レーンですしを回さず、入店から注文・会計まで非接触で貫き通す、新「スシロー」流生き方

5/27 5:02 配信

東洋経済オンライン

日本の漁業が危ない。生産量はピークから7割減。輸入金額も増え、海外勢に買い負けている。一方、魚を獲りすぎず、資源を安定させなければ漁業の未来はない。
『週刊東洋経済』6月1日号の第1特集は「全解剖 日本の魚ビジネス」。われわれは魚をいつまで食べられるのか。

 コロナ禍後も手堅い消費を続ける回転ずし業界。中でも回転ずしトップの「スシロー」を抱えるFOOD & LIFE COMPANIESが好調だ。

 5月10日に発表した2024年9月期の中間決算。売上高は1759億円(前年同期比22.8%増)、営業利益は123億円(同135%増)とで、過去最高に近い水準だ。通期でも過去最高営業益に迫る。

 とくに利益面では国内スシロー部門の回復が大きい。

 月次で見ると、2022年は10月に最安で黄皿の100円皿(税抜き)について、初めて値上げ。おとり広告の問題も重なり、客数を落としていた。

■価格変動の「白皿」、100円皿復活などを連打

 だが、2023年から価格を変動できる「白皿」を導入。高単価の商品を投入するとともに値下げ販促も実施した。創業40周年キャンペーンで100円の皿を復活させるなど、攻勢に転じ、同年8月から客数はプラスに転じている。既存店売上高も直近の2024年4月まで10カ月連続プラスだ。

■くら寿司はセントラルキッチンを置くが・・・

 国内店舗数653店(すべて直営)で首位のスシロー。コロナ禍やインフレを乗り越え、改めてその強さに磨きがかかっている。

 強さを表す要素の1つが店舗の力だ。スシローがブレずに変えていないのが、店舗での人による作業。魚をすしの大きさに加工する切り付けだけでなく、天ぷらなどの揚げ物も店舗での最終調理にこだわっている。

 一般的に多店舗展開する外食チェーンでは、調理を1カ所で引き受けるセントラルキッチンを導入する企業が多い。セントラルキッチンは最初にファミリーレストラン業界で取り入れられ、いわば工場として食材を生産し各店舗に配送する仕組み。各店のキッチンが簡略化されるため、コストを削減できるうえ味も均質化できる。

 回転ずし業界でも、競合するくら寿司は、セントラルキッチンを抱える。大阪府や埼玉県にある工場で、魚を加工、店舗に配送する。一方でスシローは、セントラルキッチンを持っていない。商社から買い付けた食材は、外部の物流業者を通して保管したり、各店舗に送ったりしている。

 試されるのは個々の店舗の実力。魚は切り付けで水分の抜けていく速さなどが変わるが、店舗での最終調理によってよりおいしい状態での提供が可能になる。「いいネタを提供することも大切だが、それ以上に出来たての状態を提供することのほうが大切だ」と水留浩一CEOは言い切る。

 もちろんネタの鮮度にもこだわっている。

 例えばスシローで使用されているブリやハマチは、九州や近畿地方で養殖されたものだ。水揚げされた魚は、当日中に活け締めにされ、さばかれることが多い。一部では水揚げ後、生きたまま運べる活魚車や活魚船で消費地まで運び、その日のうちに店舗で新鮮なネタを出すところもある。

 その反面、店舗で作業する難しさもある。品質の安定だ。人の手による作業を個々に行えば、商品ごとにブレが出てしまう。ネタによってはあぶるなどの工程が必要で熟練度の差も出る。

 スシローではパートやアルバイトのスタッフでもこれらの作業ができるように統一したマニュアルを作成。本部の社員が店舗に出向き、商品の調理手順やイメージを徹底的に伝える。より難易度の高い商品では動画版のマニュアルも用意し、これらの施策で品質の維持に努めているわけだ。

 ある業界関係者は「セントラルキッチンのほうが厨房のスタッフの負担は軽い」と打ち明ける。それでもスシローはあくまで人の手をなくさず味を追求し続ける。

■食材や調理「以外」ではデジタル化を徹底

 食材や調理の面では手間暇をかける一方、効率化においては徹底している。

 1958年に第1号店(「廻る元禄寿司」)が開業以来、回転ずし業界は外食の中でも省人化が早かった業態だろう。大手3社のうちくら寿司は、2002年に注文用のタッチパネルを導入した。

 スシローの場合、現在では入店時の対応も機械化されており、スタッフによる誘導もなく、顧客は指定された番号の座席に案内される。自動精算機のある店舗では、顧客は入店から注文、会計まで店の人間と1回も接触することなく、退店できてしまう。

 さらにスシローの推し進めたデジタル化が、デジタルスシロービジョン、通称「デジロー」だ。

 回転ずし業界では、一時の迷惑動画事件を機に、回転レーンを取りやめる動きが相次いだ。回っている回転レーンで商品を延々と流すのではなく、注文された商品のみを直線レーンで直接提供する方式に変わっていった。

 これには廃棄ロスを減らせるメリットがある反面、顧客の見込み買いがなくなるデメリットがある。何より回転レーンには、いろいろ回っている中から顧客が選べるという、エンタメ的要素があった。

 デジローではテーブルと垂直に巨大なモニターを設置、映像で流れるすしが映し出される。顧客は画面をタッチして注文でき、従来の回転ずしに近い楽しみ方ができる。景品がもらえるミニゲームもある。「楽しいという声をいただけている」(水留CEO)。

■当面は回転レーン復活の予定なし

 当然ながら単なる話題作りではない。エンタメ効果でファミリー層を集客できれば、客単価も上げられるという計算である。現在、デジロー導入店は新宿など3店だが、9月までにさらに19店まで増やす。スシローは今後も回転レーンの店舗を復活させる予定はなく、くら寿司は回転レーンで商品にカバーをつけて提供と、両者の判断は分かれた格好だ。

 こうした国内スシローのリモデルに加え、アジアを中心に海外売り上げの拡大、養殖など上流部門への進出によって、F&Lは2026年9月期に売上高5200億円(2024年9月期見込み3600億円)、長期では1兆円を目指す。営業利益率は長期で10%以上(同6.1%)が目標だ。

 時代の変化に合わせ、融通無碍に進化し続けるスシロー。1兆円企業の仲間入りをするには、もう一段の成長が欠かせない。

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最終更新:6/5(水) 11:02

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