東京でもついに感染者が見つかった「はしか」、どう対策する? 少ないウイルス量でも感染して発病する可能性

3/15 5:21 配信

東洋経済オンライン

海外で流行する麻疹(はしか)だが、2月以降、大阪と東京でも感染が確認されている。ヨーロッパのような大流行は日本でも起きうるのだろうか?  どのように対策すればいいのか。

■高いワクチン接種率が必要

 麻疹の初期症状は咳、鼻水、のどの痛み、軽度の発熱とふつうの風邪と変わらない。ふつうの風邪なら3~4日すれば解熱傾向となるが、麻疹ではウイルスが全身に広がり、その頃から高熱となり、皮膚に赤い斑点が出て麻疹と診断される。

 風邪症状を発症する3日前、つまり無症状のうちからウイルスを排出し始めるので、診断がついて隔離されるまでには1週間ほど経っていることになる。しかも麻疹は、咳やくしゃみをしなくても、普通の呼吸で排出される呼気中にウイルスが含まれ、空気感染する。少ないウイルス量でも感染して発病させうるため、感染が広がりやすいのが特徴だ。

 麻疹は1人から12~18人に感染する。インフルエンザでは1~2人、新型コロナでも2~3人にしか広がらない。それでもインフルエンザや新型コロナは大流行した。もし麻疹ワクチンがなければ、破局的な流行が起きるのだ。

 感染力が強いと、集団のほとんどの人が免疫を有していないと流行が起こりうる。麻疹ワクチン接種率は95%を維持しなければ流行が生じるとされる。実際に患者が急増しているヨーロッパでは、2019年と2022年を比較して、ワクチン接種率が低下している。1回目の接種率は96%から93%に、2回目の接種率は92%から91%に低下しており、このわずかな接種率の低下が大流行の原因と考えられている。

 現在の麻疹ウイルスは、紀元前6世紀頃に出現したとされる。ヒトに適応し、ヒト以外の動物には感染しない。よってヒトに対して介入するだけで麻疹はコントロールできる。うまくいけば天然痘のように撲滅できるかもしれないのだ。

 対して、コロナ、インフルエンザや狂犬病などの人畜共通感染症は制御が困難だ。いまも世界で感染の連鎖が続いている新型コロナウイルスは、どの動物から最初のヒトに感染したのか、由来は不明なままだ。次の新型コロナウイルスは数年以内に発生するだろう。

 インフルエンザは鳥や豚に感染し、次々に新型インフルエンザが発生する。2009年に発生した新型インフルエンザでは、どこからともなくウイルスが現れ、当初は高い死亡率が報告されたため、世界中を恐怖に陥れた。コロナやインフルエンザは、エアロゾルで感染するため、瞬く間に感染者が増加する。抗ウイルス薬の供給が逼迫すれば打つ手はない。

 狂犬病は哺乳動物すべてに感染し、ときどき感染動物がヒトを咬むことで感染する。家畜やペットへのワクチン接種が行われても、野生動物での感染を制御することはできない。いまなお全世界では、およそ6万人が狂犬病で命を落としている。

■麻疹ワクチンの有効率は驚異の97%

 麻疹ワクチンは、1958年に開発された。ウイルスを何度も継代培養すると、麻疹ウイルスに対する免疫反応を引き起こすが、ほとんど症状を起こさないように弱毒化できることがある。

 その生きたウイルスが弱毒生ワクチンの有効成分だ。このワクチンは1963年にアメリカで認可され、WHOによって世界中で大規模に使用されている。この弱毒生ワクチンは非常に有効で安全性が高い。現在日本で用いられているのも弱毒生ワクチンであるが、2回の接種で97%の麻疹発病予防効果がある。COVID-19のワクチンが登場したとき、95%の発病予防効果に世界は驚いたが、それを超える性能をずっと維持しているのだ。

 ワクチンは麻疹患者数を大幅に減少させ、何百万人もの命を救ってきた。しかし、麻疹は依然として公衆衛生上の大きな問題であり、世界中で年間10万人以上の死者を出している。現在、最も感染者が多いのはアフリカ、南米、アジアである。しかし今、ワクチンが行き届いているはずの国でも再び流行するようになった。

 感染症のコントロールに影響するファクターは、ヒト以外に感染するか、ウイルスの排出ルートと期間、感染した場合に発病する割合、無症状の感染者から他者に感染が起きるか否か、有効なワクチンの有無などだ。

 天然痘は、いま世界で広がっている「M痘(mpox)」のヒト版で、ヒトにしか感染しない。1980年にWHOから撲滅宣言がなされたが、かつては世界中および日本でも大流行を繰り返し、死亡率が30%と高く恐ろしい疫病であった。

 天然痘は体中の皮膚に、ニキビのように膿をもったブツブツができ、その汁から感染する。その汁に触らなければ、隣にいても感染しない。また、発病して天然痘とわかる症状が出てからしか他者に感染しないため、隔離が容易で、周囲にいた人たちに種痘という有効なワクチンを実施すれば感染は広がらない。だから感染をコントロールできたのだ。

 麻疹は天然痘と同様、ヒト以外には感染しない。ただし、無症状のうちからウイルスを排出し、空気感染でどんどん広がるため、麻疹患者を隔離しても封じ込めることはできない。どこでウイルスに遭遇するかわからないので、社会の全員がワクチン接種を受けるしか有効な対策がないのだ。

■日本でも大流行が起きても不思議はない

「令和4年度麻疹風しん定期予防接種の実施状況の調査結果について」(国立感染症研究所)によると、2022年の麻疹ワクチン接種率は1回目が95.4%、2回目が92.4%だ。1回目のワクチン接種率は、半分以上の道府県で95%を下回っており、2回目で95%を達成しているのは香川県のみだ。

「麻疹の抗体保有状況―2022年度感染症流行予測調査(暫定結果)」では、発症予防に十分な抗体を有している人は85.7%にすぎない。これはサンプル集団での値であり、実際にはより低いと考えられる。日本全国では1700万人もの人が麻疹にかかりうる状況であり、だからこそ麻疹感染者が増えてきているのだ。

 いま日本で入手可能な麻疹含有ワクチンは、MRワクチン(麻疹風疹混合弱毒生ワクチン)だ。ただし、麻疹流行の報を受けて、すでに流通が逼迫している。なぜならば、子どもが1歳と就学前に受ける定期接種を確実に行うことが将来的な麻疹コントロールの礎であり、その分のワクチンを優先的に確保しなければならないからだ。

 医療機関によっては、MMR(麻疹風疹おたふくかぜ混合弱毒生ワクチン)を個人輸入して提供している場合がある。ホームページなどでワクチンの取り扱いを確認して、早めにワクチン接種を受けるといいだろう。

 コロナ禍で公費での接種の機会を逃した子どもたちについては、キャッチアップ接種も公費で受けられるようになることを願う。

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最終更新:3/15(金) 5:21

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