グーグル社員が仕事の合間に自然の中で過ごす訳 「イライラしたらゴルフ」「森に行き深呼吸」
膨大なタスクに追われ、毎日クタクタになって帰宅する……そんなビジネスパーソンは多いかもしれない。一方、アメリカのグーグルで働く人たちは、「ある工夫」をしながら休むことで、「自分がすべき使命」を再確認する。それが働く原動力になっているという。本稿では、ロサンゼルス在住の河原千賀氏が、グーグル社員をはじめとするエリートビジネスパーソンから聞いた「休日の過ごし方」を紹介する。
※本稿は『グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか』より抜粋・編集を加えたものです。
■自分がいるから仕事がある
私たちは日々、ストレスを抱えながら働いている。出社をすれば、厳しいデッドラインの死守に努め、リソース(人手)不足、しょうもない社内政治、同僚同士のいざこざ、上司のハラスメントに巻き込まれながら会社が求める成果を出さなくてはいけない。
一方で、「生産性を求める働き方」「利益第一の企業のあり方」などに疑問を抱いて、自分の価値観と生活の安定とのあいだで揺れ動く。
「仕事は私のアイデンティティではない。自分はいったい何を大切にしていて、何ができるのか。何が必要とされる時代を迎えるのか。では、チャンスはどこにあるのか」
グーグルをはじめとする大手テック企業に勤めているビジネスエリートたちは、そんな問いを頭に置きながら、「自然」の中で自分の役割を脱ぎ捨て自己を見つめる。
彼らは仕事上の役割より先に、「どういう自分でありたいのか」をとことん考え抜く。自分自身の価値観やライフスタイルを固めた後に、どんな仕事をして、どう働くかを考える。
「仕事があって、自分がいる」ではなく、「自分がいて、仕事がある」からストレスなく働けるのだ。
「自分にとって、何がいちばん大切なのだろうか」
そんな問いを頭に巡らせ、週末、自然の中に身を置き自分の時間を過ごす人や、計画を立てて長めの休暇を取り「内省の旅」をする人もいる。
■喧嘩をしたら、大きく深呼吸
電子系エンジニアとしてグーグルで働く50代のラルフは、妻と一緒にカリフォルニアのベイエリアに住む。
週に2日だけオフィスに出勤する以外は、自宅やレストラン、カフェでリモートワークに励む。空いた時間は、妻が経営するメキシカンレストランを手伝う。
自分のための時間を確保するのは難しいが、それは仕方ないと割り切っている。いまは、リタイア後に暮らしていけるだけの十分なお金を貯める。それがラルフのプライオリティだ。
給料の一部を投資し、残りはソフトウェアの開発につぎ込む。将来、そのソフトウェアを売却したら、自分は会社を設立し開発をサポートする側に回る。老後はのんびりと、妻とレストランを営んでいたい。そのゴールに向かって、夫婦で力を合わせながら多忙な日々を過ごしている。
ラルフにとって、時間管理は生きていくうえで最も大切なスキルだ。もちろん、いつも上機嫌でいられることはない。クライアントとのあいだでトラブルが生じるときもあれば、コーヒーカップをテーブルに置いたままにして、妻と口喧嘩する日だってある。
そんな日は、昼休みなどを使いミニゴルフやピックルボール(バドミントンコートと同じ広さのコートで板状のパドルを使い、穴あきのボールを打ち合うスポーツ)で頭の中を空っぽにする。タイミングよくスポーツができればラッキーだが、たいていは朝から晩までタスク漬けだ。
それでも欠かさない毎日のルーティンがある。家の近くの森を散歩中に、ときおり立ち止まっては目を閉じて深呼吸をする。
これは、頭をクリアにして、集中力を高める呼吸法(ブレスワーク)として知られている。ラルフにとって、心の平和がもたらされる大切な時間だ。
「自分にとって、何がいちばん大切なのだろうか」
そう自問しながら、思考や感情を整えていく。ラルフにとっては、できるだけスポーツをする時間を作ること、そして、妻と協力しながらレストランビジネスを成功させることが大切だ。
大きく深呼吸をしながら、それを確認すると、人生のモットー「置かれた場所で、一生懸命に生きる」をゆっくりと口ずさむ。まるで、最澄の名言「一隅を照らす」である。
最後に、「自分の使命」を確認する。
ラルフの使命は、自分の助けを必要とする人に力を貸すこと。「自分にしてあげられることは何もない」という言葉は彼の辞書には存在しない。
「自分の力で、周りをハッピーにさせられる」。そう祈りながら森を後にする。困難に直面しても「自分の使命」に意味を見出せたら、たちまち不安は消える。思考、感情、祈り、といった「人間力」が、自分が理想とする世界を創り出すのだ、と彼は言う。
「森に行くと、人が変わったかのように心が穏やかになる」
そう語るラルフの表情には、自信が満ち溢れていた。
■瞑想で「いま、ここ」に意識を向ける
ダグラスもまた、グーグルでハードウェアを開発するシニア・エンジニアだ。50代も後半に突入し、次第に「引き際」を意識して働くようになった。
ダグラスにとっての“気がかり”は、お金と国。アメリカの政治がどうなるか、それにより老後の生活がどうなるのかという不安を抱えながら生活をしている。
彼には明確な「夢」があった。5年以内にリタイアして、コスタリカの海辺で悠々自適に過ごすことだ。そのために、いまは貯蓄に励み、不動産投資にも資産を振り向けている。
「将来の目標のために準備をしていることは?」という問いに対して、「25年間も働いてしまった。それによってもたらされたハチャメチャな生活を整理整頓することだ」と答えてくれた。
働きすぎで生じた歪みを矯正する。これが、ダグラスにとってのプライオリティだった。
だからダグラスは意識して、日々の仕事や雑務やあらゆる責任から離れ、集中できる環境に身を置くようにしている。
自分自身について、そして自分の周りで起きていることを冷静に把握するために「マインドフルネス瞑想」は欠かせないルーティンだ。
「いま、ここ」に意識を向ける。ただ目の前のことに集中する。
マインドフルネスを得るために1日中坐禅を組んでいるのではない。森や山に行き時間をかけて散歩をしたり、シンプルな食事をしたり、ヨガをする。これらもまた立派なマインドフルネスの一種であり、瞑想と同じ効果が得られる。
マインドフルネスの効用は、エネルギーが増えるだけでなく、頭の中もスッキリして、物事が明確に見える。
情報が溢れかえる世の中でも、「自分にとって、いま何が大切なのか」を考える時間を持てて、より良い選択ができるようになるらしい。
終わることのないToDoリスト。そして、気がつくと、毎日、自分を充電する暇もなく過ぎていく。マインドフルネスの生活で充電できたバッテリーは、その後数カ月間、彼の生きがいを満たしてくれる。
■月に最低12時間は自然の中で過ごす
ダグラスにとって「ひとりになる時間」は、とても大切だ。パートナーから理解を得ながら、1日のうち1、2時間、自分だけの時間にどっぷりひたる。山に行けばスキー、海に行けばサーフィン。ダンスをしたり歌ったり、クッキングをしたり。月に最低12時間は自然の中で過ごす。
休日に山や海の自然の中にいると、気持ちが落ち着き、空の美しさに心が奪われる。そうしていくうちに、自分らしさを取り戻すことができる。心身がリラックスして、情報や周囲の雑音、自分の頭の中の雑音が静まるときに、アイデアが浮かび、インスピレーションを得ることができるという。
早朝からサーフィンを何本も乗りこなしていたタイミングで、煮詰まっていた開発構想を思いついたときには、感動して鳥肌が立った。
さて、そんなダグラスのモットーは、“Be Better, every day(日々、より良い自分でいなさい)”である。そのためにも、人から離れ、ひとりになる時間がなにより大切なのだ。
あなたも休日になったら、近くの公園に行き、ひとりになる時間を作ってみてはいかがだろうか。
東洋経済オンライン
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最終更新:2/16(日) 13:02