不動産向け融資の「蛇口」は閉まらない? 日銀「金融システムレポート」《楽待新聞》

5/27 19:00 配信

不動産投資の楽待

皆さんは、今の日本の不動産マーケットについてどのように分析していらっしゃるでしょうか。

金利は上昇する見込みなのに、なかなか不動産価格は下落しないとか、外資が日本の不動産を購入しに来ていると聞くが実際はどうなのか…など、気になることもあると思います。

日本銀行が定期的に発行している「金融システムレポート」は、日本の金融市場や資産市場の現在を理解するのに非常に役に立つ発刊物です。

今回は、この金融システムレポートから抜粋という形で日本銀行が日本の不動産マーケットや不動産金融について認識していることを確認していきたいと思います。

■日本銀行による「日本不動産マーケット」の視点

日本銀行は、2024年4月発刊の金融システムレポートにおいて、以下のように述べています。

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わが国の不動産市場では、⼀部に割⾼感が窺われる。都⼼の商業地区において、局所的に⾼額帯の取引が増えている。

これまでのところ、オフィス空室率の上昇は、幅広い地域で観察される⽶国とは異なり、都⼼の⼀部に限られる。ただし、これまで不動産取得に積極的だった海外投資家が、昨年後半に4年振りの売り越しに転じるなど、変化もみられる。
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ここで、以下の図1をご覧ください。

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この図はあまり見慣れない形式かもしれませんが、要するに「商業⽤不動産価格・賃料⽐率」が、2007年のミニバブル期の⽔準を上回っていることを示しています。

さらに日本銀行はレポートの中で、「こうした傾向は、都⼼の商業地区において顕著である」とも述べています。それを示すのが次のグラフ(図2)です。

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この図は都心5区の土地取引価格(坪単価)の推移を示しています。

上図左の商業地を見ると、近時は高額の取引が増えていることが分かります。「局所的に⾼額帯の取引が増えており、⼀部に割⾼感が窺われる」というのが日本銀行の認識です。そして同様の傾向は、都⼼の住宅地やマンション(上図右)でも観察されるとしています。

ただし、不動産取引市場の需給バランスをみると、これまで不動産取得に積極的だった海外投資家が、昨年後半、4年振りの売り越しに転じたことは注意しておくべきでしょう。以下の図3をご覧ください。

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海外投資家のうち、不動産の⻑期保有を前提とする保険会社や年⾦基⾦、政府系ファンドなどの機関投資家の購⼊スタンスに⼤きな変化はないものの、海外ファンドがリバランスの⼀環として、⽇本の投資物件を売却する事例が見られています。

2023年前半までの主な売り⼿は、⽶国市場で損失を計上した米国系ファンドでした。米国系ファンドが売却した物件は、アジア系ファンドなど他の海外ファンドや海外機関投資家が新たに取得していたのです。

しかし、昨年後半からは、⾦利上昇観測を背景とした利益確定売りなど、米国系以外のファンドが売り⼿に回る事例も散⾒されています(図4)。

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図4にあるように、コロナ禍中の不動産マーケットは、ミニバブル期と比べると海外投資家の割合が増加しています。

そして当時と異なるのは、欧州系ファンドの割合が低くなっている一方、アジア系ファンドと機関投資家の割合が増えていたことです。このアジア系ファンドと機関投資家が今後、どのような行動を取るのかが注目されます。

■不動産マーケットに対する金融の状況

⺠間⾦融機関の国内貸出残⾼は、前年⽐プラス3%程度の伸びが続いています。引き続き、経済活動の回復に伴う運転資⾦需要が貸出増加の主因となっていますが、それに加えて、不動産関連の資⾦需要や企業買収に伴う資⾦需要も増えています(図5)。

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図5を見ると、日本の銀行が不動産業向けの貸出を継続的に増やしてきたことがよくわかるでしょう。これは、日本に資金需要がある産業が他に少ないというのも要因として挙げられます。

次に以下のグラフ(図6)を確認しましょう。

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不動産業向け貸出残⾼は、⼤⼿⾏・地域銀⾏とも、⾼めの伸びが続いています。大手行の貸出の内訳は図7の通りです。

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⼤⼿⾏では、貸出利鞘が相対的に厚い不動産ファンド向け(図中のSPC)や REIT 向け(図中の「中⼩企業等」に含まれる)を中⼼とした貸出増加が続いています。

⼤⼿不動産デベロッパー向け(図中の「⼤企業」)の増勢も強まっていることがわかります。「大手行は堅調な資⾦需要に積極的に応需している」と日本銀行は説明しています。

次に地域銀行(地方銀行)です(図8)。

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地域銀⾏でも、不動産ファンド向けや⾮居住⽤賃貸業向け(図中の「その他」に含まれる)が増加基調にあります。

地⽅都市においても、オフィスビルや物流施設など賃貸物件の新設に伴う資⾦需要が増加しており、感染症拡⼤下で伸びが鈍化していた賃貸業向けは、増勢が再び強まっていると日本銀行は認識を示しています。

こうした市場動向を背景に、地域銀行でも不動産業向け貸出⽐率を⾼める動きがみられています。

総じて言えば、大手行も地域銀行も、不動産業向けの資金需要にはしっかりと応じているということになります。

ただし日本銀行は、⾦融循環の拡張局⾯が⻑引くもとで、不動産関連貸出の⽔準が切り上がっており、不動産業向け貸出や住宅ローンの残⾼は、経済活動⽔準との対⽐でみても既往ピーク圏にあると見ています。

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上図の通り、不動産業向け貸出の対GDP比率は右肩上がりに増加してきました。直近では不動産業向け貸出の対GDP⽐率が既往ピーク圏で⾼⽌まりしています。

そして、⾦融機関の不動産ファンド向け投融資は、ノンリコースローンだけでなく、債券投資や出資においても増加が続いています。貸出だけではなく違う形でも、金融機関は不動産ファンドのリスクを抱え込んでいるわけです。

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この図のように、不動産業実物投資の対GDP⽐率が⾼⽔準となっています。過去のトレンドから見ると、そろそろ頭打ちということになります。不動産業実物投資の対GDP⽐率が⾼⽔準となっている要因は、⼤⼿デベロッパーによるオフィスや商業施設などの都市再開発案件が、不動産業の実物投資を活発化させているためです。

■まとめ

日本銀行の金融システムレポートを抜粋しながら、日本の不動産マーケット、そして金融の状況を確認してきました。

不動産は価格の⾯では、前述のグラフでも示していたように、全国の「商業⽤不動産価格・賃料⽐率」がミニバブル期の⽔準を上回っていること、局所的に⾼額帯の土地取引が増えており、⼀部に割⾼感が窺われること、海外投資家が不動産を売り越しに転じていること等を日本銀行が示している通り、不動産マーケットは転機を迎えようとしている可能性があるでしょう。

少なくとも、日本銀行は今回ご紹介した金融システムレポートによって金融機関に不動産マーケットの状況について「警告」をしていると考えてよいでしょう。

不動産マーケットは金融機関が貸出を絞ると大きな影響を受けます。では、実際に金融機関は「蛇口を閉める」のでしょうか。

筆者は、金融機関が不動産業もしくは不動産マーケット向けの資金供給を簡単に絞ることはないと考えています。なぜなら、国内の資金需要が不動産業や家計(ほとんどは住宅ローンでありこれも不動産向けに近い)に偏っているからです。

金融機関が営利企業であり、儲けを出したければ不動産向けの貸出に取り組まざるを得ないということが挙げられます。

加えて、日本の不動産マーケットは、海外(特に米国や欧州)に比べると、オフィスの空室率等のように問題が少ないということも指摘できます。そして、アジア系の投資家は、中国の不動産問題を横目に見ながら法的にも安定したマーケットである日本にいまだに興味を示しています。

相対的にマシな間は、日本の金融機関は不動産マーケットから逃げようとはしないのではないでしょうか。

旦直土/楽待新聞編集部

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最終更新:5/27(月) 19:00

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