2つのユニコーンをグーグルとインテルに売却!希代の起業家を成功に導いた、正しい「失敗」の仕方

3/29 8:02 配信

東洋経済オンライン

2つのユニコーン(創業10年未満、評価額10億ドル以上の未上場企業)を生み出し、グーグルに11.5億ドル、インテルに10億ドルでイグジットしたユリ・レヴィーン氏。希代の起業家が提唱するスタートアップの基本的な考え方は「問題に恋する」ことだと言います。これまでの経験や思考の軌跡をもとに、レヴィーン氏が新しいアイデアを実現するために必要なことを解説します。

※本稿はレヴィーン氏の新著『Love the Problem 問題に恋をしよう ユニコーン起業家の思考法』から一部抜粋・再構成しています。

■スタートアップに必要なのは「完璧」ではない

 失敗の旅には、どのくらいの時間をかけるべきか。答えは、「何年も」だ。やり方がまずいわけではない。

 スタートアップの成功には、運と正しい実験という2つの要素が関連するからだ。

 もちろん、最初の挑戦でうまくいけば、もっと早く動ける。運はいつでも助けてくれる。

 フランスの哲学者ヴォルテールはかつて、「完璧は善の敵」と言った。スタートアップの世界に向けて少し言い換えるなら、「完璧は『必要十分』の敵」だ。「必要十分」は、市場で勝つには十分なことが多い。

 必要十分な商品が市場にあると想像してみよう。

 プロダクトは実際に使われ、顧客は戻ってくる。さて、あなたがそれよりもよいプロダクト、つまり完璧なプロダクトを作っているとしよう。

 一番の課題は、乗り換えてもらうことだ。今使っているものが十分なら、ほとんどの人は乗り換えない。

 俊敏性(アジリティ)は、社内の誰もが持つべきマインドセットだ。研究開発やプロダクト開発チームだけに限らない。

 常に新たなことに挑戦し、それと同時に、失敗に備えることが必要だ。それは個人にも企業にも言える。起業家として最も重要な心構えは、非常にシンプルだ。つまり、「これを試してみて、うまくいくか様子をみよう」である。

■なぜイスラエルは人口あたりの起業家数が多いのか? 

 失敗への恐怖は文化的なものでもある。失敗が許容されない国では、国民1人あたりの起業家数がほかの国より少ない。

 例えば、失敗が許されるイスラエルでは、国民約1400人に対して1社のスタートアップがあるが、ヨーロッパでは2万人に1社だ。シリコンバレーも失敗への恐怖が小さく、人口あたりの起業家数が多い。

 失敗への恐怖が大きな文化では、すすんで挑戦する人が少ない。だが、失敗への恐怖が小さな文化では、すすんで挑戦する人の数が増える。

 計算式はとてもシンプルだ。失敗への恐怖と変化にともなうコストを足したものより情熱が大きければ、人は起業家への道を選ぶ。

 私が育った家では、父にアイデアの話をすると、それがどんなに途方もないアイデアだったとしても、「試しにやってみようか?」と言われた。うまくいかなくても、白黒つけることはなく、ただ「何を学んだ?」と聞かれる。

 そうした環境で育ったことで、失敗への恐怖は薄らいだが、それだけではなかった。

 それにより自信が高まり、自分を信頼する力がついた。

 これを実践するにあたり、忘れてはいけないこと。それは、決して白黒つけないことだ。

 もちろん、それだけが起業家を作るわけではない。必要なものはほかにもある──好奇心、知性、何事も当たり前と考えない態度、そしておそらく問題児であることだ(私は高校時代、教師に嫌われていた。授業から追い出された回数は、サボった回数に次いで多かった)。

 繰り返す。失敗を恐れることは、すでに失敗なのだ。その旅はそれ以上続かないからだ。スタートアップの起業でも、それ以外のことでも、同じことが言える。

■起業を促すには社会的な取り組みが必要

 私は起業家向けにさまざまな講演会やイベントで話をする。ラテンアメリカでは3~4回、こうたずねられた。

 「どうしたらスタートアップ国家イスラエルのように、人口あたりのスタートアップの数を増やせますか?」

 「何をすべきか」は比較的簡単だが、まず理解すべきなのは、10~20年はかかることと、行動や決断に忍耐を要することだ。結局は、失敗への恐怖を和らげる文化的な変化を体系的に見直すことになる。

 そのためには、起業家を後押しする公共的、規制的、社会的な取り組みが必要となる。

 例えば、次のような取り組みが行なわれるべきである。

 ●起業家が必要とする規制作りを行なう。アメリカの投資家がテルアビブのスタートアップに投資しても、投資家にはイスラエルで税金がかからない。だが、ブラジルのスタートアップに投資すると、ブラジルでは税金を払う必要がある。さらにひどいことに、失敗すると投資家が責任を負わされる恐れもある。

 ●メディアは起業家精神を称えるべきである。起業家は世界を変えようとする真の英雄であることを伝えなければならない。誰が成功したかではなく、誰が挑戦したかを伝えるべきだ。

 ●起業家を導くメンターシッププログラムを導入する。

 ●起業家を支援する国家・政府系・公共ファンドを作り、例えば、新たなスタートアップへの1対1のドルでの投資リスクを分担するため、スタートアップが資金調達できたら、政府がマッチングファンド(民間VCが投資した残りの資金を政府が提供する)を提供し、結果として投資家により有利なエコシステムを作る。

 ●エンジニアになる人を増やす。若者がエンジニアリングを学ぶことを推奨する。それと同時に、エンジニア移民が地元のIT企業で働くことを許可する。

 計算式を思い出そう。起業家が起業の旅に踏み出すのは、失敗への恐怖と変化にともなうコストの合計よりも、情熱が大きくなったときだ。

■起業家の原動力は「情熱と熱意」、そして「思い込み」

 失敗に関して言えば、スタートアップは大企業や行政機関とは、まったく異なる組織体だ。行政機関では、変化を生み出さなくても解雇されない。それどころか、新たなことに挑戦して失敗すれば、クビになるかもしれない。

 一方、起業家は毎回同じ熱意を胸に、今度はうまくいくと信じて、新たな取り組みに挑戦する。それまでに何度挑戦し失敗していようとも、今度はうまくいくと確信している。

 その情熱、熱意、そして、今度こそはと思い込む力こそが、失敗の旅の原動力だ。その信条がスタートアップの本質だ。

 どの実験をいつ行なえばよいかについていえば、それは常にPMFを見つけることからはじまる。そこから、成長、スケール、ビジネスモデルを追加していく。

 失敗に備えること、そして、早く失敗することは、ビジネスを立ち上げるときに習得すべき、最も重要な考え方だ。

 例えば、仮説の10%しかうまくいかないとしよう。最終的に1つが成功すれば、それで十分だ。マインドセットを変化させるのだ。

■「失敗を恐れるDNA」こそが「失敗」につながる

 何かを計画して、それがうまくいかなかったとしよう。

 「誰の責任だ」と問いただせば、責めるべき人を探すことになる。そのアプローチでは、失敗の旅は前に進まず、さらなる実験にも乗り出せない。

 その代わり、「何が起こり、そこから何を学んだか?」と問えば、会社のDNAはまったく異なるものになる。

 誰の責任かを問いただせば、失敗を恐れるDNAが生まれる。新たなことに挑戦して失敗したら、自分が責任を負わされるのだと、そこにいる誰もが感じ取る。

 実際には、その逆であるべきだ。つまり、挑戦者こそが勝利する。失敗の旅が会社のDNAに組み込まれたら、会社では誰かが常に「新しいアイデアがあるんだ。試してみよう」と声を上げる。

 それこそが起業家の求めるべき行動だ。新たなアイデアに耳を傾け、最終的には、そのアイデアを実践するようにチームのメンバーを促そう。たとえそれがーーとくにそれが、失敗するアイデアなら。何より重要なのは、誰かが新しい何かに挑戦しようと決意することだ。

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最終更新:3/29(金) 8:02

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