星野源を語る2つの文章に見える冷静と情熱の間 「読むラジオ」と見立てAMとFMを使い分けよう

5/23 12:02 配信

東洋経済オンライン

人に刺さる文章を書くにはどうしたらいいでしょうか? 
その1つとしてご紹介したいのが「自分の中にある情熱と冷静をコントロールする」という考え方。エンタメ系トップブロガー「かんそう」さんが培ってきた文章にまつわる「考え方」「書き方」をまとめた著書、『書けないんじゃない、考えてないだけ。』から一部抜粋、再構成してお届けします。

■鳥が大空を羽ばたくような「AMの文章」

 私は自分のブログの文章と他媒体での文章では、大きく文体を変えています。そのときに重要なのが「文字から声が聴こえるか」です。

 書きながら必ず声に出して読んでみる。さらにそれを録音し、イヤホンで繰り返し聴く。そうすることで文章と自分が一体となり、この内容にはどういう言葉遣いや句読点のリズムで書けばいいのかが、驚くほど鮮明になってくるのです。この技法にあえて名前をつけるなら「読むラジオ」。

 そして、その内容によってチューニングを高校の部室を覗くようなニッチで濃い話をするAMに合わせるか、老若男女が安心して聴ける話をするFMに合わせるか使い分けています。

 他人と過去は変えられないけど、自分と未来は変えられるのだから。

 例えば、私は自分のブログ「kansou」では昔からの読者に楽しんでもらうために、語りかけるような口調で書き進めることが多いです。

 まずは、「AMの文章」をご覧いただきましょう。

私は一重でくせ毛のやせ型の男なのですが、他人から「星野源に似てるね」と言われることが多々あります。
それを素直に褒め言葉として捉えられると良いのですが、私自身自分のビジュアルが全く好きではないのと、星野源の音楽の大ファンであるという理由から、その言葉に対して強い反発を覚えてしまいました。それを綴ったのが、以下の文章です。

「一重でくせ毛のやせた男」あるあるで、初対面の人間に「星野源に似てるね」ってめちゃくちゃ言われるんですけど、俺はもう限界だよ。
生まれたときから常に一重でクセ毛のやせた男である俺は「星野源に似てる」って言われて嬉しかったこと一回もない。心の底から1ミリもなりたくねぇんだよ。
俺がな、いま一番なりたいのは「King Gnu常田」一択なんだよ。「君はまるで常田だね」と言われた時点で俺はその場で海になるほどの大量の嬉し涙を流す。

でも、無理なんだよ。目が鼻が口が体格が髪質が、俺という人間を形成する全ての要素が「お前は常田ではない…」と囁いてくるんだよ、俺は天地がひっくり返っても常田にはなれねぇ運命を背負ってるんだよ、だから歯食いしばりながら必死に星野源やってるんだよ。
そんな星野源を背負いし俺に
「一重でくせ毛のやせた男の最大値=星野源」
の方程式を当てはめるな。星野源というバカデカ風呂敷で俺を包もうとするな。とりあえずあまりにも俺に対する話題が無いからっつって「星野源に似てるね」とか言っておけば場が持つと思うなよ。噓でも「えっ?  森田剛かと思った」って言え。

あと「星野源に似てる」とか言ってくる奴の星野源の引き出し「逃げ恥」「恋」「どん兵衛」「ガッキー」「ドラえもん」くらいしかないのマジでいい加減にしろ、俺に「星野源に似てる」って言うんだったら最低でも、全曲聴いて全部のドラマ映画観ておげん観てオールナイトニッポン毎週聴け。星野源からの寺ちゃんの話にスライドできるやつだけが俺に星野源の話を振ってこい何が「恋歌える?」だよ「営業歌える?」だろ普通。俺の前で平匡の話をするな、志摩か四宮の話をしろ。

(kansou「一重でくせ毛のやせた男に「星野源に似てる」って言ってくる奴、だいたい星野源のこと全然知らない」より)

■体裁よりも「爽快感」を意識

 このように、体裁を整えたきれいなものではなく、読んだ人の脳がトリップして気持ち良くなるような「爽快感」を意識して文章を書いています。

 これが「AMの文章」です。

 読む人によっては攻撃的で下品だと思われるかもしれませんが、これが私が最も感情の乗る文章表現なのです。「AMの文章」にルールはありません。自分にとって一番自由に書ける言い回し、いや「書き回し」を見つけていく。 感覚としては、鳥が大空を飛んでいるようなイメージです。そのとき感じた想いを脳からそのまま直接指に投影する。これを「情熱:10 冷静:0」としましょう。

■コースを走るレーシングカーのような「FMの文章」

 対して、ブログではなくライターの仕事として文章を書くのであれば「情熱:6 冷静:4」と情熱の部分を少しだけ薄めます。

 ウェブメディア「クイック・ジャパン ウェブ」の連載で星野源がテレビ番組『あちこちオードリー』に出演した回について書かせていただいた記事を一部抜粋します。

「ずっと主軸をやってきた人間というよりかは、主軸じゃないんだなっていうのを自覚している人間で。自分が思っているものを主軸にしていきたいって感覚をずっと持っているので、最初のころはそういうのに気づいてくれる先輩がたまにいて、褒めてくださったりするんですけど、だんだん自分のやってることが主軸になってくるにつれ、なんか普通……なんか『星野源って当たり前にポップな人だよね』って思われてて、違うんだよなぁって思ってて、それがだんだん褒められなくなってくる、当たり前になってるって感じはありますね」

サラッと言っていたが、言葉どおり星野源が「自分の音楽を主軸にした」ことのすごさに改めて身震いした。おそらくほとんどの人は星野源の音楽を聴いて「マニアックだな~」とは思わない。それほど自然に星野源はポップの中にマニアックさを両立させている。
大衆が「わかりやすい!  ポップだ!」と思って摂取している星野源の音楽の中には数滴、アンダーグラウンドでマニアックなドロドロの汁が混ざっている。毎晩食べている夕食に少量の薬物が混ざっていて、少しずつ中毒になっていくような恐怖と気持ちよさ。そうなってしまうともう、星野源からは逃げられない。(①)心境の変化はあれど(②)、星野源の作る音楽の「根」の部分はいい意味で変わっていない。そのなかで時代が星野源に追いついた、いや星野源が時代を動かしたと言えるのではないだろうか(③)。

そんな星野源が『あちこちオードリー』という番組に出るのは、今となっては必然のようにも思える。2012年にリリースした楽曲「フィルム」の中に「笑顔のようで 色々あるなこの世は」という歌詞があるが、『あちこちオードリー』の番組に恐ろしいほど当てはまるフレーズだ。

普通ならゴミ箱に捨てるしかない、犬も食わない愚痴や苦労話を最高におもしろいコンテンツへと昇華していくこの番組と、「愛」と「糞」を同時に曲に込める星野源はまさに親和性の塊、今回が初めてなのが不思議でしょうがない。そしてそんなふたつがついに出会ってしまった。文字どおり奇跡の回だった。

そしてもうひとつ、本編とは別の奇跡が起こっていたのにお気づきだろうか。星野源には忘れてはならない最大の武器がある。そう「エロ」である(④)。
『あちこちオードリー』のニューヨーク、小島瑠璃子ゲスト回で、兄弟番組『かちこちオードリー』が爆誕し、SNS上では星野源回との内容の差に「落差が激し過ぎる」「先週のかちこちオードリーはなんだったんだ」といった声が挙がっていたが、勘違いしないでいただきたい。番組の流れ上、ああいった真剣ガチトークになってはいたが、星野源は紛れもなく『かちこちオードリー』側の男であると。どれだけ売れようが、誰と一緒になろうが、TENGA愛を語り、FANZA愛を叫ぶ、星野源のエロと性に対する探究心は常軌を逸している。いや、むしろ星野源こそが「真のかちこちオードリー」と言っても過言ではない。(⑤)

今回は売れるまでの葛藤や創作をする上での苦悩を語っていたが、もしまた番組ゲストで出演することがあるのなら、ぜひ『かちこちオードリー星野源SP』を放送してほしい。ニューヨークも交えて5人で「自分磨きトーク」をしてほしい。そう強く思った。
(クイック・ジャパン ウェブ「星野源の嘘のなさを『あちこちオードリー』で改めて感じた」より)

■どんな文体だろうと書き続ければ自分の文章に

 ブログの記事ではほとんど使わない「あれど②」、「だろうか③」、「である④」といった少し硬い言い回しを使い、「冷静な大人としての文章」の体裁を整えています。

 しかし、星野源を表す表現に関しては少し情熱を混ぜる①⑤。イメージとしては、決められたコースを走るレーシングカーの感覚です。冷静さを保ちつつも、変えるべきポイントでは情熱を混ぜて、少しアクセルを踏む。これが「FMの文章」です。

 ●どこで(場所)

 ●誰に(読者)

 ●どんな(内容)

 この「文章の3D」を意識し、多面体のように文体を変えていく。

 繰り返しになりますが、どんな文体だろうと「その人間が」書き続けていれば自分の血肉となり個性となっていきます。

 最初はなかなか反応がもらえないこともあると思います。でも諦めないでください。私も最初はそうでした。 しかし、ブログの読者数が一桁のときから内容や文体を試行錯誤し、休まずに10年書き続けたからこそ、今の自分を手に入れました。

 あなたも文章を書き続けていれば、自分の名前を明かさなくても「◯◯さんの文章かと思ったらやっぱり◯◯さんだった」と言われる日がきっと来ます。 そして、自分自身が文章そのものになる。その感覚を味わってみてください。

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最終更新:5/23(木) 12:02

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