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地方の製造業が日本を繁栄に導く~特に浜松、スズキ、ホンダ、ヤマハ、カワイ、浜松ホトニクスなどを生んだその「心意気」

5/4 5:02 配信

マネー現代

TSMCだけではない九州

(文 大原 浩) DIAMOND online 2月27日「TSMC熊本工場がついに始動! 日本が『半導体のトップ』を狙うための理想の展開とは?」と伝えられる。

 台湾TSMCが工場建設地として日本の熊本を選択したことは喜ばしい。もちろん多額の補助金が日本政府から支出されたが、それだけではない。日本には先端半導体の製造を支えるための優れたサプライチェーンがすでに存在するのだ。

 ソニーHP「ソニーの半導体事業、そのあゆみ」冒頭は、1953年に「東京の町工場が 世界のトランジスタに挑戦。全てはここから始まった!」である。

 当時東京通信工業という名前で「町工場に毛が生えた」存在でしかなかったソニーの、「社運を賭けた」とも言えるトランジスタへの挑戦の詳細については、同「第4章 初めての渡米<トランジスタの自社生産>」を参照いただきたい。

 そして、1955年には日本初のトランジスタラジオ「TR-55」を発売したのだ。

 そのソニーが、前記HP「ソニーの半導体事業、そのあゆみ」「九州の地から日本各地へ根を伸ばす ソニーの半導体事業」をスタートさせたのは2001年のことである。

 2001年4月、ソニーはグループ内で半導体生産を担っていた九州3事業所(ソニー国分、ソニー大分、ソニー長崎)を統合し、当時建設中だった熊本テクノロジーセンターを加え、半導体設計・生産プラットフォーム会社「ソニーセミコンダクタ九州株式会社」を設立したのだ。

 その目的は、資材調達から生産計画立案、品質管理、物流プロセス、カスタマーサービスに至るまでを統合的に運営できる「ワンストップ」なもの作り体制の確立である。23年前からソニーが始めた事業がすでに九州で根を張っていたからこそ、TSMCが進出したとも言える。

 ソニーだけではない。日経XTECH 2月7日「TSMCが熊本県に第2工場を24年着工、運営会社にトヨタも出資」と伝えられる。

 この結果、半導体受託製造会社「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)」の株式保有比率は、TSMCが約86.5%, ソニーセミコンダクタソリューションズは約6%、デンソーは約5.5%、トヨタ自動車は約2%になる。

 トヨタ自動車はもちろんのこと、デンソーは昨年10月31日公開「大原浩の逆説チャンネル<第58回>トヨタグループはこのまま快進撃を続け『財閥』になるのか。顕わになったEV化・脱炭素の欺瞞」や4月29日公開「トヨタグループの研究~牽引力としての豊田通商、デンソー、豊田中央研究所」などで述べたように、トヨタグループを牽引していく存在として期待される。

 「大原浩の逆説チャンネル<第38回>『半導体王国』日本復活の兆し。材料と製造装置。パワー半導体とミニマルファブが鍵」と述べたが、最先端半導体においても日本勢の復活が期待できる。

 その日本勢による最先端半導体復活の基点が、すでに環境が整備された九州になるかもしれないということだ。

産学連携がしっかりしている京都と東北

 京都と言えば、「古都」が枕詞である。

 4月25日公開「インドネシア、首都移転という大胆な試みは成功するのか?」で述べたように、794年の平安遷都は大成功。福原遷都のごくわずかな時期を除けば、1868年の明治維新に至るまで1000年以上日本の「都」であった。

 そのような「古都」はインバウンドを始めとする観光人気が高いが、同時に世界的なハイテク・メーカーを多数輩出している。

 例えば、陽は西から昇る!  関西のプロジェクト探訪 昨年6月19日「京都のハイテク企業十傑(10社) 2023年3月期の連結決算 『ニデック(旧:日本電産)』と『京セラ』が初めて売上高2兆円突破!」には、1位のニデックから、2位京セラ、3位村田製作所を経て、4位の任天堂、5位オムロン、6位GSユアサ、7位ローム、8位島津製作所、9位村田機械、10位SCREENがずらりと並んでいる。

 これには京都が学園都市であり、産学連携がしっかりしていることが大きく影響していると考えられる。

 特に、京都大学HP「京都大学にゆかりのあるノーベル賞受賞者」の一覧はすごい。湯川秀樹、朝永振一郎から始まり、福井謙一、利根川進、野依良治、益川敏英、小林誠、山中伸弥、赤崎勇、本庶祐、吉野彰までそうそうたる面々が並んでいる。

 また、産学連携においては東北大学も見逃せない。

 東北大学サイエンスカフェは、残念ながらパンデミックの影響で休止となったままのようだが、一般への科学啓もう活動として優れた内容であっただけに再開が望まれる。

 また、ニュートリノの研究においては、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の「スーパーカミオカンデ」が有名だが、東北大学ニュートリノ科学研究センターでも「カムランド」を使用した研究が行われている。

 スーパーカミオカンデが超純水を用いてニュートリノを検出するのに対し、カムランドは液体シンチレーターと呼ばれる特殊な油を使用している。液体シンチレーターでニュートリノ反応が起きたときの発光量は超純水との比で100倍にもなり、より低いエネルギーまで観測が可能ということだ。

 そして、東北大学産学連携機構HP「ベンチャー企業支援」にあるように、同大学関連ベンチャー企業数は179社に上る。

製造業の「本拠地」=「中部地方」

 日本の製造業の中核は中部地方にあるといっても過言ではないかもしれない。

 3月29日公開「EV連合・日産とホンダと『我が道を行く』トヨタの将来を占う~そういえば立派なビルを建てた企業は傾く!?」などで述べたトヨタ自動車や、昨年10月31日公開「もはや『財閥』、トヨタグループ――世界や新聞・テレビからバッシングを受ける中で王道を歩む『永久保有銘柄』」で述べた「トヨタグループ」の企業群が牽引車ではある。しかし、それらをはるかに超えた「製造業の一大拠点」といえるだろう。中部地方の製造業ネットワークはずば抜けているのだ。

 2022年10月20日公開「『尾張・三河』は『東京』『大阪』をはるかに超えて『日本の中心』になる…!」のように、「製造業復権」の時代において、「日本の中心」になる可能性さえ秘めている。

「やらまいか」で独自の地位を築く浜松

 その中部地方に属するが、県庁所在地でさえない浜松市から多数の世界的企業が生まれたことはよく知られているであろう。

 世界的自動車メーカーのホンダの歴史は、本田宗一郎が1946年に浜松市で本田技術研究所を起業したことに始まる。

 また、4月30日公開「楽器、オートバイ、産業ロボット……次々と世界ブランドを生み出すヤマハの『匠の精神』」で述べたように、楽器のヤマハだけではなく、オートバイなどの「ヤマハ発動機」のルーツとなった「日本楽器」は、創業者・山葉寅楠が浜松で1台の壊れたオルガンを修理したことをきっかけに、国産オルガンの製作に成功したことが起源だ。

 楽器世界売り上げランキングでヤマハに次ぐ第2位であるローランドも、1972年に大阪に設立されているが、2005年に本社を浜松市に移転している。そして、同じく3位の河合楽器の本社も浜松にある。

 また、スズキ自動車の本社も浜松に所在するのだ。

 さらに、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏の研究には、「カミオカンデ」が大きく貢献したが、その小柴氏の要請によって優れた光電子増倍管を、苦難を乗り越えて開発したのが浜松ホト二クスであることは、昨年1月14日公開「顧客の要望に最大限に応える本当の顧客主義を実践する日本の高度技術企業たち」6ページ目「浜松ホトニクスの光電子増倍管」で述べた。そして、その光電子増倍管の日本シェアは100%、世界シェアも90%程度と圧倒的である。

 このように「地方都市」から次々と「世界的優良企業」が生まれるのは「やらまいか精神」に理由があるのかもしれない。

 「やらまいか」は遠州弁だが、「やろうじゃないか」という意味である。以前は、文字通りの意味合いで使われていたのだが、近年では「とにかくやってみよう!」という「チャレンジスピリッツ」が強調されている。

 「やらまいか!   国際的な自動車メーカーを創立した男とそれを支えた妻」という、本田宗一郎を描いたテレビドラマも制作されているほどだ。

 ちなみに、スズキ自動車の情報コミュニケーションマガジンの名前も「やらまいか」である。

結局、第1次・第2次産業が地方を牽引する

 4月5日公開「『地方創生』は鄧小平の改革開放に学べ! ~ふるさと納税はアフリカへの食料援助と同じ、発展への妨げ」6ぺージ目「ふるさと納税は『アフリカへの食料援助』」で述べたように、2008年の開始以来16年経っても、ほとんどん何の成果も出していないふるさと納税は「やらまいか精神」をしぼませるだけである。

 これまで述べてきた地域はもちろん、それ以外の地域でも、「大原浩の逆説チャンネル<第1回・特別版>大乱の八つのテーマと対処法」で述べた「世界的な地政学リスクの増大」や「円安傾向」は、製造業を発展させる大きなチャンスである。

 また、これまで生産性が低く労働集約的と考えられてきた農業においても、3月14日公開「建設・農業・医療・教育という『取り残された』産業にDXで革命を起こせるか?」、昨年2月28日公開「ヤバすぎる『日本の農業』、じつは『3つの要素』を満たせば『一気に飛躍』する可能性を秘めていた…!」、同1月28日公開「ヤバすぎる『日本の農業』…『危機的状況」を大転換する『たった一つの方策』」で述べたように、「(生産性)改革」の波が押し寄せてきている。

 「やらまいか精神」を生かせる環境が地方に整いつつあるように感じる。

マネー現代

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最終更新:5/6(月) 8:32

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