予約3年待ち「とだか」も入る五反田新ビルの正体 ゆうぽうと跡地に再開発、星野リゾートも参画

5/15 9:21 配信

東洋経済オンライン

 「モノ」から「コト」へ消費様式が変化してきたとはよく言われることだが、さらに今は「トキ」という要素が重視されるようになってきたらしい。何かを体験するだけでなく、イベント等に主体的に関わり、さらにその体験を他者と共有することで、ユニークな価値を持たせようとするもののようだ。

 そうした変化を受けて、消費の場である商業施設の戦略も変わってきているようだ。例えば2024年4月17日に開業した東急プラザ原宿は、施設内に老舗銭湯を導入。地域住民も巻き込みながら、街全体の魅力アップを図る施設を目指している。

■変わりつつある商業施設の「戦略」

 これに続き、4月26日にオープンを迎えたのが五反田JPビルディングだ。2015年に閉館した、ホールや結婚式場、ホテルなどの複合施設「ゆうぽうと」の跡地に再開発されたもので、事業主は日本郵政の子会社である日本郵政不動産。

 新たに生まれ変わったビルも、旧ゆうぽうとの担っていた文化的側面を引き継ぐ形で、ホテル、オフィス、シェアオフィス、ホール、フードホールなどを備える施設となっている。ホテルは星野リゾート、ホールは品川区、シェアオフィスは都内3カ所でシェアオフィスを企画運営する「春蒔プロジェクト」が運営を行う。

 【画像】五反田JPビルディングに開店した「食堂とだか」の「ウニ・オン・ザ煮玉子」や、生パスタ専門店「おいしいパスタ」など(11枚)

 フードホールは「五反田食堂」と銘打ち、地元の名店や五反田初出店の店など11店舗が名を連ねる。注目は、予約待ち3年の超人気店「食堂とだか」の出店だ。五反田では3店舗目となるため、「ここにもとだか」の店名で出店される。

 とだかは2015年、五反田で創業。グルメをテーマとする長寿ドラマに取り上げられたことがきっかけで人気に火がついた。2016年に「立ち呑みとだか」、2021年に「虎ノ門とだか」をオープン。常連客が来店したときにその場で1~2年先の予約をしていくので、予約がなかなか取れない店となっている。

■なぜ「とだか」が4店舗目をオープンしたのか

 その食堂とだかが、五反田JPビルディングに4店舗目を開店した理由はどのようなことだったのだろうか。店主の戸高雄平氏に聞いた。

 「もともと店をどんどん拡大していこうという方針ではない。しかし今回は地元、五反田での出店依頼だったことに心が動いた。五反田を盛り上げられればと思い、出店させていただいた」(戸高氏)

 また、これまでの店舗でできなかったサービスを提供できることも、新店を出す理由として大きいようだ。

 そのサービスの一つがアラカルトメニューだ。食堂とだかも、開店当初はアラカルトメニューの店だったが、今は飲み放題付きのコース料理(1万5400円)のみとなっている。

 しかし、戸高氏自身もアラカルトで料理を注文するほうが好きであり、本来は客にも好きなものを注文してもらいたいという思いがあった。そこで新店舗「ここにもとだか」は、アラカルトで注文できる店にしたという。

 名物メニューの「ウニ・オン・ザ(イクラ)煮玉子」(800円)や牛ご飯(1500円)をはじめ、同店のみで食べられるオリジナルメニューもそろう。

 予約はネット予約サービスの「トレタ」で受け付けており、オープン時点で5月いっぱいまで満席になっている。しかし本店のように数年先まで埋まっている状態にならないよう、1~2カ月単位で予約を受け付ける。ゆくゆくは予約を取らなくても入れる店にしたいというのが戸高氏の方針のようだ。

 なお、本店なども予約キャンセルや、予約客が時間いっぱい使わないことなどでたまに席があくタイミングもある。店からのSNS情報をよく見ておけば、飛び込みで予約も可能だそうだ。

■「とだか」の代表メニューを実食

 今回、フードホールの開業試食会とあって、「ウニ・オン・ザ(イクラ)煮玉子」と「トダチキ(辛め)」(800円)を試食することができた。

 「ウニ・オン・ザ(イクラ)煮玉子」は、言わずと知れたぜいたくで濃厚な食材のトリオ。しかしどの味が立ちすぎるということなく、口の中で溶け合っていくのが不思議な感じだ。味のハーモニーを楽しむためには、パクッと一口で食べるのがおすすめだが、反面、食体験があっという間に終わってしまう。名残を惜しみながらも、気持ちを切り替えてほかのメニューを楽しめるのがまたいいのだろうか。

 トダチキは粉つけをせずに素揚げにした手羽先で、同店では丸ごと唐辛子をたっぷりまぶした辛めタイプを提供。見た目ほどには辛くなく、まずはしっかりめに調味された塩味と、鶏の旨味が感じられる。食べ進むにつれ、じわじわっと辛くなっていき、ビールといっしょに無限に食べられそうだ。

 新店では鳥羽晋介店長が腕をふるうほか、本店から至近にあるため戸高氏も顔を出す機会が多い。とだかの味をより気軽に味わえる場として人気が高まりそうだ。

 「ここにもとだか」も商業施設に入居するテナントとしてはユニークだが、そのほかの店舗もちょっと変わった顔ぶれ。誰もが知るチェーン店はタリーズコーヒーぐらいなのだ。

 「ここにもとだか」のすぐ隣に出店しているのが生パスタ専門店「おいしいパスタ」。運営企業にはsioの鳥羽周作氏がかかわるなど、素朴な店名ながら一癖ある店となっている。

 当日試食したのは「和風ガーリックカルボナーラ」(1100円)。かつお節をアクセントにしたやさしい味わいで、もちもちした生パスタの香りや味を引き立てている。

 コロナ禍、鳥羽氏の名を広めるきっかけになった「ナポリタンを超えたナポリタン」(1100円)も、この店で味わえる。

 なお、「ここにもとだか」の店長が、sioの鳥羽氏と同じ姓なのは偶然である。

■素材にこだわった定食屋

 五反田発の店舗としてほかに名を連ねるのが「食事処・志野」。五反田TOCビルの建て替え計画に伴い移転した地元の人気店だ。ボリュームがあり、味もしっかりめのガッツリメニューを提供する定食屋だが、無農薬・無化学肥料の米、抗生物質ゼロの豚肉、化学調味料一切不使用など、素材にこだわっている。

 名物メニューの「ニクシチ(豚肉七味炒め)」を試食したところ、七味の利いたガツンとした味もさることながら、豚肉がやわらかく食べやすいのが心に残った。また自家製ラー油も奥深い味わいで、餃子のほかにも合わせてみたくなる。

 これまでのファンに加え、界隈のビジネスパーソンのランチ需要、ちょい呑み需要を満たしてくれそうだ。

 食後のコーヒー、デザートのお店として試食したのが「Specialty Coffee AMAMERIA」。世界で流通しているうちの5%にも満たないという、こだわり抜いた高品質のコーヒー豆を用いたシングルオリジンのコーヒーを提供。武蔵小山、碑文谷に続く3店舗目として、初めて商業施設に出店するという。

 試食したのは「オレンジアメリカーノ」(Rサイズ660円)と、パフェ「ルージュ」(Rサイズ690円)。オレンジアメリカーノはオレンジジュースとコーヒーを合わせたドリンクで、オレンジの香り、酸味、コーヒーの苦味が清涼感をもたらしてくれる。

 パフェは、スペシャルティコーヒーを使ったソフトクリームにベリーフレーバーをふりかけたもの。焙煎で引き出されたコーヒー豆本来のフルーティな味わいが、ベリーのフレーバーと響き合って、大人味のパフェに仕上がっている。コーヒー味のソフトクリームのおいしさに気づかせられた一品だ。

■五反田の雑多な魅力を伝えるフードホール

 フードホール五反田食堂にはほかに、昭和が香る新宿の名店「アカシア」、駅弁「峠の釜めし 荻野屋食堂」など、セレクトの意図が気になる店舗も。いずれにせよ、入ってみたい店舗ばかりで、五反田の雑多な魅力を伝えるにふさわしいフードホールになったと言えるかもしれない。

 五反田と言えば、昔から五反田をよく知る人にとっては飾らない魅力のある街。安くておいしい店が集まるスポットとしても知られている。そして最近では新たな価値づけが行われているようだ。

 品川から近く、陸路・空路双方のアクセスの良さ、飲食店の賑わいなどに対し家賃は安いということで、スタートアップ企業が集積。イノベーションの生まれる街「五反田バレー」を目指し、ベンチャー企業から成る協会も設立されている。

 ビジネスだけでなく、インバウンドを含めた観光地としてのポテンシャルも高い。星野リゾートは都市観光需要を狙ったブランド「OMO」で今回のプロジェクトに参画している。

 同ブランドの特徴は、地元とともに街の活性化を目指そうとしている姿勢にある。高級レストランなどは入れず、地元のおいしい店のガイドツアーなどを行い、地域にお金を落としてもらう。逆に言えば、地元の魅力をホテルの魅力として取り入れるわけだ。

 また、ホテル内には誰でも立ち入れる空中庭園などを設け、地域の魅力アップに貢献する。

■星野リゾートと手を結んだ理由

 一方の日本郵政不動産は、2021~2025年度の5年間で5000億円程度を投資し、所有する好立地の不動産を積極的に開発、同時に周辺の街づくりにも貢献していくとの方針を立てている(2024年3月期・日本郵政中間決算説明会資料より)。

 日本郵政不動産が今回、星野リゾートと手を結んだ理由も、「コロナ禍、新規出店をするブランドがあまりなかった中、星野リゾートの五反田地域に対する熱意を感じた」(日本郵政不動産代表取締役社長の山代裕彦<やすひこ>氏)からだという(4月25日に行われたメディア向け説明会での同氏発言より)。

 フードコートの店舗ラインナップや、星野リゾートの取り組みなどを見ていると、確かにこれまでとは趣の異なる商業施設になっていると言えるかもしれない。

 とは言え、まだ開業間もなく、利用者、テナント、そして地域住民からの評価に関してはまだ答えが出ない。五反田を元気にするビルとして継続していけるのか、今後の動向が注目される。

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最終更新:5/15(水) 12:21

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