プロ野球団の元社長が、組織の壁をぶっ壊した「驚きの方法」とは?

4/20 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。

● 組織のなかに「壁」は必然的に生まれる

 楽天野球団の社長になって驚いたことがあります。
 スーツ組(営業、広報、総務、会計などビジネス周りを担当する社員)とユニフォーム組(野球チームをマネジメントしたり、選手の採用・トレードなど担当するスカウト陣をはじめとする、野球チームをマネジメントする社員)の間に、ものすごく分厚い「壁」が存在していたのです。

 もちろん、部門間の「壁」というものは、組織には避け難く起きる問題であって、僕自身、これまでさんざん経験してきたものです。だけど、当時の楽天野球団は、「壁」というよりも、「断絶」と呼んでもいいほどの状況でした。

 楽天野球団事務所が入っている建物の2階にユニフォーム組が入り、3階にスーツ組が入っていたのですが、スーツ組が2階を訪れることすらできなかったのです。そして、それが球団経営に大きな弊害をもたらしていました。

● なぜ、営業部が頭を下げなければならないのか?

 選手のサインひとつもらうのもおおごとでした。
 たとえば、楽天野球団に多額の出資をしてくださっているスポンサーさんから、ある選手のサインボールを頼まれたとします。

 すると、依頼を受けた営業マンから上司である営業部長に伝達され、営業部長がチーム側の管理部長に依頼。管理部長からその選手のマネージャーに伝達され、そのマネージャーから選手にサインを書くように指示が出されます。サインひとつもらうために、これだけのフローを経なければならないのです。

 これが、プロ野球の“ど素人”だった僕には不思議なことに思えました。
 なぜなら、管理部長が首を縦に振らないと、営業部は、サインをはじめとするファンサービスを選手に依頼することすらできないからです。

 球団収益を支えてくださっている大スポンサーの依頼を受けるかどうかは、管理部長の一存にかかっているわけで、営業部としては、管理部長に対して平身低頭して頼み込むしかありません。そこに、理不尽な「上下関係」が生じてしまっているように見えたのです。

● 部署間の「壁」が組織をダメにする

 だから、僕は、「どうして、そんな面倒な手続きを踏むんですか?」と管理部長に率直に尋ねました。
 すると、「選手を守るためだ」と言います。営業マンがそれぞれ勝手に選手にファンサービスを頼みにいくようなことになれば、選手が野球に集中することができなくなる。だから、管理部長が一元管理をしているというわけです。

 たしかに、それは一理あります。
 選手の中には、「ファンあってこそのプロ野球」と考えて、ファンサービスに積極的だったり、「試合ができるのはスポンサーのおかげ」と考えて、スポンサーの要望にもできるだけ応えようとしてくれる選手もいますが、そのために、野球に対する集中力が散漫になったり、練習不足になったりするのは問題だと思います。

 しかし、だからと言って、チーム側の代弁者である管理部が、決定権限をもつことに正当性があるとは思えませんでした。しかも、選手を守るために、基本的に「ファンサービスは受けない」という方針でいました。それが、プロ野球の長い歴史で培われてきた「伝統」だというのです。

 僕は、その説明を重く受け止めましたが、それでも納得はできませんでした。アマチュアスポーツならいざしらず、僕たちがやっているのはプロスポーツ。ファンやスポンサーあっての球団経営であり、球団経営が成り立つからこそ「野球」ができるのです。だから、「選手を守る」ことと、「ファンやスポンサーにサービスする」ことのバランスを取る方法を探るべきだと思いました。

● なぜ、管理部長は歩み寄ってくれなかったか?

 そこで僕は、管理部長と何度も話し合いを持ちました。
「黒字化」という目標を達成するためには、監督、コーチ、選手たちにも協力してもらって、ファンやスポンサーへのサービスを強化する必要があることを丁寧に説明。それまで、彼はスーツ組の部長級で行っていた定例会議にも参加していませんでしたが、まずは、そこに参加してほしいと依頼しました。

 そのような場で、球団の経営課題やキャッシュフローなどを理解してもらって、「黒字化」に向けて力を合わせてほしかったからです。ところが、なかなか顔を出してはくれませんでした。

 その原因をつくったのは、もしかしたら僕だったのかもしれません。というのは、少々、営業部の肩をもちすぎていたかもしれないからです。

 営業マンは必死になって頭を下げて、スポンサーとの関係性を深めようと努力しているのです。そして、その売上でチームの運営費は賄われているんです。なのに、なぜ営業マンが管理部長に頭を下げなきゃならないのか? 自分も営業出身という「贔屓目」もあったとは思いますが、僕のなかにそういう思いがあったのは否定できない事実。そのせいで管理部長をかたくなにさせてしまったように思うのです。

 しかも、彼は「男気」のある人物でしたから、新社長である僕があれこれ言ってきても、自分が信じてきた「伝統」を捨てるわけにはいかなかったのでしょう。そのあたりを配慮しながら、もっと丁寧に話し合えば事態は違った展開をしていたかもしれません。

● 全社一丸となって「愛される球団」をめざす

 とはいえ、僕は、全社が一丸となって「ファンサービス」をすることによって、「愛される球団」をめざすことを妥協することはできませんでした。

 そこで、やむなくある決断をしました。僕の直属機関として、「ファンリレーション室」を新設。営業部などから上がってきた「ファンやスポンサーからの要請」を、チーム側と調整する権限をそこに一元化。実質的に、管理部長が隠然ともっていた「権力」を強引に剥奪したわけです。

 いわば、社長の「権力」を使って、「壁」をぶっ壊したようなものです。乱暴といえば、乱暴だったかもしれません。その管理部長は楽天野球団を退職して、他の球団で活躍されています。おそらく、自分が守ってきた「聖域」を侵犯されたように感じたのでしょう。

 残念なことでしたが、あのときの僕にはそうするしかありませんでした。「黒字化」という目標を達成するために、のんびりしていられる状況でもありませんでした。部門間の「壁」を壊して、一刻も早く全社一丸となって「ファンやスポンサーに喜んでいただく」ために全力をあげる態勢を整える必要があったのです。

● お互いに「敬意」をもてば「壁」は消え去る

 そして、僕は社内でこういう標語を掲げました。

 “Respect each other.”つまり、選手、監督、コーチから社員、アルバイト、ボランティアまで全員がお互いの立場を尊重しながら、ファンのために力を合わせようということです。

 ユニフォーム組とスーツ組のどちらが偉いとか、営業部と経理部のどちらが偉いとか、そういう意識を捨てよう。そうではなく、それぞれの専門性や立場に対して敬意を払いながら、お互いに力を合わせて、ファンやスポンサーに喜んでもらうことが大切なんだ。そういうメッセージを伝えたかったのです。

 もちろん、これは自分への戒めでもありました。僕自身、相手に対する「敬意」を忘れてはならないと自分に言い聞かせていたつもりですが、それでも、気がつくと「慢心」や「勘違い」が生じている自分に気づかされていたからです。

 そもそも、人間というものは「自分の仕事」に対してプライドをもつ生き物です。
 一生懸命に仕事をすればするほどプライドは高くなる。そして、部署というものが存在すると、そのプライドを共有する仲間がいるがために、さらにプライドは強固なものになる。あるいは、そこにはメンツのようなものすら生じる。それが自然なのだと思うのです。

 しかし、それがゆえに部門間に「壁」が生じるのではないでしょうか?
 だからこそ、僕は“Respect each other.”という標語を掲げ、それを常日頃から社員たちに呼びかけるとともに、リーダーが率先してそれを実践する必要があると考えています。

 理想論かもしれませんが、この“Respect each other.”という言葉を、全社員の心のなかに根づかせることができたとき、そこにはあらゆる「壁」がなくなり、組織の潜在力が最大限に発揮されるようになると思うのです。

 (この記事は、『リーダーは偉くない。』の一部を抜粋・編集したものです)。

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最終更新:4/20(土) 6:01

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