新築、中古にかかわらず価格の高騰が続いてきたマンション市場。
少し前は「さらなる上昇の前に買っておかないといよいよ買えなくなってしまう」と買い急ぎが殺到し、物件が出ると時間をおかずに右から左に売れて、短期決戦の様相を呈していた。
それがここへきて変化しており、「持久戦」の様相を呈しつつあるようだ。一体どういうことなのか、直近のマンション売買のデータとともに確認していこう。
■成約までの日数が84日に長期化
まずは、図表1をご覧いただきたい。
これは公益財団法人の東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が、首都圏の不動産仲介市場で売りに出された物件が、何日で成約したかを調べたもので、仲介市場の好不調を判断する際の指標のひとつとされている。
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いうまでもなく、成約までの日数が短ければ市場は好調で、長くなると不調ということになる。その登録から成約までの日数は、時期によって大きく変動する。
中古マンションをみると、2015年度には平均64.9日だったのが、ジワジワと長くなり、2020年度には87.0日まで長期化した。
それが、価格高騰が始まった2021年度から2022年度にかけては70日台の前半まで短くなり、短期決戦の市況になった。
消費者のマインドとしては、マンション価格がどんどん高くなっているので、今のうちに買っておかないと、いよいよ買えなくなってしまうという「買い急ぎ」「買い焦り」ムードが強まってきたためといえよう。
しかし、それは長くは続かない。2023年度には82.6日と、2022年度より10日近く長くなり、2024年度はさらに84.3日まで長期化している。
その最大の要因は、マンション価格があまりにも高くなり過ぎた点にあるのではないだろうか。
まだまだ手の届く範囲の価格上昇なら「買い急ぎ」「買い焦り」の対象になるが、手が届きそうもなくなれば買い急ぎもできなくなるため、当然のことだろう。
■ローン金利の上昇も要因に
東日本レインズのデータから首都圏中古マンションの成約価格をみると、2021年度には3949万円だったのが、2023年度には4700万円、2024年度には4939万円に上がっている。
2021年度の3949万円の中古マンションを3500万円のローンを組んで買うとすれば、金利2%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は11万5941円。
返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)を、フラット35を利用して中古マンションを買った人の平均値19.7%とすれば、約706万円の年収があればOKだった。
それが2024年度の平均4939万円の中古マンションを、4500万円のローンを組んで買うとすれば、上と同じ条件の場合の毎月返済額は14万9068円に増えて、必要な年収は約908万円まで上がってしまう。
しかも、このところは物価上昇が続く一方で、賃金はなかなか上がらず、生活は苦しくなるばかりだ。
マンション購入には動きにくいし、動いたとしても簡単には決断できず検討期間が長期化し、成約までの期間が長くなってしまうのは容易に想像できる。
そのうえ、2024年から2025年にかけては、住宅ローン金利の上昇傾向が強まっている。金利が上がれば毎月の返済額が増えるとともに、借入可能額が少なくなってしまう。
そのため、金融機関から予定していた融資額の減額を求められたり、そもそも融資を断られたりといったケースも無いとはいえない。そんな諸々の事情も踏まえて成約までの時間が長くなっているのは間違いないだろう。
なかなか物件が売れないと、売出価格を改定・値下げして売却を急ぐケースが増えてくる。
不動産の情報会社の東京カンテイによると、図表2にあるように、2025年6月には価格を改定した割合が37.4%に達している。24年6月の23.8%から、1年で8.6ポイントの増加だ。
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値下げ率も2024年6月は-5.3%だったものが、2025年2月には-5.9%まで拡大した。その後、値下げ率は-5.6%まで戻しているが、値下げするマンションが多く、値下げ率も5%台で大きな動きはないようだ。
■時間がかかっても値下げしなくなっている
そのような中、注目しておきたいのが「価格乖離率」だ。これは中古マンションが売りに出された際の売出価格と、その物件が売れたときの成約価格との差を意味している。
比較的早く成約できれば乖離率は小さいことが多いが、成約までの期間が長くなれば、値引きによって乖離率が大きくなるのが普通だ。
しかし、2024年に入ってから、その流れに変化が生じているようだ。
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図表3にあるように2023年には1カ月で成約した物件の乖離率は-2.61%だったが、3カ月では-5.93%になり、6カ月では-8.50%、11カ月では-13.77%まで拡大している。
8カ月たっても成約できない場合、売出価格から1割程度値引きしないと成約できないという結果だった。
それが、2024年には折れ線グラフでも分かるように、成約までの期間が長くなっても、乖離率がほとんど変わっていないのだ。
2024年には成約まで12カ月かかっても乖離率は-4.69%で、3カ月で成約した物件とほとんど変わらない。
以前は売り出しから時間が経つほどに値下げ幅が大きくなっていたが、直近では多少時間がかかっても簡単に大幅な値下げはしないで、売出価格に近いままで売り切ろうとするケースが増えているのではないかと読み取れる。
これは一体どういうことなのか。考えられるのは、売る側も、買う側も「売り焦り」「買い焦り」がなくなりつつあるということだ。
売る側は、購入したときよりも物件価格が高くなっているケースが多く、売却益が出る可能性が高くなっている。だから売却を焦る必要はない。希望価格で客が付くまでじっくり待ってもいいと考える人が増えているのではないだろうか。
一方で買い手側をみると、価格が高騰しているといっても高くなりすぎたことから、エリアによっては平均価格が下がりつつあるところも見られ始めている。
長い目で見れば、相場全体も下がる可能性があるため、焦って買う必要はない。時間をかけて、希望に合う物件が購入可能な価格で出てくるのを待ってもいいのではーーそう考える人が増えているのではないだろうか。
売る側も買う側も焦りがなくなり、じっくり腰を据えて売却、購入を考えるようになっている。そんな環境だけに、焦って売却や購入に動くと判断を誤ることになりかねない。
しっかりと市況をチェックしながら、慎重に行動する必要がありそうだ。
山下和之/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待 編集部
最終更新:10/7(火) 19:00