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ランクル、プリウス…廃車寸前の中古車を修理して海外へ輸出!在日パキスタン界の「アニキ」がはじめて明かす、日本人が知らない「日本製品の魅力」

5/2 11:17 配信

マネー現代

横浜からカラチへ

(文 週刊現代) 日本の中古車が世界で人気、と聞いても驚かないだろうが、その輸出を担う業者の大半がパキスタン人であることを知る人は少ないだろう。いつから? なぜ? キーマンが語る「日本の裏面史」――。

 前編記事『トヨタカローラに日産サニー…「中古車輸出ビジネス」のキーマンが埼玉にいた! 在日パキスタン人2万人を束ねる「アニキ」の意外な素顔』に引き続き、在日パキスタン人が中古車市場を牛耳るまでの歴史に迫る。

 73歳のライース・スィディキさん。来日50年を迎え、在日パキスタン協会の会長を務めるこの人物こそ、「日本の中古車輸出業のビッグボス」だ。

 核開発で話題になったカーン博士の弟子だったライースさんは、研修生として学んだあと、新車のトヨタカローラを3台持って帰国。すると、一台につき1700ドル儲かった。

 ちょうど安くて性能の良い日本車が評判になり始めた頃。新車よりも中古車の方が安くて需要があるとわかり、本腰を入れて中古車ビジネスをやろうと、再来日して東京の江東区で会社を設立した。

 「各地の展示場(中古車販売店)などに出向き、パキスタンで求められている車を購入して横浜の港からカラチへ送りました。現地のディーラーから『〇〇という車種が欲しい』というリクエストがあれば、すぐ用意しました」

 たとえばトヨタのカローラを30万円で仕入れたとする。これを船でパキスタンまで運ぶと約10万円のコストがかかる。それでもパキスタンでは45万~50万円で売れるので、その差額が利益になる。トヨタランドクルーザーなど人気の車種だともっと高く売れ、利幅も大きくなるという。

江戸川区の工場で新車同然に

 日本では10万キロ以上走った車は敬遠されて商品にならないが、海外では重宝された。ライースさんはそこに目をつけた。

 「修理工場などを回って廃車寸前の車を安く買い付け、江戸川区篠崎の工場でリコンディショニングしました。エンジン回りを修理し、板金塗装して、可能な限り新車に近いような形にしました。

 商売が大きくなると、横浜、名古屋、神戸、広島に拠点を作り、各地で中古車を購入し、それぞれの港から送りました。というのも、船は横浜から名古屋、神戸、広島に寄り、カラチへ行くルートになっていたためです」

 ライースさんは当時まだ20代。日本の修理業者などは力になってくれたという。

 「私がまだ若いでしょう。すごく褒めてくれましたし、いろいろ教えてくれました。バックアップしていただきました。感謝しています」

バブルで職を失った同胞

 最初はパキスタンに限定しての事業だったが、世界中で日本車が大人気だった時代。バングラデシュやスリランカの業者も「日本車を回してほしい」と日本にいるライースさんを訪ねてくるようになった。

 「ドバイ、アフリカ、オーストラリア……私が扱う車は質がいいとの評判が駆け巡り、世界中から私のところにディーラーがやってきましたよ。

 ここまで繁盛すると、まったく手が足りません。そこに『中古車輸出は儲かるらしい』と聞きつけた日本在住の同胞が私を訪ねてくるようになりました。'90年代初めのことです。

 私は、中古車ビジネスのノウハウをすべて教えました。日本のバブルが崩壊したころで、彼らもほかに仕事がない。なんとか成功しようと必死ですから、みんなすぐに仕事を覚えましたよ」

 バブルで職を失ったパキスタン人は、自動車修理工場などを回って廃車寸前の車を探し、ライースさんの会社に売った。やがて、彼らは手法を覚え、自分の会社を立ち上げた。

 「私が仕組みを作って、パキスタンのみんなに教えて、ここまで大きくなった。ひとつの市場になったと思います」

みんなの幸せのために

 以後、パキスタン人による中古車輸出業者が続々と誕生し、日本の輸出業の中枢を担うようになったという。

 市周辺に中古車のオークション会場が点在する埼玉県八潮市にはパキスタン人が形成する「ヤシオスタン」と呼ばれる地域が、また中古車の輸出港を抱える富山県射水市には同様に「イミズスタン」と呼ばれる地域があるが、これらも源流を辿れば、ライースさんに辿り着くのだ。

 ライースさんにビジネスを学んだ彼らはやがて富を築き、競合相手となった。嫉妬心やライバル視はないのか。

 「教えた相手から謝礼やマージンを取るかって? まさか! 困ってる人がいたら助ける。それがイスラムの教えです。みんな友だちです。ライバルとは思わないですよ。おカネよりみんなの幸せが大事なんです、私たちは」

 熱心なイスラム教徒で、イマーム(導師)として戸田にあるモスクの責任者も務めるライースさん。その言葉には自然と重みが感じられる。宗教指導者としての活動を中心に行いながら、いまもその合間を縫って中古車ビジネスを続けているという。

 「海外で需要が高いのはやはりトヨタ。カローラからランクル、ハイラックスまで。ハイブリッドのプリウスも人気ですね」

日本人は気づいていない

 同族意識の強いパキスタン人は、兄弟や親類が世界中に散らばり、そのネットワークを利用して中古車ビジネスを展開している。彼らは語学が堪能なことに加え、車の修理工場をくまなく回って廃車寸前の車を安く買い付けるなど足で稼ぐ勤勉さも持ち合わせている。

 「パキスタン人は勤勉ですよ。足を使って働く。人が嫌がる仕事もやる。なぜって? 豊かになりたいからですよ。

 日本人は豊かになりすぎましたね。ツラいことがあるとすぐに仕事を辞めちゃう。もったいないですね。日本の製品を求めている人が世界中にいるのにね」

 エラそうなことは言いたくありません。でもひとつだけ、日本の経済が元気になる方法を教えましょう――最後にライースさんはこんなアドバイスをくれた。

 「私にとって日本は第二の母国のようなもの。なぜならパキスタンには22年間住んだだけ。ここには50年です。日本はもっと世界で大きいことができると思います。そのためにはもっと、イスラムの国々と仲良くすることですよ。世界はアメリカや中国、ヨーロッパだけじゃないことに気づいたほうがいいですね」

 日本人以上に日本製品の魅力を知り、日本人以上に助け合いの精神を持つ彼らから、学ぶべきことはたくさんありそうだ。

 「週刊現代」2024年4月20日号より

マネー現代

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最終更新:5/2(木) 11:17

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