コロナ禍で封鎖されていた中朝国境が2月にオープン?!春に観光客の受け入れ可能性も出てきた
「2025年2月から北朝鮮への渡航が大幅に緩和される。同年5月に開業を予定している最新リゾートへ投資視察をしないか」
2025年1月中旬、中国朝鮮族の実業家らへのこのような呼びかけが確認された。北朝鮮の最新リゾートとは、北朝鮮南東部・元山にある元山葛麻ビーチリゾートのことだ。
また、コロナ禍前まで中国人向けの北朝鮮旅行をアレンジしていた旅行業者には、「2025年2月以降、定期的な視察ツアーを組めないか」という問い合わせも入っているそうだ。
■まずはビジネス分野での渡航規制が緩和?
2025年2月以降、非観光目的での北朝鮮への渡航規制が緩和される見込みで、視察といったビジネス目的であれば、ほぼ自由化に近い状態になると関係筋は明かす。
2月以降も北朝鮮の受け入れ側からのインビテーション(招聘状)は必要だが、現在は認められていない北朝鮮の旅行会社からの招聘状でも渡航、入国を認める可能性があるという。
これに先立ち2024年12月30日、上海と平壌を結ぶ北朝鮮の航空会社・高麗航空が5年ぶりに運行されたと北朝鮮専門メディア『NKニュース』が伝えた。
すでに北京と遼寧省の瀋陽と平壌を結ぶ定期便は再開されているが、上海便の再開は確認されていなかった。
この路線、定期便のように扱われているが、実は台湾人によるチャーター便である。チャーター便であるからこそ、運休が続いていた理由の1つだと思われるが、コロナ禍前には日曜日と木曜日の週2便飛んでいた。
しかも上海発が午前0時半、平壌発が午後9時40分と、一部の旅好きには便利な深夜便として知られていた。
チャーター便なのに定期運行していたので「定期便」扱いだったという「不思議な」上海便が再開したことも、元山への視察が関係しているのではないか、と前出の関係筋は話す。
搭乗客の多くは、公務などの中国人出張者になるだろう。そこへ元山への視察者が利用することで「採算は取れる」と判断したのかもしれない。上海便は2025年2月以降、定期運行が再開される可能性があるという。
■北東部・羅先にも渡航可能に?
北朝鮮東北部の羅先(ラソン)にも動きがある。2025年1月16日、「羅先への外国人向け観光が再開される」と、イギリス資本で中国を拠点にしていると思われる旅行会社・ヤングパイオニアツアーズが発表した。同時期に、同じくイギリス系の高麗ツアーズ(北京)も発表している。
羅先は特別市なので入国基準やルールが平壌より緩い。平壌への入国が拒否された日本人が、羅先では許可されて入国できたケースも少なくない。そのため、羅先が平壌に先んじて観光再開はありうると考えていた。
しかし、羅先に隣接する中国吉林省の複数の国際旅行社(第1種旅行業の旅行業者に相当)へ確認すると、
「2025年2月から中国人の羅先入国は緩和されるが、観光目的での入国はできない。羅先国際旅行社(日本人を含む外国人観光客を担当する会社)からは、『2月からこれまで平壌がすべて行っていた入出国の判断が羅先特別市へ移管され、今後は羅先が判断することになる』との連絡があった」
という。
これは、平壌を通さずに羅先が独自に入出国許可を出すとの意味だが、全権移譲とはどういうことなのか。
北朝鮮は、外国人の入国を中央政府が強力にコントロールすることで体制を維持している。入国判断の決定権は、体制維持の肝と言っても過言ではない。それをすべてを移譲するのは考えづらいが、緩和や部分的な移譲ならありうるだろう。
とはいえ、「2月から羅先観光が再開される」という話は、実は中国の旅行業界からはさっぱり聞こえてこない。
「羅先観光が再開される」と発信したヤングパイオニアツアーズも高麗ツアーズも中国では無資格の旅行サービス会社だ。それゆえ中朝合意に至っていない、あるいは基づいていないところから北朝鮮側の発言なりを一方通行で流すことがこれまでにもあった。
羅先は中国とロシア、とりわけ中国から強い影響を受けている。事実上、中国の借款状態となっている施設も少なくない。そのため、平壌よりも先に観光入国を再開させることは考えられると触れたが、その場合でも「中国人が先になると思う」と吉林省の旅行業者は話す。
今の中国の社会風潮からすれば、「外国人が優先」などと少しでも国民から思われると、不満を鬱積させている国民の怒りが中国政府へ向きかねない。中国当局は情報の出し方にも神経を尖らせているのだ。
■3月からの往来完全正常化の話も
一方で、観光を含めた往来正常化の情報も流れてきた。
「北朝鮮観光の再開、往来正常化への道筋が見えてきた!」。瀋陽のある旅行業者は、今度こそ中朝国境が開放され往来が正常化する可能性が高まってきたと期待感を示す。
2024年12月下旬、2025年3月1日から北朝鮮観光が再開されるとの通知画像が、中国SNSへ投稿されて拡散した。
この通知は、訪朝する日本人も担当する北朝鮮の朝鮮国際旅行社が2024年10月16日付けで出したものとされた。しかし、複数の旅行業者へ確認しても知らず、そのため信憑性は低く、フェイク画像の可能性もある。
しかし、前述の瀋陽の旅行業者は「早ければ2025年3月の往来正常化もありうるし、遅くても5月のメーデー連休(ゴールデンウィークに相当)前までには開放されるのではないか」と打ち明ける。「メーデー連休前に往来正常化」という話は、瀋陽にある北朝鮮領事館関係者が語った話だという。
2025年3月上旬に往来再開が発表されれば、現在「ロシア人が大量にエントリーしている」とロシアメディアが報じている、同年4月中旬開催予定の「平壌国際マラソン大会」へのエントリーにも間に合うかもしれない。
ロシアは国策的に過去最多人数、オリンピック級の選手も平壌マラソンへ送り込むのではとの情報も飛び交っている。
現時点で、ロシア経由なら北朝鮮への観光入国ができる。しかし、なぜかロシアの友好国であるはずの中国人は、ロシア経由での入国はできないそうだ。
もし、本当に2025年3月に中朝の往来正常化が実現すれば、大量の中国人アマチュアランナーが平壌の街を疾走する光景が見られるのかもしれない。
だが2024年秋以降から中朝間の動静をウォッチしていると、中国政府の焦りをどうしても感じざるをえないのだ。
北朝鮮のロシアへの急接近は、経済的に大きく依存している中国から離れる“脱中国”も意味する。そのため、中国の習近平国家主席は、北朝鮮の金正恩総書記に対して強い不満と不信感を抱いていると伝えられる。
「中国が国境を接する14の国で、いまだに国境封鎖をしているのは北朝鮮だけ、理解できない」と朝鮮族が嘆くように、中国は半ば制裁的に中朝国境の封鎖を継続し、人的往来も制限した。2024年は「中朝友好年」だったのに、友好らしいイベントもなく寂しいままで終わったと考えられている。
■トランプ政権発足で中国に焦り?
しかし、ロシア問題を棚上げにしてでも、北朝鮮へ妥協とも言える動きを中国が見せる背景には、2025年1月21日(日本時間)に返り咲いたアメリカのトランプ大統領の存在が影響している、と朝鮮族実業家はみている。
2期目のトランプ大統領は移民問題や物価対策など国内問題を片付け、イスラエル・パレスチナの中東問題、ロシアによるウクライナ侵攻に一定のメドをつけたら、次は北朝鮮問題へ動き出すのではないかと考えられているようだ。
1期目には米朝首脳会談を3度行っているので、当たり前のように中国をスルーして、直接「ディール」(交渉)で金正恩総書記との首脳会談を実現させる可能性が高い。
中国としてはその前に、アメリカ対策ということもあり、北朝鮮を中国側へ何とか引き寄せておきたいという思惑もみえてくる。
中朝国境の主導権は中国政府が圧倒的に強く握っている。北朝鮮にとっては生殺与奪権と言ってもよいだろう。トランプ新政権や中国のアメリカ対策で、北朝鮮には多少のうま味を与えてでも中国側へ少しでも引き戻しておきたい――。
だからこそ今春、北朝鮮への往来を正常化させ経済を活発化させる可能性が高まってきたようだ。
東洋経済オンライン
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最終更新:1/25(土) 8:02