ついに立憲民主も...夏の参院選対策の「消費税減税」、“一時的”はまやかし、本当に消費者に恩恵はあるのか?より有効な負担軽減の方策とは
消費税減税が、今夏の参議院選挙の選挙対策になっている。国民民主党、日本維新の会だけでなく、立憲民主党も食料品への軽減税率を一時的にゼロにする方針を示した。
ただ、与党内には、執筆時点では、消費税減税に反対する声も根強い。参議院選挙対策にはなるかもしれないが、税率を引き下げて値段が下がるのは、税率を下げた年だけの効果で終わる。下がった税率のままではさらなる値下げは起こらない。そして、しばらくすると衆議院選挙の時期はいずれ訪れる。軽減税率をゼロにしても値下げ効果は終わっており、衆議院選挙対策にはならない。
野党は、「一時的に消費税率を下げる」といっている。しかし、一度下げた税率を再び元に戻すことが果たしてできるのだろうか。
■「一時的」なんてできるはずもない
まず、消費税率が引き下げられると判明したら、買い控えが起きる。税率が下がるのがわかっているのに、わざわざ買い急ぐ消費者はいない。そこで、税率引き下げ前に、一時的に消費が減退する。景気押し下げ効果が先に来るのだ。
税率引き下げは一時的ということで、再び元に戻すとなると、その時は「増税」になるわけだから、逆に駆け込み需要が生じるが、税率を元に戻すと反動減で消費が減退する。
それが目に見えているのに、消費税率を元に戻すだけの政治力が果たしてどの政党にあるだろうか。長期政権を誇った第2次以降の安倍晋三内閣でさえ、消費税率を5%から8%に上げた後で、10%に上げるのに2度の延期を経て5年半もかかった。
「一時的」というのは、できるはずもないことを言っているも同然で、詐欺に近い。半永久的に下げることを目論んでいるとしか言いようがない。
だから、今般の消費税減税論議は、「一時的」というのはまやかしであって、税率を、半永久的に引き下げるのか、据え置くのか、という選択とみるべきだろう。
半永久的に税率を下げるとすると、失われる消費税収が充当されていた社会保障給付は、どうやって維持するのか。
消費税は、社会保障財源化されており、社会保障4経費(医療、介護、年金、子ども・子育て支援)に充てられている。それでいて、今の消費税収だけでは社会保障4経費を賄い切れていない。2025年度当初予算ベースでは、消費税収が国と地方合わせて(社会保障財源とされていない地方消費税1%分を除く)28.4兆円なのに対して、社会保障4経費は47.9兆円にも達し、19.5兆円も足りない状態である。
そこに、食料品等の軽減税率をゼロにすると約5兆円の税収が失われるとされる。前掲した2025年度予算でみると、47.9兆円に達する社会保障4経費に充当される消費税収は23.4兆円となり、24.5兆円も足りず必要な財源の半分にも満たない状態となる。
そこで赤字国債を増発すれば工面できるという言説もある。
しかし、今年の社会保障給付は、今を生きる国民が恩恵を受けてそれで費消するものであって、将来の国民は直接恩恵を受けることはない。そうした支出のために、半分以上も今を生きる国民が負担をせずに、将来につけ回せばどうなるか。
消費税率を引き下げて、その分の社会保障費を赤字国債で賄えばよいというのは無責任すぎる。目先の物価高で生活が苦しいとしても、赤字国債を返済する際の増税が回りまわって将来に重くのしかかってくる。
■減税分そのまま値下げとは限らない
そもそも、消費税の軽減税率をゼロにしようとしても、今日決めれば明日には実施できるというものではない。
まずは、わが国は日本国憲法の定めにより租税法律主義をとっている。法律で事前に定めた通りにしか課税してはならないという、民主主義の基本である。したがって、消費税法で軽減税率をゼロにするという法改正をしなければならない。
法改正ができたとしても、スーパーマーケットのレジスターや企業の経理ソフトなどで、税率を変更する修正をしなければ、消費者は税率を引き下げた恩恵は受けられない。
自動販売機は典型的だ。値札は税込みである。税込み価格の値段を修正しなければ、税率が下がっても買値は変わらない。これまでは8%分の消費税を税務署に納めて残りが企業の(税抜きの)売上だったが、消費税率をゼロにした後で値段を修正しなければ、これまで納税していた分まで全部が企業の売上となる。
もちろん、企業は値札を変えるだろう。しかし、現在8%の税率がゼロになったからといって、まるまる8%分値下げする必然性はない。それに、消費税以外に物価に与える要因は他にもある。
消費税を下げたのに、思ったほど物価が下がらなかったということは起こりうる。
現に、2020年に消費税(付加価値税)率を引き下げたドイツでは、多くの企業は税率が下がったほどには税込み価格を引き下げなかったという。これでは、消費税率引き下げの恩恵は消費者には及ばない。
消費税減税以外の方法で、消費者に恩恵をもたらすことはできないのか。その方法はまだ残されている。
それは、社会保険料負担の軽減である。
■消費税より重い社会保険料負担
実は、すべての所得層で、社会保険料の負担率のほうが、消費税の負担率よりも重い。これがわが国の実態である。
簡単にその実態のイメージを紹介しよう。
概算で見て、課税前収入を100とすると、所得税と個人住民税の負担は平均で5%(実績値では2〜20%超)、社会保険料の負担は平均で15%ある。所得税と個人住民税と社会保険料を差し引いた手取り所得(可処分所得)は、平均して課税前収入の80%(実績値は65〜83%)である。
この手取り所得から、消費をすると消費税を払う。これを仮にすべて消費して消費税率が10%だとしても、消費税負担は高くとも課税前収入に比して8%(=80%の約10%)にすぎない(実績値では2.5〜5%)。
社会保険料負担は課税前収入の15%なのに対して、消費税負担は課税前収入の数%という人が大半というのが真実である。
だから、社会保険料負担を軽減するほうが、大きく負担軽減する余地がある。消費税減税をしても、気慰みにすぎない。
しかも、高所得者にまで社会保険料を負担軽減する必要はなく、低中所得層に重点的に軽減策を講じることで、必要な財源も少なくて済む。それに、社会保険料の負担軽減を恒久的にもできるし、時限を区切って講じることもできる。
低中所得層は、消費税減税では救われない。社会保険料の負担軽減を、社会保障制度改革と並行して実現することこそが、「年収の壁」の撤廃もできるし、手取り所得の増加につながる。
東洋経済オンライン
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最終更新:4/30(水) 8:32