「プラザ合意」再び? トランプ大統領で為替相場はどうなる

2/16 16:13 配信

THE PAGE

 アメリカのトランプ大統領が掲げる政策はインフレ率の押し上げを通じてドル高を招くと理解されています。ただ、一方でトランプ大統領は低金利政策を好むドル安論者として知られています。トランプ政権の誕生によって為替がどう動くのか。日米の金融政策を踏まえ、今後を展望していきます。(第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミスト)

<FRBは様子見か>

 FRB(連邦準備制度理事会)は、昨夏に失業率が上昇に転じるなど景気後退の懸念が高まったことを受けて、2024年9月から12月まで累積1%ptの利下げを実施しました。その後、2025年1月のFOMC(連邦公開市場委員会)では米経済が堅調な成長軌道に回帰したとの判断から政策金利の据え置きを決定し、現在、政策金利(誘導目標レンジ上限)は4.5%となっています。政策金利は、3%程度と推計されている中立金利(インフレ率を加速も減速もさせない金利水準)を大幅に上回る水準にあり、FRBはこの状態を「金融引き締め的」と判断しています。

 ここ数カ月に発表された米経済指標は「堅調な景気+高止まりする物価上昇率」という姿になっており、FRBのパウエル議長は2月11~12日に実施された議会証言で「政策調整を急ぐ必要はない」という判断を示しました。次回の利下げについては「労働市場が予想外に弱まるかインフレ率が予想よりも急速に低下した場合、政策を緩和する」、「労働市場は堅調でインフレ圧力の源ではない」として、労働市場の軟化を条件とせず、インフレ重視の姿勢を明確にしました。端的に言えば、インフレ率が下がるまで現在の政策金利を維持するということです。

 筆者は、今年半ばまでに2回(1回の利下げ幅は0.25%ポイント)の利下げがあるとの予想を示してきましたが、最近の状況を踏まえ、2回の利下げが実施されるのは年末頃になるとの予想に変更しました。こうした見通しを裏付けるように、2月12日に発表された1月のCPI(消費者物価指数)はインフレ率低下の進展が遅々していることを示す内容でした。

<日銀は利上げを継続する模様>

 ドル円はFRBの利下げ見送りに起因するドル高圧力と、日銀の利上げ観測に起因する円高圧力が交錯する中、1月末の155円超から2月7日にかけて一時151円近傍まで円高方向に推移しました。日本側の要因としては、田村委員の利上げに積極的な発言、12月毎月勤労統計の現金給与総額の上振れなど、日銀の利上げを後押しする材料が続いたことがありました。FRBの様子見姿勢が強まり、投資家が材料難に直面する中、日銀の利上げ観測が円高を誘発しやすい環境にあったと言えます。

 また2月5日に発表された「ベッセント米財務長官・植田日銀総裁会談」も材料視されました。米国側は電話協議を単に「あいさつ」と説明しましたが、一部の市場参加者は「貿易赤字縮小を狙うトランプ大統領が日銀に圧力をかけた」といった連想を抱いた、またはそうした憶測が金融市場に広がると読んだ可能性があります。

<プラザ合意再び?>

 今年は“昭和100年”、「プラザ合意」から40年という節目の年であることもあってか「第2のプラザ合意」、すなわち米国の政治的要請でドル安が進行する展開が意識されている印象です。ただし現在の米国は、ドル高によって製造業が極端に衰退している訳でもなければ、それによって失業率が上昇する構図にもありません。「ドル安→製造業復活」というトランプ大統領の主張は政治的に華々しくとも、実利には乏しいと言わざるを得ません。

 またプラザ合意の当事者は日本、米国、英国、西ドイツ、フランスという米国に親密な僅か5カ国であり、その点において協議がまとまりやすかったと言えます。それに対して現在の米国が是正を試みているのは中国を筆頭とするグローバル・サウスとの通商であり、地政学的な戦略も含んでいるため、ドル安を狙った政治的合意が成立するとは極めて考えにくいでしょう。「プラザ合意」の再来は、為替市場で材料視される噂としてそれなりの存在感がありますが、米国の政治的意向で為替が操作される事態に至るかと言えば、現実味に欠けます。為替を読むにあたって、政治動向を深読みしすぎることは禁物でしょう。

 なお、「ベッセント・植田会談」にあいさつ以外の話があったとしたら、日銀の利上げが日本から米国債への資金流入にどういった影響を与えるのかという実務的なものでしょう。米国債の保有主体は、コロナ期の大量購入によってFRBが圧倒的な存在ですが、過去数年に中国が米国債保有高を減らしたこともあって日本の相対的な位置づけは重要度を増しています。

 こうした事情を踏まえると、米財務省が日銀の利上げ動向を注視するのは、ある意味で当然に思えます。実際、日本の30年金利は2.3%付近まで上昇しており、いわゆる「運用難」は解消に向かいつつあるため、(日本の)投資家行動に大きな変化があっても不思議ではありません。仮に日銀の連続利上げによって円金利が大きく上昇すれば、米国債への資金流入が細ることで米金利上昇圧力が増幅され、金融市場が混乱する遠因になりかねません。

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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

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最終更新:2/16(日) 16:13

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