が史上最高値を更新したのは約34年ぶりです。バブル時代の最高値時期に日経平均株価に投資していた個人は、34年のもの長期にわたって損失を抱えていたことになります。
■60歳からの不動産投資は?
不動産投資を行うならば、安全性や流動性を重視すべきでしょう。
収益性を犠牲にしても、流動性がある物件、すなわち立地がよく誰でも買いたい物件を購入していた方が、結果として安全なこともあります。
また、60歳以降(というか高齢になってくると)の投資の観点には「あまり面倒ではないもの」というキーワードも必要になってきます。
アパートなどを持っている場合、管理を自分でやっていると、かなり面倒を感じるでしょう。年始から春頃には居住者の退去と入居者募集もあります。これもかなり面倒です。「高齢になっていくにつれて面倒なことが本当に嫌になってくる」とおっしゃっていた方を、筆者は何人も見てきました。
通常の金融商品(株式や債券、投資信託等)は、投資していても面倒はありません。この点では不動産の現物投資よりは優れています。
しかし、比較的安定しており、借入を活用できる不動産投資は通常の金融商品とは異なる投資対象としての魅力があります。他人の話を鵜呑みにせず、想像力をもって投資対象は決めるべきでしょう。
60歳からの投資は、このような視点を持って投資すべきというのが筆者の考えです(分散投資という観点は今回は省きました)。
旦直土/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
最終更新:5/16(木) 19:00
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