アメリカの長期金利が上昇しても金に投資していいのか

4/28 18:32 配信

東洋経済オンライン

 金(ゴールド)市場は今後も高値を更新し続けるのだろうか。

 国際指標であるニューヨーク先物市場の価格(中心限月である6月限)は、3月後半には1トロイオンス(約31.1グラム)=2200ドルの節目を意識、モミ合い状態が続いていた。だが4月に入ると買いが加速。一気に史上最高値を更新し、12日には初めて2400ドル台まで値を切り上げる展開となった。

 国内の小売価格(地金商最大手の田中貴金属工業)も、円安が進んだこともあり、22日に1グラム=1万3105円と過去最高を更新している。

 今回の上昇局面で特筆すべきなのは、本来は金にとっての逆風、つまりアメリカの長期金利が再上昇し、ドル高が続く中で、金価格上昇の勢いが収まらない点だろう。

 足元で金市場を動かしている真の要因はいったい何か。こうした流れはいつまで続くのか、逆に一転して大きく値を崩すリスクはないのか。金ETF(上場投資信託)などでの投資ニーズも高いことから、経済状況をにらみながら分析してみよう。

■アメリカのインフレ圧力は市場の想定以上に根強い

 まず、金市場の動向にいちばん大きな影響を与えるとされる、金利やドルの動向を確認しておきたい。

 インフレが高止まりする中、アメリカの長期金利は上昇傾向が強まっている。4月10日発表の3月の消費者物価指数は前月比0.38%上昇と、1月や2月に続いて想定以上の強い伸びとなった。変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数の前年比で見ても、わずかながら昨年3月以来で前月を上回る伸びとなっている。

 また、エネルギーが前年同月比で2.12%上昇し、昨年2月以来となる前年比プラスに転じたほか、サービス価格も同5.27%上昇し、4カ月ぶりに5%台の伸びとなった。

 これまでインフレ圧力は後退してきたとされてきたが、あらためて強まる兆候が見えている。26日に発表された3月の個人消費支出のコア物価指数も前年同月比2.8%上昇で、やはりインフレ圧力の根強さを示した。

 一時は国際指標であるニューヨーク原油先物価格が1バレル=85ドルを超えたように、エネルギー価格の上昇は中東情勢の緊迫が原因となった。また、サービス価格が再び強含んでいるのは、依然堅調な雇用が続き、個人消費も旺盛なことなどが背景にある。インフレ圧力が早期に鎮静化する可能性は低くなっている。

■長期金利上昇でも金が買われやすい局面が継続か

 こうした状況下、市場ではFRB(連邦準備制度理事会)が早期に利下げに転じるとの見方は一段と後退している。

 3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で発表された、ドットチャートと呼ばれるFRB高官の政策金利見通しを基にすると、市場では「今年3回の利下げ」が有力視されていた。だがその後、FRB高官からは相次いでタカ派的なコメントが相次ぎ、すでに今年の利下げは2回以下にとどまるとの見方が優勢だ。

 長期金利の指標である同国の10年債利回りも4.50%をあっさり突破。昨年10月以来となる5%の大台を再びうかがうかのような勢いさえ見せている。

 中東情勢など地政学リスクを背景に、“安全資産”としての金が買われる構図はわかりやすい。だが、長期金利の上昇が、皮肉にも金市場に買いを呼び込んでいるという側面もある。

 上述のように、金利上昇は本来、金にとって大きな売り材料のはずだ。しかし、金利が上昇している中では、本来なら“安全資産”であるはずのアメリカ国債には売り圧力が強まる。そのため、リスク回避の動きが強まる中でもアメリカ国債に資金を振り向けにくい。国債を積極的に買うことができない分、今後も金市場への資金流入が続く可能性が高いとみておいたほうがよいだろう。

 では、こうした地政学リスクに対する不安を背景とした、金の“安全資産”としての需要は、今後も金市場を押し上げ続けることができるだろうか。答えは「短期的にはイエスだが、中長期的にはノー」だろう。というのも、地政学リスクは、実は市場でそれほど長期間材料視されないからだ。

 そもそも、イランとイスラエルが本格的な戦闘状態に突入する可能性は低い。さらに、もし戦争開始なら、両国の軍事力が均衡していない限り、どちらかの勝利によって戦争が早期に終結、リスクも後退することになる。また、仮に戦争が長期化したとしても、膠着状態に陥り消耗戦の様相を呈してくれば、徐々に市場の注目も集まらなくなってくるようになる可能性が高いからだ。

 このように、相場が動き続けるには、つねに新たな材料が供給される必要がある。とくに地政学リスクに関しては、いったん戦争状態に入るまで状況が悪化しても、そこで「材料出尽くし」となり、価格下落のきっかけになる場合が多いことも忘れるべきではない。

 これは2022年2月22日に始まったロシアによるウクライナ侵攻でも当てはまる。ロシアがウクライナに突如侵攻した際には、金価格は一時大きく反応した。だが、現在も戦闘は続いているが、市場はほとんど材料視しなくなっている。

 また、古い話だが1990年、イラクがクウェートに侵攻したことに端を発した湾岸戦争でも、多国籍軍がイラクへの空爆を開始した時点で材料としては出尽くしとなっている。

■株価急落時、マネーは必ずしも金市場に向かわない

 さらに、“安全資産”としての金需要という点では、株価急落時の金上昇のシナリオもある。投資家のリスク回避の動きが加速する中、株式市場からの逃避先として、金に買いが集まる可能性がないわけではない。

 だが 、こちらもつねに当てはまるわけではない。確かに株価調整が相対的に小幅で、資金が一時的に移動するだけなら、金にもしっかりと買いが集まってくることが多い。だが、調整が大幅かつ長期的なものとなり、市場の不安が極端に高まった場合はまったく別だ。

 いわゆる「xxショック」と言われるようなパニック的な急落のときは、リスク回避の動きが加速、価格が変動するものはすべて「リスクのある資産」と見なされる。その結果、すべての資産が現金化されることがあっても何ら不思議ではない。こうした「キャッシュ・イズ・キング」(現金こそ王様)と呼ばれる状況に陥った際には、当然、金市場からも資金が流出することになる。

 まさに2008年9月に起きたリーマンショックの際がそうだった。大手証券のリーマン・ブラザースが破綻した直後こそ、金市場には“安全資産”としての買いが大きく集まった。だがその後、株価の下落に歯止めがきかなくなってくると、それを追いかけるように売り圧力が強まり、金価格は破綻直前の水準を大きく割り込むまでに値を崩した(ただし、危機が落ち着くと、いち早く値を戻した)。

 今後も、金価格は高止まりを続ける可能性が高そうだ。だが、市場の不安が極度に高まった際には、金市場さえも“安全資産”としては見なされなくなることは、しっかりと頭の片隅にとどめておいたほうがよい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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最終更新:4/29(月) 5:21

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