ドラッグ依存のホームレスが急増、空き店舗も続々…ドジャース球場から20分「ロス郊外」のヤバい治安

11/3 8:02 配信

東洋経済オンライン

 劇的な逆転でワールドシリーズを制覇したロサンゼルス・ドジャース。大谷翔平選手がシーズンを通して大活躍したこともあって、テレビやネットなどでドジャー・スタジアムや、ロサンゼルスの街の様子を目にした人も少なくないだろう。

 そんなロサンゼルス市内から車で西へ20分ほど、いかにもカリフォルニア、といった海岸が広がるサンタモニカ市で治安の急悪化が懸念されている。いったい何が起こっているのか。ジャーナリストの長野美穂氏がリポートする。

■ドラッグ依存症のホームレスと犯罪が急増

 「もっと安全な街に!」「安全のために投票してください!」

 いま、カリフォルニア州サンタモニカ市のあちこちの家の庭に、こんなサインが掲げられている。アメリカ大統領選の投票日と同じ11月5日に、サンタモニカ市の市議会選挙が行われるのだが、このサインはその候補者たちを支援するものだ。

 この選挙の争点はただ1つ。「Safer(もっと街を安全に)」であることが伝わってくる。青い空と海とビーチで知られるサンタモニカには、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムを訪れたついでに遊びにやってくる観光客も多い。

 風光明媚でパラダイスのような場所として長年知られてきたこの街だが、コロナ禍以降は、ドラッグ依存症のホームレスの急増と犯罪の多発で、治安の悪化が問題となっている。実情を確かめるべく、街の中心部の3番通りにある「プロムナード」と呼ばれる商店街を実際に歩いてみることにした。

【写真】“明るい”カリフォルニアの印象とは大違い? 商店街には空き店舗が目立ち、ホームレスの人々の姿も(13枚)

 見たところ、商店街のざっと3分の1ほどの店舗が「空室」になっている。その中でも「AMCブロードウェイ4」という創業90年の歴史を持つ映画館が今年9月に閉店したのは、象徴的だった。かつてはレストランがあった店舗やリテール店舗の多くも、がらんとした空室になっている。

 ドジャース公式ショップでは、ワールドシリーズ記念のTシャツが売られ、その同じ並びには、民主党の大統領候補、カマラ・ハリスの選挙運動の拠点があり、ボランティアたちが活動している。

■郡はホームレスたちへ注射器を無料配布

 そんな中「Santa Methica is Not Safe(サンタ・メシカは安全ではない)」というメッセージが印刷された巨大な垂れ幕が下がっている店舗があった。「メシカ」とは、「メス」という略語で知られる覚醒剤のメタンフェタミンを「モニカ」にひっかけた造語だ。

 ドラッグ依存のホームレスが急増していることを指しているのは、明らかだ。その下には「サンタモニカで犯罪の被害に遭った人はいますか?  私たちと一緒に集団訴訟を起こしましょう」というフレーズが印刷されている。

 この垂れ幕を掲げたのは「サンタモニカ連合」という非営利団体の市民グループだ。この商店街内に店舗ビルを所有し、不動産業を営むジョン・アレ氏がこの団体の代表を務める。アレ氏はこう語る。

 「サンタモニカ市議会は、市内の公園内で、ホームレスの人たちへの注射器の無料配布を許可してきた。ドラッグ依存症のホームレスが昼間からたむろし、芝生の上には注射器があちこちに落ちている。そんな公園で、私たち住民は、子どもたちを安心して遊ばせることはできない」

 実際に、サンタモニカ市内の複数の公園内で、ロサンゼルス郡の公衆衛生局が、地元のクリニックと協力して、エイズの蔓延を防ぐため、新しい注射器をホームレスの人々に配布し、使用済みの注射器と交換するプログラムを実施してきた。公園でドラッグを注射する人々や、道端に落ちている注射器などの様子をアレ氏は映像で詳細に記録している。

 だが、サンタモニカ市議会メンバーたちは、アレ氏の主張にこう反対する。「注射器配布は、ロサンゼルス郡がその権限において実施しているプログラムで、私たちの市にはそれを止める権限はない」。

 さらに市議会のメンバーたちは、アレ氏の垂れ幕の文言について、「商店街のビジネスに悪影響しか与えない」と強く批判した。

 観光客たちは、この垂れ幕をちらっと見上げながら通り過ぎていくのだが、その脇を、ビニール袋をいくつも抱えて歩くホームレスの人がいる。観光客とホームレスが同じ空間で共存している、という感じだ。

■「あの垂れ幕は大袈裟すぎる」

 では「サンタモニカは安全ではない」と断じたこの垂れ幕の文言は、どこまで本当なのだろうか? 

 ハリス支援のための資金集めをすべく、仲間と自宅でガレージセールを開いていたサンタモニカ市民のベスさんは、「あの垂れ幕は大袈裟すぎる」と語る。「うちの娘はプロムナードの商店街のレストランで働いているけど、危ない目に遭ったことはないし、商店街の治安は、コロナ禍直後と比べると格段に改善しているのに」。

 ベスさんの自宅周辺は、同じ市内でも、海岸から車で10分ほど離れた場所にあり、治安は悪くない。近くの公園の芝生の上で寝ているホームレスはいるものの、道路脇で寝ているホームレスはいない地域だ。

 だが、プロムナード商店街に近い、サンタモニカ・ピア(埠頭)付近の海岸沿いでは事情が大きく違う。多数のホームレスが路上でテント生活をしているからだ。

 例えば、今年8月には、海岸で日光浴をしていた女性がホームレスの男性に襲われた。この容疑者には性犯罪の前科があった。また、6月には海岸沿いでホームレスの男性が3人の女性を別々に襲い、ひとりを海の中に引きずり込んで溺れさせようとした。

 5月にはホームレスの男性が海辺をジョギング中の女性の髪の毛を掴み、公衆トイレの中に引きずり込もうとした。また、同月、ドイツ人観光客ふたりがプロムナード商店街の駐車場前でホームレス男性にナイフで刺される事件も起きた。

■「ホームレスの96%はよそからきている」

 現サンタモニカ市長のフィル・ブロック氏は、ロサンゼルスのテレビ局の取材に対し、ホームレスの爆発的な増加についてこう語っている。

 「私たちは、すでに数年前から限界に達しており、ホームレスの人々を安全かつ人道的にシェルターに移動させるために、条令を最大限に行使している。でも、毎晩、メトロの電車に乗って、夜中までに数十人のホームレスたちが、この街に移動してくるんだ。サンタモニカのホームレスの96%は、よそからきているんだよ」

 サンタモニカのホームレス人口は、今年6月時点での市の発表では774人で、昨年と比べると6%減少している。 だが、アレ氏のグループが深夜に街を歩いて独自に調査したところ、その数は2000人を超えていたという。

 「夜間シェルターに空きがなくて入れない人たちが、深夜にサンタモニカの商店街や海岸、公園、駐車場を目指してやってくる。彼らに水のボトルを渡して話を聞くと、早朝にはまた移動して別の場所に行くと言っていた」とアレ氏。

 人々が路上で生活することを禁ずる市の条令はあるのだが、ホームレスたちが日々移動し続ける限り、彼らをシェルターに収容し続けるのは難しく、シェルターの数も足りていない。サンタモニカ市が商業ビルを買い上げ、ホームレス用の住居にする計画を公表すると、近隣住民の反対運動が起き、それも立ち消えになった。

 今、プロムナード商店街には「交番ボックス」に似た警察の相談窓口が設置され、商店街は民間の警備会社と契約して警備員を配置している。実際に筆者が歩いてみた時も、2人組の男性警備員がパトロールしていた。だが、彼らは警官ではなく、銃は携帯していない。

■大型書店やグーグルストアの新規出店も

 そんな中、明るいニュースもある。

 プロムナード商店街に、「バーンズ&ノーブル」という大手書店チェーンの店舗が今年8月に開店したのだ。6年前にこの商店街からバーンズ&ノーブルの店舗が撤退してから、住民たちがずっと待ち望んでいたカムバックだった。

 店内に入ってみると、1階部分にはフィクションからヤングアダルトまで多種の書籍がずらっと並び、地下階は子ども用の書籍売り場や玩具売り場で、あらゆる年代の住民のニーズに対応する店舗設計であることがわかる。

 また、今後、グーグルストアの新規オープンも決まっており、少しずつではあるが、再開発の息吹が感じられる。

 「安全な街を!」というスローガンを掲げ、現職市長を含め10人の立候補者が市議会議員の4席を競い合っている。そもそも「安全と治安を守れ」というのは、本来なら、保守である共和党のスローガンだったはずだ。

 それが、全米で最もリベラルな街の1つである、サンタモニカでいま切実に求められているーーこれがカリフォルニアの2024年の現実だ。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/3(日) 9:41

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