海自「潜水艦隊」の過酷な深海3K生活、抱き枕は魚雷!?帰宅したら新妻が…年収にも迫る

11/21 11:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

 あまり国民の目に触れることはないが、潜水艦隊の隊員は「3K(きつい、汚い、危険)」とされる潜水艦内で過酷な任務に取り組んでいる。何しろ、睡眠や入浴もままならない環境なのだ。こうした過酷な労働環境に見合うかは判断が分かれるところだが、隊員たちは“悪くない年収”を手にしている。では、具体的にどの程度なのか。知られざる「潜水艦内での生活」や「年収」について、防衛省出身のジャーナリストが解説する。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティコンサルタント 吉永ケンジ)

 ※本記事は前後編の前編です。潜水艦を駆使した「過酷な訓練・任務」について解説した後編はこちらから

● 「きつい・汚い・危険」… 超過酷な「潜水艦」という職場

 「沈黙の艦隊」など、たびたび映画のモチーフにも取り上げられる潜水艦。密閉された艦内で繰り広げられる見えざる敵との戦いは、沈黙と忍耐が要求されるチキンレースだ。

 敵と水圧の恐怖の中で生まれる乗組員の葛藤と戦友愛を描く潜水艦映画は、戦争映画とパニック映画の両方の魅力を兼ね備えているといえるだろう。

 そして、こんなフィクションのような日常を本当に送っているのが、海上自衛隊(以下「海自」)潜水艦隊の隊員たちだ。

 今回は、潜水隊員の知られざる生活について前後編で解説する。前編となる本稿では「潜水艦内での働き方」について語っていこう(具体的な任務について語った後編はこちらから)。

 海底で長期間活動する潜水艦内では、睡眠や入浴もままならず、職場環境としては自衛隊の中でも極端な「3K(きつい、汚い、危険)」だとされる。

 厳しい環境下で、隊員たちはどんな日々を送っているのか。隊員の「知られざる年収」はどの程度なのか――。防衛省出身の筆者が明らかにする。

● 潜水艦はもはや 男だけの世界ではない

 まず触れておきたいのが、潜水艦が男だけの世界というのは過去の話だということだ。

 広島県呉市にある潜水艦隊隷下の潜水艦教育訓練隊(以下「潜訓」)では海自の潜水艦乗組員を養成しているが、2020年、潜訓に初めて女性自衛官5人が入隊した。

 訓練生たちは男女問わず、「専用のマスク(スタンキーフード)をかぶり、潜水艦のハッチから海中に脱出する訓練」など、過酷なトレーニングをこなさねばならない。

 それらをクリアし、現在では十数人の女性が潜水艦に乗り込んでいるという。

 確かに以前は、プライバシーの確保が難しい潜水艦に女性を乗艦させるか否か議論が繰り返されていた。だが、防衛省が2018年に定めた性別制限撤廃を受けて、女性にも門戸が開かれた。すでに女性自衛官のイージス艦艦長が誕生しているので、20年もたたずに潜水艦艦長も生まれるだろう。

 では、潜水艦の艦内生活はどうなっているのか。潜水艦は自衛隊の中でも極端な「3K」なので、決して明るい話ばかりではない。

 まず、「きつい」の代表として、3直ワッチが挙げられる。ワッチとは哨戒直(当直)体制を指す。3直ワッチというからには、1日24時間を3直で回すのかというとそうではなく、6時間3直、つまり、航海中は18時間サイクルで生活を送ることになる。

 これが数日だったら何とか耐えられるだろうが、情報収集など長期行動は1カ月以上に及ぶ。当直の合間の12時間は単なる休憩時間ではない。この間に潜水艦の運航以外の業務であるメンテナンスや訓練、管理業務を行わなければならないため、18時間のうち睡眠時間4時間未満はザラだという。

● 駆け出しの実習員は 魚雷が抱き枕!?

 そして、これはメディアでも取り上げられて有名な話だが、潜水艦で個室を持っているのは艦長のみ。他の乗組員は幹部(管理職である士官のこと)も含めて、寝返りをギリギリ打てるスペースしかない3段ベッドで寝起きしている。2009年に就役した「そうりゅう」型からは幹部は2段ベッドになったが、曹士(現場で働く乗組員)は3段ベッドのままだ。

 さらには、潜水艦乗組員の誇りと象徴であるドルフィンマーク(金属製の徽章)を持たない実習員は、なんと魚雷の発射管室で魚雷の隣にマットを敷いて寝起きする。だが、ある艦長経験者は、「発射管室は(仮設の)2段ベッドだし、魚雷はひんやりして最高の抱き枕。乗組員居住区よりもずっと環境がいいんです」と目尻を下げる。

 次の「汚い」の原因は、真水の制限だ。シャワーを浴びられるのは3日に一度わずか数分だけ。大きな音を立て、大量の水を使う洗濯機などもちろん置いていない。潜訓ホームページで女性自衛官は、「『毎日シャワーを浴びたい』『洗濯をしないと気が済まない』という方は潜水艦での生活出来ません」とコメントしている。

● 新婚の乗組員が 妻の元に帰ると…

 密閉された空間で80人近くがろくに風呂も入らずに暮らすとなると鼻をつまみたくもなるが、実際に臭いは乗組員と家族にとって切実な問題だという。

 上述の艦長経験者は、「燃料や潤滑油、調理の臭い、トイレの悪臭、そして体臭がブレンドされた潜水艦特有の臭いをディーゼルスメルと言いますが、行動を終えて帰宅すると、新婚の妻が思わず手で顔を覆ったのを思い出します」と苦笑いした。

 残る「危険」については、多くを語る必要がないだろう。潜水艦が敵に攻撃されると、結末は一蓮托生でしかない。これが、運が良ければ生きて帰ることができる水上艦艇や航空機と大きく異なる点だ。

 潜水艦は味方から離れて単艦で行動し、敵に接近してハイバリューユニット(HVU)と呼ばれる空母や揚陸艦(戦車や兵士などを上陸させる船)など価値の高い目標を攻撃する。そのため、攻撃に失敗したり、見つかってしまったりすると、護衛の艦艇や哨戒機から袋だたきに遭ってしまう。

 そして、無事に定年退官まで務め上げたとしても、長年の潜水艦生活がたたり、元乗組員は年金をもらう前に亡くなってしまうという海自の都市伝説もあるほどだ。

● 潜水艦乗組員の 知られざる年収は?

 最後に、唯一ともいえる明るい話をしよう。それは、潜水艦乗組員の高い給料だ。

 高卒、20歳の海士長を例に取ると、基本給は約20万円。これに加え、潜水艦乗組員手当(45.5%)約9万円、地域手当(横須賀基地)約2万円、航海手当・潜航手当(30日分)約5万円が支給される。合計すると月額約36万円となり、ボーナス込みの年収は490万円近くになる。20歳としては、かなりの高給取りではないだろうか。ちなみに、2024年4月からは、乗組員手当が3割増になると報じられている。

 そして、2佐の艦長になると、ボーナス込み年収は1300万円近くに上る。艦長経験者は潜水艦乗組員のライフプランについて、次のように本音を語る。

 「潜水艦は神奈川県横須賀市と広島県呉市の2カ所に配備されているので、幹部は横須賀と呉を行ったり来たりし、曹士はどちらかに定着します。2年サイクルで転勤を繰り返す幹部はなかなか安住の地を見つけ出すことができません。せっかく昇進前に豪華な“持ち家”を購入しても、出世と当時に住めなくなるので、みんな部下の豪邸や高級マンションをうらやんでいますよ」

 このあたりの特殊な事情は、一般企業とは大きく異なるはずだ。潜水艦の乗組員が他の自衛官や公務員、そしてビジネスパーソンよりも金銭的に恵まれた立場にあることは確かだが、この金額が過酷な環境に見合うかは判断が分かれるところだろう。

 彼ら彼女らは、そんなことはお首にも出さずに、今日もどこかの深い海で静かに任務をこなしている。

 いかがだっただろうか。任務の具体的内容や潜訓の詳細については、後編『海自「潜水艦隊」の過酷な訓練・任務、隊員が「死刑宣告」と語る恐怖の音とは?』をぜひご覧いただきたい。

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最終更新:11/21(火) 11:32

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