南海高野線の堺東駅、地元民だけが知る「別の顔」 巨大駅ビルと小さな駅舎、西と東で大きく異なる駅の表情

5/16 4:32 配信

東洋経済オンライン

 大阪府の堺市は80万人超の人口を抱え、大阪市に次ぐ府内第2の政令指定都市だ。大阪市内からは南海電気鉄道の南海本線と高野線、JR阪和線、阪堺電車と大阪メトロ御堂筋線が延びている。

 南海本線には堺駅、JR阪和線には堺市駅というそれぞれ街の玄関口らしい名称の駅があるが、実際に堺市の代表駅と位置づけられるのが、南海高野線の堺東駅だ。

■堺市の玄関口「ガシ」

 堺は歴史の町でもある。大山古墳(仁徳天皇陵古墳)をはじめとする百舌鳥古墳群は2019年に世界遺産に登録された。中世には環濠に囲まれた商人による自治都市として繁栄。本能寺の変で織田信長が明智光秀に討たれた際、堺見物をしていた徳川家康が伊賀越えを経て命からがら領国へ逃げ帰ったエピソードも有名だ。現在も千利休屋敷跡などが残っている。

 堺東は堺市役所の最寄り駅。高島屋が入る駅舎と一体の「南海堺東ビル」は1964年10月の竣工で、2024年に60周年の還暦を迎える。その駅ビルを出ると、昔ながらの商店街。堺東は地元では「ガシ」と呼ばれる。

【写真】かつての堺東駅の駅舎やホーム、駅前。そして現在の堺東駅の様子。昔と今でどのように変わったのか? (60枚)

 堺東を通る高野線の電車は巨大ターミナルの難波と橋本・高野山方面を結んでいる。日中の急行に乗れば堺東までは、南海最大のターミナル難波から約11分、大阪環状線との乗換駅である新今宮からは約9分、大阪メトロ堺筋線が乗り入れる天下茶屋からは約6分で到着する。

 乗降人員は5万3412人(2022年度1日平均)。難波(19万7258人)、新今宮(8万5999人)、天下茶屋(6万7025人)に続き南海全駅のなかで4番目に多い。上位の駅はJR線や地下鉄との乗り換え需要が背景にあることを考慮すると、ほかの路線が乗り入れない堺東はかなりの健闘といえる。

 堺東駅は2面4線の地上駅。帝塚山―金剛間を管轄する堺管区の管区長兼堺東駅長の守道利一郎さんは「4つの顔を持つ駅」と説明する。北と南の2つの跨線橋はそれぞれ東と西に改札口があり、同駅には西出口、東出口、北西口、北東口と4つの出口がある。

 まず駅の表玄関といえるのが南西の西出口。高島屋の3階フロアに直結するほか、再々開発されて2021年にグランドオープンした複合施設「ジョルノ」と屋根の付いたペデストリアンデッキでつながる。デッキはさらに堺市役所の敷地まで延びる。堺市役所の最上階21階には無料の展望ロビーがあり、市内を一望できる。

 税務署やハローワークなどが入る合同庁舎、少し南には2000席の大ホールを備えた堺市民芸術文化ホール(フェニーチェ堺)と、一帯は行政・文化の中心となっている。駅前のバスターミナルからは堺駅前行きの「堺シャトルバス」が発着して東西の移動手段を担っている。堺銀座商店街は、音楽デュオ「コブクロ」のファンにとって小渕健太郎さんと黒田俊介さんが出会った「聖地」でもある。

■東西で対照的な駅舎

 対照的に南東にある東出口は跨線橋から階段を下りた地上の細長い通路の先に昔ながらの小さな駅舎。周辺には府立三国丘高校や、前方後円墳の田出井山古墳(反正天皇陵古墳)がある。難波駅のほか、東武鉄道の浅草駅、近畿日本鉄道の宇治山田駅、阪神電気鉄道の神戸三宮駅などの駅ビルを手がけた建築家の久野節は同校の前身、旧制堺中学の出身だ。

 北側の跨線橋の「北西口」も高島屋の3階フロアとつながっている。こちら側は俳優の沢口靖子さんや直木賞作家の西加奈子さんが通った府立泉陽高校が近い。その前身の堺高等女学校は与謝野晶子、橋田壽賀子さんを輩出したことで知られる。北東口とは跨線橋北側の東西自由通路でつながっている。

 北東口はマンション「堺東ヴューモ」と直結。かつての検車区があった場所を再開発して2009年に誕生した。北側に長尾街道が通っており、東へ進むと方違(ほうちがい)神社。付近は摂津、河内、和泉の3つの国の境界があり、三国ヶ丘や堺の地名の由来となった。

■管区長「堺の街はあたたかい」

 「小学校くらいからずっと堺」という守道管区長は「駅員になってからは仕事が終わって仲間と朝から駅前の立ち飲み屋さんによく行った。堺の街にはあたたかいイメージがある」と話す。運輸車両部主任の元山敦博さんも「堺東は昔からにぎわっている都会で映画館もあったので、どこかへ遊びに行くとなれば難波でなく堺東だった」と振り返る。

 堺東駅は1898年1月、南海高野線の前身の高野鉄道の開通によって誕生した。当時の駅名は大小路駅で、最初に狭山駅までの区間が開業、ほどなくして現在の河内長野駅まで延伸した。

 大阪中心部へ向けて北側は1900年に道頓堀(現在の汐見橋)へ延びた。現在は堺東・高野山方面の電車は難波駅に直通。高野線の岸里玉出(きしのさとたまで)―汐見橋間は運行が分離されて、各停が往復するのみとなっている。

■将来は高架駅になる

 堺市内の鉄道路線をとりまく環境は変化しつつある。高野線は、JR阪和線とは堺東の南に1駅隣の三国ヶ丘、大阪メトロ御堂筋線とはその2駅隣の中百舌鳥(なかもず)で接続している。大阪市の中心部を南北に縦断する御堂筋線にとって中百舌鳥は南側の始発・終着駅。一方の北側は吹田市の江坂から北大阪急行線に乗り入れており、2024年3月の箕面萱野(みのおかやの)延伸によって堺市と箕面市が1本の電車で結ばれるようになった。

 また、高野線の中百舌鳥からは南海電鉄の完全子会社、泉北高速鉄道の路線が分かれている。泉北高速鉄道線は高野線の難波方面と相互直通運転していて、通勤・帰宅時間帯には全車座席指定の「泉北ライナー」が走る。終点の和泉中央を除いて途中駅は堺市内にある。南海電鉄と泉北高速鉄道は2025年度早期の経営統合を目指す方針を発表している。

 堺市は高野線の連続立体交差事業を進める。堺東駅の北隣の浅香山駅から堺東駅付近を含む約3kmの区間を高架化することで10カ所の踏切を取り除く計画だ。完成予定は2040年度頃。これまで再開発を繰り返してきた「ガシ」の風景もさらなる変貌を遂げることになりそうだ。

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最終更新:5/17(金) 18:02

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