人的往来で中ロを天秤にかける北朝鮮の思惑、北朝鮮の「中国離れ」に習近平はまだイラついている

3/23 6:02 配信

東洋経済オンライン

 「中国政府の腰が重い。北朝鮮への往来再開はまったく見えてこない」

 やや不満をにじませる声を上げているのは、中国の旅行会社関係者らだ。そんな彼らは、2024年3月15~17日のロシア大統領選挙で圧勝したプーチン氏の動向に注目していた。

 実は、中国政府が自国民の北朝鮮への観光・往来をこれまで規制しているのではないか、という見方が広がっていた。そのため、すでに発表されているプーチン大統領の北朝鮮への公式訪問がいつになるかで、中国側からの北朝鮮への観光・往来再開への道筋が見えてくると考えているからだ。

■「北朝鮮への観光再開は4月末?」

筆者は前回2024年1月23日に公開した、「北朝鮮とロシアの関係に中国が激怒していた!」でも触れたが、日本では「北朝鮮とロシアは蜜月関係にある」といったように報じられることが多い。

 しかし、中朝国境などから聞こえてくる話を総合して見ると、実際には、北朝鮮が中ロを天秤にかけてロシアを優先させているのではないだろうか――。そう思えるフシがある。しかも、まるで北朝鮮が主導権を握って主体的に動いているかのようにさえ感じられる点もある。

 「北朝鮮への観光・往来の再開は、最短で4月末」。最近の中国旅行業界では、こんな情報が出回っている。これは、あくまでうわさレベルであり、中国文化・旅遊部(観光庁相当)からの正式通達も確認できていない。

 最短4月末となるにはある条件がある、と旅行会社関係者は明かす。その条件とは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の中国訪問である。しかも中国側の関係者は、この訪中は習近平国家主席への「謝罪訪中」だと認識している。

 なぜ「謝罪」なのか。それは、プーチン氏との首脳会談をはじめ北朝鮮がロシアに接近していることに、習近平氏が不快感を示し、観光・往来停止の制裁を科していると認識しているためだ。

 4月中に金正恩総書記の訪中があれば、中国の大型連休である5月初旬のメーデー連休に合わせて再開されるのではないかと期待しているようだ。しかし、金正恩総書記の中国訪問がなければ、観光・往来再開は7月末などさらに遅れる可能性が高いとも話す。

 北朝鮮に振り回されて、袖にされているような印象もある中国であるが、積極的に観光・往来を再開させようという動きはない。その背景には、国内経済悪化による海外旅行の需要低下がある。つまり、北朝鮮旅行を再開させる必要性が低いことも影響している可能性がある。

 また、中国政府にとって海外旅行とは、重要な政治の道具でもある。国民の不満のガス抜きだったり、中国共産党への求心力を高めたり、中国人観光客を大量に送り込むことで相手国へ経済的な恩恵を与えたりと、内政にも外交にも政治利用されている。

 だからこそ、海外旅行は、中央政府がしっかりとコントロールする必要があるわけだ。コロナ禍前、旅行先としての北朝鮮は、中国政府が推奨する渡航国の1つだった。

 それは、中国人が北朝鮮を訪れると、「中国よりも貧しい国がある」といった意識が生じ、中国の発展ぶりをより実感させられるからだ。中国共産党が中国を豊かにしたと、求心力を高める効果もあるという。

■中国の恣意的な渡航規制

 さらに中国人にとって魅力的だったのは安い旅費だ。下手したら国内旅行より安い海外が北朝鮮観光だ。しかも、新義州や羅先など中朝国境の都市であれば、ビザどころかパスポートも不要で、身分証(IDカード)だけで渡航できたりもしていた。まさに国内旅行の延長状態だった。

 中国では、一部の公務員はパスポートを所持できない。私的なパスポートの発給に制限を受ける公務員や国益企業が存在する。そんな人たちにとってパスポートなしで国境を越えることができる北朝鮮は、大いに喜ばれる渡航先となっていたからだ。

 中には、社員旅行で北朝鮮旅行という会社も珍しくなく、推奨する中国政府から旅行会社へも何かしらのバーターやメリットが与えられ、北朝鮮旅行を後押ししていたようだ。

 2022年12月、中国はゼロコロナ政策を解除。翌2023年2月に海外旅行を解禁した。ところが、詳細な理由は不明であるものの、中国政府は、タイとカンボジアへの渡航を制限した。とくにタイは、コロナ禍直前の2019年には約1100万人の中国人が訪れ、訪日中国人約959万人を超え世界で最も中国人が訪れた国だったのだ。

 渡航規制は政治的な理由だと推察されるが、期待していた中国人のインバウンドがまったく回復せず、焦ったタイ政府は2023年9月に中国人向けのビザ免除を打ち出し、中国政府も事実上の規制を解いたとみられる。

 また中国政府は2024年の春節時期に、なぜかモルディブへの旅行を推奨している。これらには、習近平政権の肝いり政策「一帯一路」が深く関係しているとの専門家の見立てもある。

 しかし、1100万人も渡航していたタイ旅行を規制しても大きな不満はなく、影響も限定的だったようだ。それだけ、今は中国の海外旅行需要が弱い証左だと言える。

 だから、中国政府にとっては、北朝鮮への往来再開の利用価値は低く、腰が重くなっているのだろうと旅行関係者らは考えているようだ。

 ロシアは2024年2月に、北朝鮮へ観光ツアーを送り込んだ。ロシアに北朝鮮観光再開1号で先を越され、観光・往来規制を継続させる状況が続くと、北朝鮮はますます「ロシア優先」を加速させるのではないだろうか。

 それは同時に中国とロシアを比較してロシアを優先したり、中国の優先度を下げる可能性が今後もありそうだ。

■「往来が再開されなくても仕方がない」

 権威主義国である北朝鮮、中国、ロシアはそれぞれが利己的な国益を最初に考える。それぞれが適当な利益でくっついたり、離れたりを繰り返しているのが現実だ。

 これまで北朝鮮への外国人旅行全体の95%を超える、年間20万人以上の中国人が、北朝鮮を旅行していたと推測される。中国政府は、大量の観光客という経済的な武器を用いて、再び北朝鮮をハンドリングしようとは考えていないのか。

 ロシアに負けじと、中国も制裁を緩め、観光・往来させる決断をしないのかと、中国朝鮮族の貿易商に尋ねてみると、

 「おそらく、ロシアに対抗して往来再開を判断する可能性は低い。中国政府は日本など西側の民主主義国家とは、まったく違う論理で判断する。4月末に再開されれば嬉しいが、再開されなくても仕方ない」

 もはや、旅行会社や貿易商などの中朝関係者たちは、観光・往来再開に大した期待もしていないという印象を受ける。

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最終更新:3/23(土) 6:02

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