原油高騰は円安を加速する弱点、貿易赤字と米利下げ後退のスパイラル

4/19 10:51 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 中東情勢の緊迫化を受けた原油上昇リスクの高まりは、エネルギー供給の大半を輸入に頼る日本の通貨にとって下げが加速しかねないもう一つの弱点だ。

国際原油相場の指標である北海ブレント原油先物は昨年12月に付けた安値から既に20%以上上昇し、イスラエルとイランの対立激化への懸念が原油価格を一段と押し上げる恐れが生じている。野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストの試算では、原油価格が10%上昇すると年間で3-4円の円安要因になるという。

円は主要通貨の中で最もパフォーマンスが悪く、対ドルで34年ぶりの安値まで下落している。日本銀行の追加利上げが小幅にとどまる可能性が高い一方、米国の底堅い経済情勢を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ時期が後ずれし、日米の金利格差が拡大するとの見方が背景だ。

原油価格がさらに上昇すれば、日本の貿易赤字が拡大すると同時に世界的なインフレ圧力も高まるため、FRBや他の海外中央銀行は利下げに踏み切りにくくなり、円安に拍車がかかる。

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マネックス証券の債券・為替トレーダー、相馬勉氏は「原油が高くなると、日本は輸入に頼っているため、需給の面から円安という発想につながりやすい」と指摘。「原油高で物価上昇という連想にはなるが、日銀が急いで金利を上げるとは考えにくく、金利差も残ったまま」と話している。

日本の貿易収支の赤字(季節調整値)は、エネルギー輸入が急増した2021年以降続いている。財務省のデータによると、石油と天然ガス、石炭を含む鉱物性燃料は総輸入額の約4分の1に及ぶ。

インフレ調整後の輸出額が3年ぶりのレンジにとどまるなど、円安でも日本の輸出競争力は上がっておらず、投資家はよりリターンが高い海外の証券に資金を振り向け、企業も成長する海外での投資を増やしている。貿易収支の赤字基調など日本経済が直面する課題克服策を議論するため、財務省は3月に有識者との懇談会を立ち上げた。

FRBがインフレの抑制を目的に金融政策の引き締めを積極的に行ったため、円は対ドルで21年末以降、25%下落している。日本と米国、韓国の財務相は今週、最近の急激な通貨安に対する日韓の深刻な懸念を認めつつ、外国為替市場の動向について引き続き緊密に協議していくとの共同声明を発表した。

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シンガポールのDBS銀行のシニア為替ストラテジスト、フィリップ・ウィー氏は円安進行の原因について「米経済の並外れた回復力によるドル高と米国のインフレが膠着(こうちゃく)状態にあることで、市場がFRBの利下げ観測を後退させたことだ」と分析。中東の緊張は「FRBが再び利上げに踏み切るきっかけになる原油価格の再急騰懸念をあおり、火に油を注ぐ」とみている。

円安阻止への近道

11年3月の東日本大震災の津波で福島第1原子力発電所が事故を起こした後、日本政府が原発のほとんどを停止する決定を下したことはエネルギーコストを上昇させる一因となった。経済産業省のエネルギー基本計画は、現在10%未満の原子力を30年までに22%まで高めたい方針だ。

国際エネルギー機関(IEA)の最新の数字を用いたブルームバーグの計算によると、エネルギー輸入と輸出の差である純エネルギー輸入は、エネルギー消費の85%を占めている。主要国の中で最も高く、エネルギーの純輸出国である米国とは対照的だ。

みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは17日付のリポートで、「電源構成の工夫で輸入金額を調整できる鉱物性燃料の取り扱いが国策として重視されるのは必然」だとし、それが「円安対策として最も即効性が期待できる」との見方を示している。

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最終更新:4/19(金) 10:51

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