FRB利上げ、むしろ景気の追い風だとしたら-逆張り論理に脚光

4/17 1:34 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 米経済は毎月数十万人もの新規雇用を創出するなど、リセッション(景気後退)が迫っていると予想していた専門家を困惑させるほどの力強さを維持している。こうした中、ウォール街ではある異端の経済理論がささやかれ始めた。

過去2年にわたる急ピッチの利上げが、実のところ経済を押し上げているとしたらどうか。つまり、金利上昇にもかかわらず経済が堅調なのではなく、むしろ金利上昇のおかげで経済が好調なのではないかとの見立てだ。

学界や金融界の主流派にとってはあまりに過激であり、以前ならポピュリストであるトルコのエルドアン大統領か、現代貨幣理論(MMT)の熱心な擁護派だけが公の場で口にするような異端の理論だ。

しかし、こうした逆張り理論の支持者へと転向した人のみならず、少なくとも興味があると認めるごく一握りの人々も、経済的な証拠を無視できなくなってきていると話す。国内総生産(GDP)、失業率、企業利益といった重要指標の一部は、米利上げ開始当初と同じか、より好調であることを示している。

これは政策金利がゼロから5%超の水準に切り上がったことで、米国民が20年ぶりに債券投資や預貯金から大きな収入を得られるようになったためだと、逆張り理論の支持派は主張する。元デリバティブトレーダーで現在はニュースレター「マクロツーリスト」を執筆しているケビン・ミュア氏は「現実には、人々はもっとお金を持っている」と話す。

こうした人々は(企業も)、新たに手に入れた資金の大部分を消費に回し、需要と成長を押し上げているというのだ。

利上げ局面では通常、こうした人々の追加支出が借り入れをやめた人々の需要減少を補うには不十分なことが多い。これは米金融当局が引き起こす典型的な景気後退(これに伴うインフレ率低下)の原因となる。ミュア氏によると、経済は従来のパターンに従って「急激に減速する」と誰もが予想していた。「だが、そうではなく、おそらくもっとバランスが取れていて、やや刺激的ですらあるかもしれない」と同氏は考える。

ミュア氏を筆頭とする逆張り論者ら(中でもヘッジファンド運営会社グリーンライト・キャピタル創業者デービッド・アインホーン氏は最も有名)は、いくつかの理由から今回は過去の例とは違うと話す。その最たるものが、爆発的に膨らんでいる米国の財政赤字だ。米政府の借金は35兆ドル(約5410兆円)と、ほんの10年前から2倍に拡大した。つまり、政府の借り入れ金利が上昇していることで、毎月500億ドルほどが追加で米国(および外国)の債券投資家の懐に流れ込んでいることを意味する。

この現象によって金利上昇が景気に対して抑制的ではなく刺激的になることは、経済学者ウォーレン・モズラー氏にとっては何年も前から明らかだった。しかし、MMT提唱者の中心的存在として、モズラー氏の解釈は長らくまっとうな理論ではないとして退けられていた。「私はかねてこの点を語ってきた」と話すモズラー氏。主流派の一部がここにきて自身の考えを受け入れるようになったのを目にして、やや正当性が裏付けられた気がしている。

「正気じゃない。理にかなわない」。ミュア氏はこう考え、数年前までモズラー氏を鼻で笑っていた1人だとあっさり認める。だが、新型コロナウイルス流行後に経済が大きく回復した時にデータを精査すると、驚いたことにモズラー氏の考えが正しかったとの結論に至ったという。

「実に奇妙」

バリュー投資家として知られるアインホーン氏は、ミュア氏よりも早い段階でこの理論にたどり着いた。世界的な金融危機を受けて米金融当局が事実上のゼロ金利政策を導入したにもかかわらず、経済が緩慢なペースでしか回復していなかった頃だ。金利を極端に引き上げれば景気を支援しないのは明らかであり、例えば政策金利が8%では借り手への打撃があまりにも大きすぎる。だが、より緩やかな水準に引き上げれば支援するのではないかとアインホーン氏は考えた。

米国の家計は13兆ドル余りの短期利付資産から収入を得ており、利子を支払う必要のある消費者債務5兆ドル(住宅ローンを除く)のほぼ3倍に相当すると指摘する。現在の金利で計算すると、家計にとっては年間で差し引き4000億ドル程度の利益になると同氏は試算している。

アインホーン氏は2月、ブルームバーグのポッドキャスト番組で「金利が一定の水準を割り込むと、実際には景気が減速する」と語った。景気減速を避けるために米金融当局は利下げに踏み切る必要があるとの議論は「実に奇妙だ」という。

同氏は「状況は極めて良好だ」とし、米金融当局が利下げすることで「誰かを助けるとは思わない」と述べた。

とはいえ、明らかにエコノミストや投資家の多くは、金利上昇が成長を阻害するとの従来の原則をなお固く信じている。その証拠として挙げているのが、クレジットカードや自動車ローンの延滞増加や、雇用の伸びが依然として堅調ながらも鈍化している点だ。

ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、主流派を代弁して新たな理論は「的外れ」だと述べる。しかしザンディ氏ですら、「金利上昇による経済への打撃は過去に比べると少ない」と認めている。

新たな理論の支持者へと転向した人々と同様に、ザンディ氏は経済の底堅さを巡ってもう1つの重要な要因に言及している。米国民の多くはコロナ流行時に住宅ローンを30年物の超低金利に固定し、利上げに伴う痛みの大半を免れた(これは利上げに応じて住宅ローン金利も急ピッチで上昇する他の先進国との重大な違いだ)。

ビル・アイゲン氏は、米金融当局が利上げに着手した頃、ウォール街では経済が破滅的な打撃を受けるとの予測が支配的だったと苦笑する。業界関係者は「経済が崩壊するため、1.5%や2%を超える水準に引き上げることはないだろう」とみていたと皮肉交じりに話した。

JPモルガン・チェースの債券ファンドマネジャーであるアイゲン氏は、新理論の全面的な支持者ではない。どちらかというと、理論の大まかな枠組みに共感する陣営に入る。こうしたスタンスから、アイゲン氏は自身のポートフォリオを見直す必要性を感じ、キャッシュを積み増した。この再点検により、同氏は過去3年間においてアクティブ債券ファンドマネジャーでトップ10%に入る。

アイゲン氏はJPモルガンでの本業以外に、フィットネスセンターと自動車修理工場の経営という2つの副業を持つ。どちらの店でも、人々はより多くのお金を使い続けているという。とりわけ退職者でこうした傾向が顕著で、金利上昇の最大の受益者だとアイゲン氏は指摘する。

「突如としてこの可処分所得がこれらの人々にもたらされる」とアイゲン氏。「そして、彼らはそれを実際に使っている」と述べた。

原題:What If the Fed’s Hikes Are Actually Sparking US Economic Boom?(抜粋)

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最終更新:4/17(水) 1:34

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