那須の寂しいイオンタウン、超えられない「テナントパワー」の壁《楽待新聞》

3/21 11:00 配信

不動産投資の楽待

不動産を購入するに当たっては、「近くにショッピングモールがあるかどうか」は、物件購入判断の重要な要素になりつつある。

ショッピングモールは、いまや老若男女を問わず幅広い層に利用されており、物件の入居者にとっても「近くにショッピングモールがあること」はプラスポイントの1つだ。

いま、どんな街にどんなショッピングモールがあり、どのぐらい賑わっているのだろうか? チェーンストア研究家でライターの谷頭和希(たにがしら・かずき)さんが、今回は栃木県の「那須」を訪問し、街の特徴をレポートする。

■那須にやってきた

全国各地のショッピングモールを巡りながらその様子をレポートし、その地域について考えていく連載の第3回です。

これまでは川口、柏という、関東近郊圏のショッピングモールを見てきました。今回は、より地方のショッピングモールを見ていきましょう。

さて、今回やってきたのは栃木県の「那須」。東京からは1時間強で行くことができ、避暑地として人気の高いエリアです。

特に別荘地として有名で、別荘地の所有を考えている方にとっては、気になる場所の1つかもしれません。

一般的に那須(地区)と呼ばれるのは、栃木県の北東部に位置する那須町、那須塩原市、大田原市の3つの市町です。

那須の魅力はなんといってもその自然。北西部には那須連山の主峰・茶臼山がそびえ、山麓部には那須温泉も。スキーやキャンプなどのレジャー施設も豊富で、観光客の来訪も多いです。

また、皇室の御用邸もこの地にあることから「ロイヤルリゾート」としても名を馳せています。

私は今回、JR東北新幹線を使って「那須塩原駅」から那須に行きましたが、駅に降り立つと、キャリーケースを持つ多くの観光客で賑わっていました。観光地・別荘地としての人気の高さがわかりますね。

■意外と種類豊富なショッピングモール

那須エリアには、いくつかのショッピングモールがあります。それが、「イオンタウン那須」「イオンタウン那須塩原」「ヨークタウン西富山」です。

注目したいのがその名前。すべてに「タウン」と付いています。

こうした「タウン」が名前に付くショッピングモールは、「ネイバーフッド型ショッピングセンター(NSC)」という、比較的面積が小さく、商圏人口も限られたエリアに限定されたモールが多くなっています。

また、形の上では、NSCは「オープンモール」と呼ばれる構造をしていることが多くなっています。

これは、店と店をつなぐ通路が屋外にあるものを指します。敷地の真ん中に駐車場を配してその周辺に店を並べ、短い歩行距離で目的の店に行けるようにするためです。

こうしたネイバーフッド型のオープンモールは、食品スーパーやホームセンターをメインの店舗として、どちらかといえば実用的な商品を扱う店で構成されています。

また、商圏人口は少なくても、来店頻度が高い地域密着型のモールになっていることも大きな特徴です。

つまり、こうしたモールが充実している地域は、その周辺も住みやすいため、賃貸需要がある程度見込めるエリアと言えるでしょう。

私たちは一般的に「ショッピングモール」というと、「エンクローズドモール」、つまり店と店を繋ぐ通路が屋内にあるものをイメージしがちです。

これまでこの連載で見てきた川口と柏のイオンモールもまさに、「エンクローズドモール」でした。

一口に「ショッピングモール」といっても、その役割や形はさまざまであることがわかります。

現地に訪れる前に、少しだけショッピングモールの形についてお話をしてみました。

ではさっそく、現地に行ってみましょう。

■ちょっと寂しい2つのイオンタウン

まずはイオンタウン那須から。基本情報を見てみましょう。

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【イオンタウン那須】
所在地 :栃木県那須郡那須町大字高久甲字愛宕前484-1
敷地面積 :約4万3000平米(筆者がGoogle Mapを使って測定)
店舗数 :12店舗
駐車台数 :約600台
駐輪台数 :約40台
アクセス :JR宇都宮線「黒磯駅」より車で約10分
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広さは4万平米を超え、非常に広い敷地を持っていますね。

イオンタウン那須の核となる店舗は、スーパーマーケットの「ザ・ビッグ」です。その横にはホームセンター「コメリ」もあります。

「コメリ」の売り場面積は広く、店頭には除雪剤や薪など、寒い冬を越すための実用的なアイテムが一通り並んでいます。

那須の中には、1カ月で100センチメートル以上の雪が降る地域もあります。これだけ積雪対策のアイテムが揃っていれば、問題なく過ごせそうです。

スーパーマーケットの「ザ・ビッグ」にも入ってみます。こちらも売り場面積は非常に広く、ありとあらゆるものが売っています。特に食料品売り場には多くの人がいます。

一方、食料品コーナーの隣には、洋服や靴なども売っていて、さながら総合スーパーマーケット(GMS)のようなのですが、こちらにはあまり人がいません。

訪れたのが平日の昼間だったためか、モール全体として見ると、規模が大きい割にそこまで多くの人が入っているわけではなく、少し寂しい雰囲気を感じました。

那須自体、広い土地を有しているため、このような大きな施設を作ることができているのでしょう。しかし、その面積の割には、なかなか上手く土地を有効活用できていないのではないか、と思わされます。

では、イオンタウン那須塩原はどうでしょう。

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【イオンタウン那須塩原】
所在地 :栃木県 那須塩原市 島方455
敷地面積 :約6万8000平米(筆者がGoogle Mapを使って測定)
店舗数 :18店舗
駐車台数 :約1100台
駐輪台数 :約120台
開店日: 2008年
アクセス :
東北自動車道黒磯板室IC下り出口約9分
東北自動車道黒磯板室IC上り入口約10分
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こちらは、オープンモール的な作りではあるのですが、核となるスーパー「ザ・ビッグエクストラ」の建物の中にいくつか他のお店も入っていて、エンクローズド型とオープン型の中間のような形態です。

先ほどのイオンタウン那須でも、空間を上手に利用できていないという指摘をしましたが、こちらはもっと空間に空きがあります。

「ザ・ビッグエクストラ」の中央部分には巨大な、何もない空間があるのです。

おそらくそこにはかつて何かしらのテナントが入っていたのでしょうが、テナントが抜けてしまい、現在空き店舗になってしまっているのだと思います。

ショッピングモールが乱立する今、どの地方でもこのようにテナントが入らず、ガラガラになってしまっているモールが散見されます。

その中でも、イオンタウン那須塩原の空きようは、なかなかすごいものがあります(実際の写真をお見せできないのが残念なのですが)。ここもやはり、広い空間をうまく利用できていないといえるでしょう。

■小さいけれど魅力的な「ヨークタウン西富山」

2つのイオンタウンはどこか寂しい雰囲気がありました。

その一方でセブン&アイ・ホールディングス傘下の「ヨークタウン」は同じ、ネイバーフッド型ショッピングセンターにもかかわらず、かなり賑わいがあります。

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【ヨークタウン西富山店】
所在地 :栃木県那須塩原市西富山46番地1
敷地面積 :約1万4000平米(筆者がGoogle Mapを使って測定)
店舗数 :4店舗
駐車台数 :約150台(ヨークベニマル単体)
開店日: 2022年
アクセス :
JR東北本線「西那須野駅」から車で約8分
JR東北本線「西那須野駅」から関東バス塩原温泉BT行き「西富山バス停」下車徒歩3分
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核となる「ヨークベニマル」は売り場面積2110平米で、活況を呈していました。

こうした人気の差は、単純に開業年が新しいからかもしれません。

しかし、モールの中を歩くと、人気の理由はそれだけではないことがわかります。ヨークタウン西富山店では、テナントに「無印良品」が入居しているのです。

イオンタウンではガラガラだった衣料品についても、無印良品が出店していることでガラガラということはまったくありません。食料品以外を目的とした人の入りは、明らかにヨークタウンが勝っています。

無印良品は最近、ヨークベニマルと共同出店をすることが多くなっています。この出店により若年層の利用者増加が見込めるからです。

確かに、20代である筆者の周辺でも無印良品人気は高く、無印良品があるエリアは今後も人気が高まるかもしれません。

どうやら、イオンタウンとヨークタウンの活況の違いを分けているのは、そこに入居しているテナントの違いに起因しているようにも感じられます。

■テナントの魅力度で商業施設の成否が決まる?

近年、衣料品から食料品までを一手に引き受けていた総合スーパーマーケット(GMS)が苦境に立たされています。

GMSの最大手だったダイエーは経営破綻、イオンはショッピングモール化し、イトーヨーカドーは最近、北海道・東北・信越の17店舗を閉店することを決めました。

私自身はこうしたGMS不調の原因について、イトーヨーカドーを例に挙げながら、それぞれの分野に特化したチェーンストア(ユニクロやヤマダ電機、ニトリなど)に魅力を感じる人が多く、そちらに人が流れているのではないかと考えています。

これと同じことが那須のショッピングモールで起きているのではないか。

イオンタウン那須、那須塩原は、どちらかといえば核テナントが「ザ・ビッグ」や、「ザ・ビッグエクストラ」といったGMSです。

なおかつ空き店舗も多く、商業施設として魅力的なテナント構成になっているとは言い難い状況です。

一方、ヨークタウンは敷地面積こそ小さいですが、「無印良品」などを入れ込み、活況を呈するのに成功しています。

ここで重要なのは、モールの中にどのようなテナントを入れるのか、そのテナント自体の魅力で、モールの成否も決まるのではないか、ということ。

当然の話かもしれませんが、「ショピングモールだから、良い」ということはありません。

むしろ、モールの中にどのようなテナントを入れるのか、その「編集能力」が各モールで問われているのです。

そして、不動産オーナーとして、その地域の価値を商業施設の充実度合いで測ろうとするときに重要なのは、それぞれのテナントの「編集能力」を見極めることなのではないでしょうか。

ちなみに那須塩原市の公示地価はここ数年下落を続けています。

そんな那須塩原市の中心的な商業施設の1つが、今回もご紹介した「イオンタウン那須塩原」。地価下落の理由はもちろん1つに定められませんが、商業施設の成否と地価にはある程度の関係があるのかもしれません。

谷頭和希/楽待新聞編集部

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最終更新:3/21(木) 11:00

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