35年後に人と家畜が「食料を奪い合う」時代が来る…長期予測で判明した“衝撃の事実”とは?

5/10 8:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 現在、畜産物のための穀物飼料量が増えすぎて、人間の食べる分の穀物を圧迫する状況になっている。この問題を解決するには、先進国の住民が意識的に消費量を節約するのと、世界中の国が穀物の生産量を増やすしかない!?本稿は、高橋五郎『食糧危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

● 畜産物の飼料が 人間の穀物を圧迫

 畜産物は肉・酪農製品・卵・油脂を供給する、人間になくてはならない食料である。人口の増加とともに生産量もうなぎ上りに増えてきた。

 世界生産量(2019年)は、以下の通りである。牛肉生産量7200万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。豚肉は1億1000万トン、主産国は中国・ドイツ・アメリカ・ベトナム。羊肉が1600万トン、主要国は中国・オーストラリア・インドなど。

 鶏肉1億3000万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。鶏卵は8900万トン、主産国はブラジル・中国・アメリカ。バター・ギーは1200万トン、主産国はインド・パキスタン・ニュージーランド。牛乳が8億6500万トン、主産国はアルゼンチン・オーストラリア・ブラジル・中国・インド・ニュージーランド・アメリカである。

 これら畜産物を生産するためにはトウモロコシ・大豆・ソルガム・コメ・小麦などを原料とする飼料が必要だが、1単位の畜産物を生産するのに必要な飼料はあらゆる畜産物を平均すると3単位程度である。100グラムの肉を食べれば、300グラムの飼料穀物を食べたことと同じだという意味である。

 世界の2020年の飼料穀物投与量は10億2000万トン(FAOSTAT)。牛乳生産向け飼料穀物の量は、国によって投与法に大差があり推定困難である。

 もし今後、人口増加に伴う畜産物需要がそのまま増え続けると、飼料穀物は、人口がいまの1・25倍の100億人になるとされる2059年には、約13億トンがそのために必要になってもおかしくない。

 筆者の長期予測(後出の図表11)によれば、人口が100億人になる頃の世界の穀物生産量は約36億トンにすぎない。それなのに、畜産物にその30%の13億トンを与えてしまうと、人間には23億トンしか残らない。さまざまな用途を含めて1人当たり230キログラムにしかならず、家畜栄えて人間滅ぶ、である。

 家畜に13億トンもの穀物を分け与えることは元来不可能で、10億トンにとどめたとしても、世界人口が80億人・副産物を含む穀物生産量約30億トンの現在でさえきついくらいである。この人口規模で、世界の人々すべてが飢餓から脱出できるのに必要な穀物量は40億トン近くに達する。ところが実際は約31億トンしかないのだから、これ以上飼料に回す余裕はないはずである。飼料に回している量が10億トンとしてもそのいくらかは、人間の食料用に取り戻さなければならないくらいである。

● 穀物を人間と家畜で どう分け合うか

 人口増加に比して増加しない穀物生産量が予測される未来においては、人と家畜の穀物の奪い合いのような本末転倒な事態になりかねない。

 そこでもし5億トンを人間の食料として取り戻すことができれば、1人1日当たり必要な2400キロカロリーを確保したうえで、世界人口のどれくらいを飢餓から解放することができるだろうか?

 畜産物を除いた場合、ヒトは計算上穀物を年間250キログラム食べれば1日当たりで2400キロカロリーを確保できる。小麦・コメ・トウモロコシなどの穀物は平均して1キログラム当たり3500キロカロリー程度であり、だから年間にして1人当たり約250キログラムの穀物を摂ればよいことになる。

 このようにして5億トンを人間の直接の食料に取り戻すことができれば、20億人、現在の地球の人口80億人の4人に1人を飢餓あるいは隠れ飢餓から解放することができるだろう。

 他方、飼料穀物が5億トン減ったことによる畜産物生産への影響は飼料要求率を3とすると、1億6700万トンが減ることとなり、全体として1億6700万トンが残ることになる。

 その減少分は、何人分のカロリーを失うことになるだろうか?

 1人1日当たりの必要カロリーを2400キロカロリー、年間にして87万6000キロカロリーは変わらないものとする。結果は約4億人となり、5億トンの穀物を直接の食料に回すことで生まれる20億人から4億人を差し引いた16億人が結局助かる勘定になろう。

 畜産物のための飼料を減らした場合の効果は明らかである。

 畜産物1キログラム当たりのカロリーの最大は豚肉平均3860キロカロリー、最低は牛乳の640キロカロリー、これに牛肉・鶏肉・鶏卵を合わせた平均を2000キロカロリーとすると、畜産物1キログラムを食べても、必要とする2400キロカロリーの83%程度しか満たすことができない。あと200グラム多く食べることが必要な勘定である(2000キロカロリー×1.2)。これに対して穀物1キログラムの平均は3500キロカロリーなので、1日当たり686グラム食べるだけで十分である(3500キロカロリー×0.686)。

 畜産物は穀物の57%しかカロリーがなく、効率が良くないともいえる。畜産物を食べるほどに地球には飢餓が増える、ともいえよう。

 畜産物は現状よりも約1億6700万トン少なくなるが、その方が地球に住むヒトの食料向けの穀物供給量が増え、飢餓で苦しむ人類を救うことができるとなればベターな選択ではあるまいか。

 生産した穀物を人間と家畜とでどう分け合うかを、衰えつつある地球の体力と相談し、どちらが飢餓を救う対策として有効なのか選択せざるえない局面なのである。

● 先進国の人々は 穀物の消費を節約すべき

 (1)先進国は1人1日100グラムの節約を

 先進国に住む人々は概して食べ過ぎといわれる。先進国に中国を加えた世界人口の23億人が、1人1日100グラムの穀物(食料・畜産物飼料・加工食品・工業原料などすべての用途)を節約すると、年間8400万トンの節約になる。これらの節約された穀物は、食料の不足する国へ適切な価格で買われていくはずである。だが主食がごはんやパンの国が主食の消費を減らす一方で肉食を増やしてしまうと、この計画は破綻するので難しい面はあろう。すでに述べたように畜産向け飼料は非常に効率が悪いため、肉を食べるほどに穀物消費量は逆に増えてしまうからだ。

 ビフテキやローストビーフが好きなアメリカ人・イギリス人の1人当たりパンの年間消費量は25キログラム程度といわれるが、これはフランス人・オーストラリア人・イタリア人・ロシア人は50~60キログラムといわれ、国によって大きな差がある。日本と違い、主食の概念が乏しいので、パンの比重が最大というわけではないからあまり意味はないかもしれない。ただ、肉を食べる量を減らすとパンの量は増える関係にあるようだ。

 だから日本人はごはんの量を増やし、パン食が減っている欧米人、特にアメリカ人やイギリス人は肉食を控えてパンを食べることで節約が可能になるというわけだ。

 また、主に先進国の肥満に注目する世界肥満連合(WOF)によると肥満人口は2035年までに40億人にものぼるという。いまの食品ロスも世界で約10億トン、1人1日当たりでは342グラムにも当たる。こうしたことも各国政府が国民に働きかけて改善できれば、1人1日100グラムの節約は十分に可能なはずである。

 (2)先進国は1人1日200グラムの増産を

 一方、これら23億人が暮らす国々が、全体で1人1日200グラム当たりの穀物生産を増やすと、年間で1億7000万トンの穀物を増産することができる。生産が増えると価格は下がる傾向になるだろうから、その増加分を食料の不足する残る57億人に販売するのである。この57億人の住む国々に対しても、増産ができるところには協力をお願いする。

 協力が増えれば増えるほど、不足する穀物を地球全体で負担する広がりができる。

 ここには、世界統一的な価格補償制度の効果が表れる可能性がある。

 途上国の無理のないところで、先進国より50グラム少ない、 1人1日当たり150グラムの穀物の増産をすると、年間3億トンあまりの穀物を新たに手にすることができよう。

 これに必要な耕地面積は1ヘクタール当たり収量を標準的なレベルの5~6トンとすると、5000~6000万ヘクタール、全世界の耕作放棄地面積は1億ヘクタール以上あるとされているので、数字上は十分に賄える勘定だ。

 以上の2つの対策を合わせると、全体では5億トン程度の増産、これに対して世界で不足する穀物は筆者の推定では約8億トンなので十分ではないが、不足量は約3億トンに縮小することが期待できよう。もしあと、1人1日100グラムのロスを解消できればこの不足も消えるだろう。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:5/10(金) 8:02

ダイヤモンド・オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング