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EVがいつのまにか「上級国民」の乗りものになっていた…!フォード会長が「政争の具に堕ちた」と嘆くウラで、ついに判明した「アメリカ人がEV嫌いになった決定的なワケ」

4/4 7:02 配信

マネー現代

アメリカでEVが「政争の具」になっていた…!

(文 岩田 太郎) 米国で、電気自動車(EV)の「政治化」が進んでいる。

 トランプ前大統領が、現職のバイデン大統領が目玉政策として推進するEV普及の失速を格好の政争の具にしたからだ。11月の大統領選挙で返り咲きを目指すトランプ氏にとり、EVの不人気がバイデン氏の政策の信用性を攻撃する効果的な武器となっている。

 しかし、EV政治化の裏には、次の4つをはじめとした米社会の分断に根差す構造的な対立がある。

 1.経済格差によるクルマ購買力

 2.党派に左右される環境意識の高低

 3.計画経済的な「EV押し付け」を嫌う一部消費者の不満 

 4.自動車産業労働者のEVに対する反感」

 この記事では、もともとクルマ購入のひとつの選択肢に過ぎなかったEVをめぐる文化戦争の様相を読み解くことで、バイデン対トランプの個人的な対決のせいで、政治色がさらに強まる「乗りもの」の未来を占う。

フォード会長の嘆き

 米自動車大手フォードの元最高経営責任者(CEO)であるビル・フォード会長には、悩みがある。自社EV製品に党派色がついてしまったことだ。

 創業者ヘンリー・フォードの曾孫であるビル氏は、2023年10月に米ニューヨーク・タイムズ紙に対して次のように説明した。

 「EVの政治化が顕著になってきた。民主党寄りの州では、『気候変動対策としてのEV普及が急務だ』と叫ばれる一方で、共和党寄りの州では、『EVは新型コロナウイルスワクチンの強制接種のようだ。政府が無理やり買わせようとしているが、そんなものは要らない』との声が上がっている」

 「弊社の製品がここまで大きく政治化される日が来ようとは、夢にも思わなかった」

 一昔前までは、よい製品を作って世に送り出せば、買い手がリベラルであれ保守であれ、買ってもらえた。クルマはクルマであり、政治など関係なかった。そんな嘆きである。

 今では、「EVは意識の高い都会派の民主党員の乗りもの」と見られる一方で、ガソリンを大量消費して地球温暖化ガスを撒き散らす非EV系のSUVやピックアップトラックは、「環境破壊を平気で行う田舎者の共和党員の乗りもの」というイメージがついている。

 そうしたクルマの環境性に対する印象は、人々の現実の考え方と合致している。

「上級国民」への反発

 米世論調査大手のピュー・リサーチ・センターが2023年6月に実施した意識調査によると、「2035年までにガソリン車の新車販売を段階的に廃止する」という、バイデン政権の目標に賛成する民主党員および民主党寄りの有権者は64%に上り、反対は35%に過ぎなかった。ところが、これに対して共和党員は84%が反対で、賛成は16%にとどまったのである。

 さらに興味深いのは、コンサルティング大手の米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が2024年1月に3000人を対象として行ったEVに関する消費者属性調査の結果だ。

 この調査では、消費者を「EVオーナー(初期導入層)」「アーリーマジョリティ(前期追随者)」「レイトマジョリティ(後期追随者)」「EV抵抗層」に分けて、その傾向を明らかにしている。

 それによると、すでにEVを所有するオーナーや、EV購入に前向きな層は「新しいテクノロジーに熱心」「環境意識が高い」「ぜいたくに前向き」「新しいもの好き」「EVに対しては同等ガソリン車の最大2割増しのプレミアを払うことをいとわない」という傾向が出た。

 これは、近年民主党主流派になりつつある「都会に住む高収入で大卒のリベラル層」の政治的志向と重なる部分が多い。

EVを軸にして深まる「政治対立」

 アメリカ政治学会(APSA)の季刊学術誌で2023年に発表された論文が指摘するように、「過去数十年間に民主党は、収入においてトップ33%、株保有者、高収入職種に就く有権者からの支持を増やしてきた。こうした民主党支持者は大都会あるいは中規模都市に住む大卒者である場合が多い」からである。

 また、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスの2023年の研究によれば、民主党に投票する有権者が多いカリフォルニアをはじめ、ワシントンやオレゴンなどリベラルな州ほど、EV普及率も高いことが判明している。

 一方BCGの調査においては、EV抵抗層やレイトマジョリティが、「テクノロジーに無関心」「環境問題に興味なし」「ぜいたくはしない」「新しいものを拒絶する」「EVに対しては最大でも同等ガソリン車の5~10%増しのプレミアしか支払うつもりはない」という特徴を示している。

 これは、米政治サイトのポリティコで共和党の世論調査専門家であるパトリック・ルフィニ氏が指摘したように、共和党トランプ派が近年労働者層からの支持を増やしつつあり、「地方在住のあまり豊かでない非大卒の保守層」の賛同を集めて党の主流となりつつある傾向に重なる。

 高価なEVを購入する経済的余裕もなく、環境意識が高くない層は一般的に、EVに対して懐疑的なのだ。

 こうした状況は、EVが大統領選の争点に浮上しているだけでなく、今後、その普及が大きく遅れる可能性を示している。

 後編「EV大好き“都会派カネ持ちエリート”へ高まる憎悪…ついに大統領選の争点に! トランプの「誰も乗りたくない」発言を支持する「EV嫌いアメリカ人」が抱える不安と不満」では、階級対立の象徴となってしまったEVをめぐる分断の中身について、さらに詳しくお伝えしていこう。

マネー現代

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最終更新:4/4(木) 7:02

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