東京都西部の中核都市・八王子市。2025年3月末時点の人口は約56万人で、面積は約186平方キロメートルと東京都の市区町村の中で2番目の広さを誇る。
江戸時代には甲州街道の宿場町として栄え、交通の要衝として発展してきた。現在は新宿まで約40分とアクセス性に優れ、多摩地域の中心都市として存在感を示している。
JR八王子駅周辺では再開発が進み、街の姿は大きく変わりつつある。本稿ではJR八王子駅周辺を歩き、その現状と将来性をレポートする。
■新宿へ40分、山梨、長野へのアクセスも良好
八王子市は面積が広いため、大きく6つの地域に分けられている。JR八王子駅周辺は中央地区で、東南地区には多摩ニュータウンが広がり、西南地区には全国的に知られる観光地・高尾山が位置している。
地域ごとにそれぞれ異なる特色を持つが、6つの地域の中で、最も知名度が高いのはやはり中央地区だろう。
JR八王子駅には中央線・横浜線・八高線が乗り入れ、中央線快速で新宿駅まで約40分、有料特急を利用すれば山梨・長野方面へのアクセスも容易だ。
JR東日本によれば、八王子駅の1日平均乗車数は約7万7000人に上る。乗降客数を合わせた数はそのほぼ倍と推定され、1日10万人を超える規模に達すると考えられる。
またJR八王子駅から徒歩5分ほどの場所には京王八王子駅があり、ここからも新宿や高尾山方面へ向かうことができる。京王電鉄によれば、京王八王子駅での1日平均乗車数は約4万8000人に上る。
また、2027年以降には、神奈川県相模原市のJR橋本駅近くにリニア中央新幹線の新駅の開業が予定されている。JR八王子駅から橋本駅までは、JR在来線を使えば12分で到着する。
リニア中央新幹線の開業は2034年になるとも言われているが、将来的に、居住地としての八王子の魅力を高める要因となるだろう。
■バス交通の拠点でもある八王子駅
JR八王子駅からは、バス移動も便利だ。北口・南口の両方にバスターミナルがあり、多くのバスが発着する。
北口からは西東京バスと京王バスが運行している。日野駅、豊田駅、高尾駅方面のほか、創価大学や工学院大学へ向かう路線や、大阪・群馬・高松に向かう高速バス乗り場も整備されている。
南口にも神奈川中央交通と京王バスの乗り場があり、南大沢駅、八王子みなみ野駅、法政大学、多摩ニュータウンといった市内各所のほか、隣接する相模原市の橋本駅へもアクセス可能となっている。
主要路線は、日中でも比較的短い間隔で運行されている。朝夕のピーク時にはさらに本数が増えるため、多くの利用者にとって便利な環境だ。
JR八王子駅と京王八王子駅の間には連絡通路がなく、乗り換えには地上を移動する必要がある。
雨天時や大きな荷物を抱えた移動、高齢者や子育て世代には負担となり得るが、両駅間の道路は平坦で店舗が立ち並び、移動にはとくに大きな不便を感じない。
■駅徒歩圏内にタワーマンション建築工事が進行中
目立って活気があるのは、JR八王子駅北口エリアだ。駅はペデストリアンデッキ「マルベリーブリッジ」を通じて商業施設の「八王子オクトーレ」、「ユーロード商店街」と直結しており、回遊性が高い。
ユーロード商店街は、老舗の商店街ながら学生や家族連れで賑わい、周辺にはスーパーや学習塾なども点在する。JR八王子駅周辺はファミリー層から単身者、学生まで多様な暮らしに対応できる環境が整っている。
北口から徒歩5分程度の中町エリアでは、「(仮称)八王子市中町計画新築工事」が進行中だ。この計画では、高さ約102メートル、29階建てのタワーマンションが建設され、店舗も併設される予定となっている。
2025年9月に着工し、2029年4月の竣工を目指している。2028年にはJR八王子駅西側に32階建てのタワマン「ルネタワー八王子」も竣工する予定で、数年以内に八王子駅周辺の街並みは大きく変わると言える。
■南口では地域交流の拠点が2026年に開業予定
JR八王子駅南口は、北口に比べて落ち着いた雰囲気が漂う。
駅直結の「サザンスカイタワー八王子」は、高さ約158メートル、地上41階・地下2階建ての複合施設で、多摩地域屈指の高層ビルとして南口のランドマークとなっている。
ただし駅前にこそ商業施設があるものの、信号を渡るとすぐに住宅地が広がっている。
南口から徒歩10分程度の子安町1丁目は、八王子駅周辺の住宅地では最も地価が高い。2025年1月1日時点の地価は1平米あたり32万円で、前年同月比で約6%上昇した。
南口エリアでも、新たな開発が進んでいる。駅から徒歩約10分の八王子医療刑務所跡地では「八王子駅南口集いの拠点(仮称)」の整備が進行中で、市民から公募した結果、愛称は「桑都の杜(そうとのもり)」に決まった。
桑都の杜では、公園、憩いのライブラリ、歴史・郷土ミュージアム、交流スペースを組み合わせた複合施設が、2026年10月に開業する予定となっている。
桑都の杜は今後、市民の憩いの場としてだけではなく、地域交流の拠点となることが期待されている。
なお、桑都の杜に「桑」の字が用いられているのは、かつて同地が養蚕や絹織物で栄えた歴史に由来する。
八王子駅前にはほかにも「くわ」や「桑」を冠した店舗や道路名が散見され、桑都の杜にも地域の伝統を受け継ぎながらブランド価値を高めようとする狙いが感じられる。
■人口は転入超過も、20代は市外へ流出
八王子市は高度経済成長期に人口が急増し、1965年には約20万8000人だったところ、2010年には約58万人に達した。
しかしその後は減少に転じ、推計では2040年に約47万9000人、2060年には約36万8000人まで減少すると見込まれている。
世帯数は2025年をピークに減少に向かい、2040年には単独世帯が約41%に達する見通しである。
ただし社会動態だけを見れば、2024年度のデータでは転入が2万7240人に対し転出が2万4233人と、3007人の転入超過を記録している。
同年時点の市民の定住意向(「八王子市に住んで良かったと思うか」)は80.1%と高い。とくに「緑豊かな自然環境」や「医療・ごみ処理サービスの充実」が評価されており、市民が満足していることがうかがえる。
転入・転出者を年齢別に見てみると、10代後半が目立って多い一方、20代で市外へ流出する傾向が顕著に見られる。これは、同市の学園都市としての側面が影響している。
八王子は、多摩地域を代表する学園都市としても知られるまちだ。市によれば、2023年度の時点で、市内に21校の大学・短期大学・高専があり、約9万人の学生が在籍しているという。
駅前のロータリーには大学直通バスやスクールバス専用停留所が設置され、日常的に学生の姿が目立つ。
一方で課題となるのが、卒業後の市外への流出だ。市の調査では学校卒業後に「八王子に住みたい」と答えた学生は9.7%にとどまり、「住まない予定」との回答が51.0%と半数を超えている。
住みたい理由として「自然環境が良い」(31.2%)、「都心から離れて落ち着く」(25.8%)、「交通の便がいい」(15.7%)が上位に挙げられるなど、市の魅力が評価されている側面もあるが、人口減少を食い止める要因には至っていない。
こうした課題に対応するため、市は2024年度から「第2期はちおうじ学園都市ビジョン」を推進。地域課題の解決や産学公連携、就職支援や生活環境整備など7つの基本方針を掲げ、学生の定着を目指している。
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JR八王子駅周辺は現在、北口のタワーマンション建設や南口の「桑都の杜」整備などが進められ、大きく変わろうとしている。
都心からやや距離はあるものの、JR線と京王線が利用でき、バスの本数も多い八王子駅は交通利便性が高いと言える。
「都心で働き、八王子に住む」という選択肢は、都心の不動産価格が高騰しているいま、現実的なものとなっている。
市民の定住意向の強さは、不動産市場を支える強みと言える。一方で、人口減少や若い世代の転出といった課題にも直面している。再開発の動きと人口の推移を見極めながら、長期的な視野で可能性を探っていきたい。
薗部雄一/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待 編集部
最終更新:10/13(月) 19:00