電動で垂直に離着陸し、都市の上空を静かに飛ぶ。そんな「空飛ぶクルマ」の商用化が近づいている。正式には電動垂直離着陸機(eVTOL)と呼ばれる航空機の一種で、日本政府は2030年頃の本格普及を見据えたロードマップを策定済みだ。世界では主に6社が型式証明の取得を目指して開発を競っている。
その中で日本から挑むのがSkyDriveだ。愛知県豊田市に拠点を置くスタートアップで、2028年の商用運航開始を掲げる。7月1日にオンラインで開催した活動報告会では、山口県の飛行試験場で海上を高速飛行する最新映像を公開した。機体の開発は着実に進んでいる。残る関門は、機体の認証と、飛ばすための制度づくりだ。
■都市内の移動に絞ったマルチローター型
空飛ぶクルマには、主翼を持つ「固定翼型」と、複数のローター(回転翼)だけで飛ぶ「マルチローター型」がある。固定翼型は航続距離が長く都市間の移動に向き、米Joby Aviationなど5社が開発を進めている。マルチローター型は機体がコンパクトで、狭い場所にも離着陸しやすい。
SkyDriveは後者を選んだ。執行役員の福原裕悟氏は「東京やニューヨークなど大都市のタクシーの平均乗車距離は5km未満。主要空港から都心までも概ね30km以内だ。都市内の移動に集中するなら、コンパクトなマルチローターが最適だ」と説明した。国際基準の型式証明をマルチローター型で進めているのは、世界でSkyDriveだけだ。
機体「SD-05」はパイロット1人と乗客2人の3人乗りで、12基の電動ローターを備える。1基が停止しても飛行を継続でき、2基が停止しても安全に戻れる冗長設計とした。上空150mを飛行する際の地上での騒音は65デシベルで、自動車が近くを通るよりも静かだという。これまでに約300回のフライトを重ね、技術的な成立は実証できたとしている。製造はスズキと提携し、静岡県磐田市の同社工場の一部に生産拠点を整備している。
■型式証明は6段階中4段階目
商用化に向けた最大の関門は、国土交通省からの型式証明の取得だ。SkyDriveは2021年10月に申請を受理され、現在は全6段階のうち4段階目「証明計画」の策定に入っている。
プロセスは、申請受理→適用基準の合意→証明手法の合意→証明計画の合意→試験・解析→適合性証明と進む。学校の試験に例えれば、出題範囲を決め、解き方を決め、受験日程を組んでから、ようやく本番の試験に臨むような流れだ。証明手法は95%まで合意し、証明計画では全体方針にあたるジェネラル・サーティフィケーション・プランについて航空局と合意済みだ。残る個別分野の計画を一つずつ詰めている。
2026年4月にはADO(航空機設計検査認定事業場)の認定を航空局から受けた。一部の検査を航空局に代わって自社で実施できる制度で、空飛ぶクルマのメーカーとしては国内初となる。これまでにADOを取得した企業は三菱重工業やSUBARU航空宇宙カンパニーなど5社しかない。米国連邦航空局(FAA)にも型式証明を申請しており、日米間の二国間航空安全協定(BASA)に基づき、日本の航空局が主導して認証を進め、FAAが同時に審査する。
ただし取得時期について、SkyDriveは明確な期限を示していない。申請から4年半以上が経過し、試験・解析はこれからだ。機体は約300回の飛行で技術を実証し、後述するように427機のプレオーダーも集めた。技術と事業が先を走り、認証だけが異なる時間軸で動いている。2028年という目標の不確かさは、この構造から生まれている。
前日にはJoby Aviationとトヨタ自動車がeVTOLの生産に向けた合弁会社の設立を発表した。業界全体が加速する中で、認証プロセスのスピードが商用化の時期を左右する。
■ビル屋上の「Hマーク」146カ所を使えるか
機体の認証と並ぶもう一つの課題が、飛ばす場所だ。大阪市には緊急時の離着陸用としてビル屋上に「Hマーク」が146カ所ある。SkyDriveはこれをエアタクシーの離着陸場として活用する構想を持ち、その可能性を調べる事業が内閣府のスーパーシティ調査事業に採択された。
実現へのハードルはどこにあるのか。緊急離着陸場はもともと乗客が日常的に出入りする導線を想定して作られていない。屋上までの動線や高速充電設備の設置が課題になる。一方、耐荷重は大きな問題にならないという。ビル屋上の離着陸場はツインエンジンのヘリコプターが降りる前提で設計されており、SD-05の最大離陸重量1.4トンはそれより軽いためだ。
福原氏は機体の特性が有利に働くと説明した。ヘリコプターは斜めに進入して斜めに離陸する前提で、周囲に高いビルがあると使えない離着陸場が生じる。SD-05は垂直に上がれるため、ヘリコプターでは使えない場所にも降りられる可能性がある。ただし周囲をビルに囲まれた場所での運用は現行法制との兼ね合いがあり、SkyDriveでPR室長を務める宮内純枝氏は「規制緩和が壁になる」と見ている。調査事業ではこうした課題を検証し、成立すると判断できれば事業化に進む。
制度づくりはパイロットにも及ぶ。福原氏によると、2028年の時点ではヘリコプター(回転翼機)の事業免許保持者に型式限定の訓練を施して資格を付与する。資格は機体の型式ごとで、他社の空飛ぶクルマとの共通免許にはならない。
パイロットの数は商用化の規模を左右する。当面は1機を飛ばすのに1人のパイロットが必要で、バックアップ要員も含めると機体数の数倍の人数を確保することになる。福原氏は、運航実績の蓄積に応じて固定翼機のパイロットにも候補を広げることを航空局と協議していく考えを示した。
10年スパンでは自律飛行を目指す。自動車ほど手軽にはならないものの、段階的に操縦を簡単にし、最終的にはパイロットなしで飛ばせる状態を視野に入れる。
■プレオーダーは427機に
機体のプレオーダーは427機に達している。海外ではヘリコプター運航会社からの引き合いが目立ち、インドのムンバイではスズキと組んで事業開発を進める。インドネシアでは最大級のヘリコプター運航会社Whitesky Aviationが30機をプレオーダーし、ジャカルタの空港と都心を結ぶ航路を計画している。UAEではヘリコプター会社が50機の購入に合意し、ドバイの観光スポットでの商用飛行を目指す。運賃は2月の飛行実証の際に、2030年にタクシーの2倍以下を目指すと説明している。
国内では鉄道会社との連携が進む。大阪メトロとは「大阪ダイヤモンドルート」構想を展開し、森之宮新駅、新大阪、梅田、天王寺阿倍野エリアなどを空路で結ぶ。鉄道駅に空飛ぶクルマのポートを設置する例は森ノ宮新駅が世界で唯一だという。JR九州とは湯布院・別府間のルートを検討し、NEXCO西日本とはサービスエリアへのバーティポート設置で提携した。宮内氏は「大阪と九州・大分がファーストケースになり得る」との見方を示した。
日本成長戦略会議の注力分野の候補にも空飛ぶクルマが挙がっている。機体の技術は形になり、買い手も現れた。残るのは型式証明と、降りる場所と、飛ばす人の制度だ。2028年に乗れるかどうかは、この3つがどれだけ速く整うかにかかっている。
石井 徹 :モバイル・ITライター
最終更新:7/9(木) 10:00