定年後の再就職「成功する人・しない人」の決定差 従来の知識・やり方を手放すことも時には大切

4/17 5:51 配信

東洋経済オンライン

 経営者でも大学教授でも士業などのスペシャリストでもない。普通の元会社員や公務員が定年後、新たなセカンドキャリアをつかむためにはどうしたらいいのか。

*本記事の前編「“普通の”元会社員ほど定年後「仕事がない」切実」はこちら

■年齢に対する「思い込み」がある

 シニアの再就職を数多く支援してきた、パソナマスターズの代表取締役社長・中田光佐子さんは、「第一に、自分で自分にかけた無意識のバイアス(偏った見方・思い込み)を外すことが肝心だ」と語る。

 特に多いのが、年齢に対するバイアスだ。

 「自分はもう60代だし、新しいことを覚えるのは無理だ」「70歳を過ぎたから、なるべくおとなしくしていよう」などと、年齢によって自分に制限をかけてしまう。

 健康上の問題もなく、体力も十分にあるにもかかわらず、ある年齢や年代に達した途端、急に衰えたように感じて、自ら行動を狭めてしまう人が少なくないというのだ。

 「年齢で自分を縛ってしまうと、生き方や働き方の選択肢が狭まってしまいます。

 人それぞれ気力や体力、能力には個人差があり、若い人以上に活躍する60代、70代の方もいます。自分にかけた不必要なバイアスを外し、自分自身を正しく、等身大で見ることが大切です」

 さらに、「人間には加齢によって衰える能力と衰えにくい能力がある」と中田さん。イギリスの心理学者、レイモンド・キャッテルが提唱した「流動性知能」と「結晶性知能」のことだ。

 「流動性知能」とは、直感力や計算力、暗記力、法則を発見する能力など、新しい情報を獲得し、それらをスピーディに処理・操作する能力のこと。20代半ばをピークに60代半ばまで維持され、その後は急速に低下していく。

 一方、「結晶性知能」は、言語能力やコミュニケーション力、理解力、洞察力、創造力など、経験や学習によって培われる能力のこと。これらは20歳ごろから上昇を続け、60代以降の高齢になっても維持されやすい。

 つまり、「後者の結晶性知能(衰えにくい能力)を活かせる仕事に就ければ、長く活躍することができる」と、中田さんは付け加える。

■70代の悩み相談が評判に

 74歳のAさんは、後者の能力を活かして働くシニアの一人だ。長年、大手企業で人事経験のあったAさんは、パソナマスターズの紹介により、70歳で中堅機械メーカーの人事部での職を得た。

 勤務形態は週3日のテレワーク。社員から寄せられる労務相談の一時窓口としてオンラインでのヒアリングを行っている。

 会社員時代に培った労務の知識やコミュニケーションスキル、そして年齢を重ねたからこその落ち着きと包容力で、社員から「安心して相談できる」「聴いてもらえて気持ちが楽になった」と評判だという。

 Aさん自身も、「まさか話を聴くだけで役に立てるとは」と、驚きとともに働く充実感を味わえているそうだ。

 また、Aさんのように、「再就職先で活躍できる人には、ある共通したマインドがある」と中田さん。

 「再就職先として案内した会社が自分に何を求めているのか?  自身の役割や立ち位置についてしっかりと聞いてくださる方は、新しい職場にもすぐに馴染み、パフォーマンスを上げている印象があります」

 たとえば、「自分の上や下のポジションにどういう人がいるのか」「自分はベテランとして若手の育成をすべきなのか、それともあくまでメンバーのサポート役に徹するべきなのか」など、求められる役割や立ち位置を把握し、柔軟に変えられる人は、企業側からの評価も高いという。

■過去の経験が新しい価値に変わる

 「自分はこの仕事しかできない」――。

 そうして過去の経験やスキルにとらわれ過ぎて、再就職を困難にしてしまう人も多い。それもある意味、自分にかけたバイアスだが、その偏った見方を外すためにも、「経験をリフレーミングしてみるといい」と中田さんは話す。

 リフレーミングとは、物事の枠組みを外して、違う視点から捉え直してみること。

 これまで培った自身の経験を棚卸しして、リフレーミングしてみると、思いも寄らぬところで必要とされる“価値”に変わることがある。

 その一例が、長年プリンター・複合機のメーカーに勤めてきたBさん(65歳)だ。会社では得意先への「ルートセールス」を行っていて、主な商談相手は中小企業の社長だった。

 Bさんは日々得意先を回る中で社長との距離も近くなり、中小企業の経営者ならではの悩みも聴くように。ときには解決につながるようなサポートをすることもあった。

 自分ではそれが当たり前のことだと思っていたが、パソナマスターズのキャリアコンサルタントと経験を棚卸ししていくうちに、強みになると気づいた。

 そこで出合った求人が、地方自治体が運営する中小企業の支援団体での仕事だ。

 それは中小企業の社長が抱える悩みをヒアリングして、問題解決のサポートを行うというもの。まさにBさんが経験してきた仕事だった。

 「Bさんの経歴を一方向で見てみると、“ルートセールス”になりますが、経験をリフレーミングして見方を変えれば、“中小企業の社長の相談役”とも言えます。

 過去の経験について、自分で棚卸ししていくのもいいですが、壁打ち相手を見つけて話すことで整理されやすくなります。

 シニアを対象とした人材エージェントのキャリアコンサルタントの力を借りるのも一考かもしれません」

■定年後はジョブ型に、求められる専門性

 前記事でニッセイ基礎研究所・上席研究員の前田展弘さんが解説していたように、Ⅱ層シニア(定年を迎えた“普通”の元会社員や公務員)は、スキルや経験が広範囲にわたる「ジェネラリスト」の傾向が強い。

 すると、自身の強みや専門性が見えにくく、再就職先とのマッチングもしにくくなる。

 というのも、再就職の求人は、求める職務内容やスキルが明確に決まっている「ジョブ型」が主流だからだ。

 「これまでの長い会社員人生で携わった、さまざまな仕事や役割は定年と同時にすべて取り上げられ、その先は『ジョブ型』に移行することになります。

 そういう意味でも、50代のうちに、あるいは再雇用の5年の間に、『自分は最終的にどの仕事のプロとして生きたいのか』、自身の強みや専門性を極めておいてもらえると、セカンドキャリアにスムーズに移行しやすいです」

 ただ、専門性を極めたとしても、「その仕事が他社でも通用するのか」という視点も持ち合わせておくべきだ。

 たとえば「人事のプロ」「生産管理のプロ」と言っても、それはあくまで自社で培った専門性ややり方であり、他社でもプロとして通用するとは限らない。

 「従来の知識ややり方だけに固執せず、ときに軽やかに手放し、新しい学びを取り入れる『アンラーニング(学習棄却)』も必要」と、中田さんは強調する。

■与えられた仕事の中で何にやりがいを持てたか

 こうして自身の経験や専門性を活かして働く方法もあれば、自分の好きなことや楽しいと思える仕事に1からチャレンジする道もある。

 ただ、長年会社から与えられたミッションに応え続けていると、自分の中にある「本当はこれがやりたい」という望みが湧きづらくなる、と中田さん。

 「与えられた仕事の中で何にやりがいを感じ、どの部分に楽しさを感じていたのか。“やりがいの内訳”について掘り下げてみるのはおすすめです。

 あとは毎日のルーティーンから飛び出して、いつもと違う道を歩いてみたり、新たなコミュニティに参加してみたりすると、それまで動かなかった気持ちがふっと動くことがあります。

 これからの人生で自分は何を大切にしたいのか、自身の本当の望みや価値観に気づきやすくなるでしょう」

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最終更新:4/17(水) 5:51

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