ひたちなか海浜鉄道、社長が明かす「延伸計画」の姿 乗客は何人増える?新駅から公園への移動手段は?

3/26 4:32 配信

東洋経済オンライン

 茨城県ひたちなか市にある常磐線・勝田駅。ひたちなか海浜鉄道の湊線はこの駅からおさかな市場で有名な那珂湊を経由して、海水浴場のある阿字ヶ浦まで運行する。

 全長14.3kmという非電化路線で、もともとは茨城交通が運行する路線だったが、利用者減少による赤字を理由に廃線が検討された。しかし、存続を願う住民らの声によって、第三セクター法人ひたちなか海浜鉄道が設立され、運営が引き継がれた。

■コロナ禍で計画を見直し

 三セク化をきっかけに、業績が回復し続けている。そして今日注目すべき話題は、2021年1月15日に認可された、現在終点の阿字ヶ浦駅―ひたち海浜公園中央口まで3.1kmの延伸計画である。

 この延伸計画の開始には大きな壁が立ちふさがった。昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で建設用の機材や材料の価格が高騰するなど、計画の見直しを余儀なくされたのだ。しかしながら、関係者たちは前向きかつ地道に足元を固めてきた。目的の実現へと結びつけるために、2023年12月12日、ひたちなか市は市議会に説明を行った。延伸計画を2段階に分けて行い、まずは「ひたち海浜公園南口」付近までの1.4kmを先行開業することとした。新駅も整備する。なお3月4日には延伸計画の変更が国に認められた。全体総事業費は126億円、うち先行区間は59億円と見込んでいる。

 今回の経緯に関して、同鉄道の代表である吉田千秋社長にインタビューを行った。計画が見直されたのは、コロナ禍による物価高騰などマイナスの要因だけではなかった。途中区間にJX金属の工場進出が決定し、新たに通勤などで同鉄道を利用する見込みが発生したこと、また、地方交通活性化法の改正など、政府の地方交通に対する考え方が、前向きになったというプラスの要因もある。また、延伸開業によって、どのくらいの収益を見込めるのか。輸送人員などはどのくらい増加するのかも聞いてみた。

■2億円の収入増が見込める

 吉田社長は「現時点では工事の施工認可を受けておらず、数値は出せない」としながらも、「あくまでも営業的見地として、年間200万人の国営ひたち海浜公園の来場者のうち10%が鉄道を利用すれば、約20万人。1人あたり1000円の収入があったとして2億円の収入を見込める」と話した。この10%という数字について根拠はないが、吉田社長が体感的に想定した数字とのことだった。

 さらに総工費の負担については「工事の施工認可がまだなので現段階で公表できるものではない」としながらも、「あくまでもひたちなか市と当社の希望として、昨年10月からの法改正により、鉄道にも適用されることになった”社会資本整備総合交付金”の活用を想定している」とのことだった。これが適用されれば、国の補助率が50%となるため、その残額をひたちなか市と事業者、県で負担していくことになる。また、「負担割合については、今後協議を行い、決定していく。また、社会資本整備総合交付金の活用も想定している」とした。

 この社会資本整備総合交付金とは、地域・都市の防災対策のほか、交通バリアフリーにも利用できる、国の補助金制度だ。鉄道は、外からも様々な人が利用する。こういった補助金や支援などを多く利用して、公共交通を支えるということはとても大事な方法である。

 運行にあたっては輸送力増強用も考えており、車両も12両に増備(現有・8両、4両増備)、人材についても若干数の増員も想定しているという(現在30人、数名の要員増)。

 また、新駅とひたち海浜公園の南口ゲートとが現行計画では400mほど離れており、来場者は駅から5分程度歩く必要がある。これについては「今後、公園側と協議し、直近ルートの開放なども検討していく」と語る。

 さらに地域としての輸送体系の充実には「鉄道の輸送力だけでは需要に応じきれない。周辺のバス事業者との協力や連携も必須」として、「共通乗車券の設定や協調ダイヤ(連携ダイヤ)の調整は、絶対条件だと考える」。

■定住人口の増加につなげる

 これからのひたちなか海浜鉄道については、「今までもそうだったが、まちづくりや地域全体の活性化を視野に入れての運営をしていく。また、延伸によってお越しいただく来園者にひたちなか市や茨城県の魅力を感じていただき、リピーターとなっていただく。おさかな市場やアクアワールド・大洗、ほしいも農家さんなどとも連絡を密にして、沿線全体を盛り上げていく。また、通勤輸送手段の確保により、定住人口の増加なども考えていく」と話した。

 さらに「ローカル鉄道活性化の最先端事例として、これまでの取り組みを対外的にアピールし、日本全国の地域交通の活性化に繋げるお手伝いをしたい。本年度は当社が設立した一般社団法人のローカル鉄道・地域づくり大学が、国土交通省の地域交通共創モデル実証プロジェクト事業を受託し、行政向けにレクチャーを予定している」という。

 全国各地でローカル線が廃止され、街に人が減ってきたという話を、毎日のように聞かされる。そんな中、ひたちなか海浜鉄道は、地域と一体となって輸送を活性化させ、延伸の計画を進行している。昨年末から話題になっている千葉県でのダイヤ改正問題と比較するのはおかしいかもしれないが、沿線の利用者や住民、その周りにいる人たちのために、公共交通は存在している。

 全国の交通事業者にとっても、ひたちなか海浜鉄道の事例は、とても大きい。全国の鉄道存続に悩む地域には、ぜひとも参考にしていただきたいと思う。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:3/26(火) 4:32

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング