NASAで起こった「最悪の事故」から学ぶべき“教訓” なぜ「100年に一度の出来事」が頻繁にあるのか

12/4 14:02 配信

東洋経済オンライン

世の中はめまぐるしく変化している。未来を正確に予測できる人は誰もいない。しかし、どんなときも“人間の本性”は変わらない――。
『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』では、世界各国で600万部と大反響を呼んだ『サイコロジー・オブ・マネー』の著者、モーガン・ハウセル氏が、お金から視点をさらに広げ、どんな時代がきても賢くサバイブするための「人生教訓」を伝授してくれます。

本稿では、同書から一部を抜粋してお届けします。

■NASAで起こった「最悪の事故」

 ロケットでの宇宙飛行を前に、NASAの宇宙飛行士たちは高高度気球(訳注:高層大気に放たれる気球)に乗って数回にわたるテストを行なった。

 1961年5月4日、アメリカ人のヴィクター・プラザーともう1人の宇宙飛行士を乗せた熱気球が、高度およそ3万5000メートルという、宇宙の端をかすめるほどの高さまで上昇した。目的は、NASAの新しい宇宙服を試すことだった。

 飛行は成功し、宇宙服も問題なく機能した。

 地上に戻ってきたプラザーは、自力で呼吸できるくらいまで高度が下がったところで、新鮮な空気を吸おうと、ヘルメットのフェイスプレートを開いた。

 彼は予定どおり海に着水した。そこからはヘリコプターで安全な場所まで運ばれることになっていた。しかし、そこでちょっとした不運なアクシデントが起こった。ヘリコプターの救助ロープと体を連結させている最中に、滑って海に落ちてしまったのだ。

 これ自体は大した事故ではなく、救助ヘリの隊員も誰一人うろたえなかった。宇宙服は防水仕様になっていたし、浮力もあるはずだったからだ。

 ところが、フェイスプレートを開けていたために、プラザーは水に無防備になっていた。海水が宇宙服に流れ込み、彼は溺死した。

 人間を宇宙に送り出すのに、どれだけの計画を立てる必要があるか、考えてみてほしい。

 さまざまな専門知識を駆使して、いくつもの不測の事態に備える。もしこうなったら、さらにそのあとこうなったらと、どれだけ多くのことを想定するか。あらゆる細部に至るまで、何千人もの専門家が熟慮する。

 おそらくNASAは、かつてないほど計画重視の組織といえるだろう。胸で十字を切って幸運を祈るだけでは、月には行けない。考えうるリスクすべてについてプランA、プランB、プランCが用意されている。

 それでも、そこまでの計画をもってしても、誰も想定していなかった些細な出来事が大惨事を招く。

 投資アドバイザーのカール・リチャーズはこう述べている。

 「リスクとは、あらゆる可能性を想定し尽くしたと思ったあとに残っているものだ」

 これこそ、リスクの真の定義だ。想像しうる限りのリスクに備えたあとに残っているもの。リスクとは、あなたには予想できないもののことなのだ。

■宝くじに2度当たった女性の話

 私たちが暮らす広い世界では、「めったに起こらない出来事」が起こる確率が低く見積もられやすい。心理学者でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは、かつてこう述べた。

 「人間は、非常に大きな数字や非常に小さな数字を理解できない。その事実を認めたほうが何かと役に立つだろう」

 イヴリン・マリー・アダムスは、1985年、ニュージャージー州の宝くじで390万ドルを獲得した。その4カ月後に再び当選し、さらに140万ドルを手にした。アダムスは『ニューヨーク・タイムズ』紙にこう語った。

 「もう宝くじは買わないわ。ほかのみんなにチャンスをあげたいから」

 これは当時大きな話題となった。というのも驚いたことに、コンピュータの複雑な計算によると、宝くじに2度も当選する確率は、なんと17兆分の1だったからだ。

 しかし3年後、パーシ・ダイアコニスとフレデリック・モステラーという2人の数学者が、この熱狂に冷や水を浴びせた。

 もし、宝くじを買うのが1人だけの場合、2回当選する確率は、確かに17兆分の1になる。

 しかし、アメリカなどのように1億人が毎週宝くじを買う場合、誰かしらが2回当選する確率はかなり高くなる。ダイアコニスとモステラーは、それを30分の1と計算した。

 この数字が大きなニュースになることはなかった。

■「一生に一度レベル」は定期的に起こる

 「充分な数のサンプルがあれば、どんなとんでもないことだって起こりうる」とモステラーは述べている。

 これこそ、世界があまりに突拍子もなく見える理由であり、また「一生に一度レベル」の出来事が定期的に起こっているように感じる理由の1つだ。

 この地球上には、およそ80億の人間がいる。つまり、ある出来事が100万分の1の確率で毎日起こるとすると、1日に8000人の身に、1年に290万回、そしてあなたの一生のあいだにおそらく2億5000万回起こるはずだ。

 たとえ10億分の1の確率の出来事であっても、あなたの一生のあいだに何十万という人々の運命を変える。

 ショッキングな見出しに対するニュースメディアの飽くなき渇望を考えると、あなたがこうした出来事について耳にする確率は、ほぼ100パーセントだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:12/4(水) 14:02

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