アパートやマンションには名前がつけられており、物件のエントランスにその名が掲げられていることも多く見られます。このような物件の名前は、オーナーが自由に決められるように思えますが、実際はどうなのでしょうか?
ちょうど先日、アパートの名前に芸能人のGACKTさんの名前を使用したことが、インターネット上で物議を醸していました。
このようなアパートの名前の付け方は問題があるのか、きちんと理解をしている人も多くはないのかもしれません。
今回は、アパートやマンションなど建物の名称についての法的な規制について解説します。
■建物の名前は自由に登録できる?
そもそも、建物の名前はどこに登録されるのでしょうか。
建物を新築した際には、各自治体の住居表示条例などに基づき、自治体に建物名を届け出ることになっています。
また、登記については、区分建物であれば登記情報の「一棟の建物の表示」の部分に「建物の名称」が記録されます(区分建物以外の場合には「所在」の欄に建物の名称を記録することができます)。
いずれの場合も、確認する限りでは、建物の名称に特に法令上の制限はないようです(ただし、登記実務では「事務所」や「工場」といった一般的な建物の種類を指す言葉は「建物の名称」としては登記できないとされているようです)。
その点では、建物の名称はオーナーが自由に設定できると言えます。
■「地名」などの使用ルール
ただし、不動産の売買業や賃貸業を行う場合は注意が必要です。
まず、不動産の表示に関する公正競争規約(※)第19条第1項では、物件の名称に地名などを用いる場合のルールとして、所在地の町名や字名のほか慣例上の地名や最寄り駅、直線距離で300メートル以内の公園や史跡、50メートル以内の街道を使用できることなどが定められています。
※多くの不動産業者が加盟する不動産公正取引協議会が定める、広告表示等に関する自主規制ルール。
そのため例えば、住所が銀座でもなく最寄り駅も銀座駅でない場合には、「銀座」という名前は使えないことになります(現実には「銀座東」などの名前を冠している物件は見られますが)。
■過去には損害賠償となった事例も
また、他社のブランド名などを使用する場合には別の観点から問題が生じます。
いくら名付けは自由だといっても、常識的に考えて、関係のない自分のマンションに野村不動産の「プラウド」や三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス」のような名称を付けて販売業や賃貸業を行っていたらまずいのはわかるかと思います。
これは法的には「商標権」の侵害となります。商標とは、事業者が取り扱う商品・サービスを他者のものと区別するために使用するネーミングやマークのことです。
通常はこれらのような有名ブランドの場合は、その標章(文字やロゴなど)は、不動産の販売や賃貸という役務(サービス)に使用される商標として登録されていますので、勝手に使用すれば商標権侵害となってしまいます。
では、不動産業と関係ない会社のブランド名を使う場合はどうでしょうか?
そのようなケースで有名なのが「ラ ヴォーグ(La Vogue)南青山事件」(東京地裁平成16年7月2日判決)です。
この訴訟は、建設するマンションに「ラ ヴォーグ南青山(La Vogue Minami Aoyama)」という名称を付けて販売した不動産業者に対して、ファッション雑誌「VOGUE」の出版社が、マンション名のロゴの使用差止めおよび損害賠償を求めたものです。
商標の問題ではなく、不正競争防止法にいう不正競争行為に当たるかが問題とされました(「VOGUE」の商標は、不動産業関連に使用するものとしては登録されていなかったため)。
不動産業者側は争いましたが、結論として、出版社側の請求は認められました。
このマンションはデザイナーズマンションと銘打って広告されていたり、パンフレットにはファッションショーにおけるモデルの写真が使われ、ファッション雑誌のような体裁になっていたりしたようです。
このことなどから、裁判所は、このマンションは「VOGUE」誌と何らかの関連があると顧客に誤信させるものである(他人の営業と混同を生じさせる行為に当たる)として、不正競争行為に当たるとしました。
その結果、マンション名のロゴの使用差止めと、このマンション名の使用料相当額の損害賠償が命じられました。
■話題のアパートはどうか?
冒頭に紹介したケースでは、報道されている事情のみからは確定的なことは言えませんが、アパートの名称は、アパートの所在地の町名である「学戸」(がくと)とGACKTさんのお名前をかけて付けたものだと推測されます。
※なお、「GACKT」は商標登録されているようですが、不動産業に関連するものとしては登録されていないようです。
そうすると、例えば他に、GACKTさんとの関連を想像させ、ブランドイメージにタダ乗りしていると言えるような事情がない限りは、不正競争行為には当たらないと言えそうです。
もちろん、そうはいっても人名を使われた本人からすれば不快に感じることは当然あるでしょう。
事業として不動産賃貸業などを行うのであれば、違法かどうかのみならず、さまざまな方面への配慮は必要になるかもしれません。
アパートやマンションの名前は、入居者に与える物件の印象として重要な要素の1つです。魅力的な物件名をつけたい気持ちは大変よくわかりますが、このような法的ルールを守った上で工夫するよう心がけていただければと思います。
弁護士・関口郷思/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
最終更新:4/28(日) 11:00
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