70スープラにセリカXX「KINTO」旧車愛ビジネスの深み

3/20 9:41 配信

東洋経済オンライン

 そうだ、旧車に乗ってみよう――。

 1970年代から1990年代あたりの日本車が今、「ネオクラシック」と呼ばれ、当時を知らない若者たちからも注目されている。しかし、古いクルマを実際に購入・維持するのは簡単なことではない。

 そこで生まれたのが、ネオクラシックに誰でも気軽に乗れる仕組み。クルマのサブスクリプション(サブスク)大手のトヨタ系KINTOが導入した、「Vintage Club by KINTO」だ。

 訪れたのは、埼玉県さいたま市の埼玉トヨペット・浦和美園支店。GR Garageとなっている店舗に入ると、1982年式「ソアラ 2.8GT-Limited(Z10型)」が出迎えてくれた。それと同時に、遠い記憶が蘇ってくる。

 1981年にヤマハ発動機の袋井テストコースで実施された、トヨタ自動車(以下、トヨタ)の報道陣向けソアラ試乗会の場面だ。

 当時としては極めて珍しかった、デジタル表示を多用した斬新なダッシュボードデザインや上質なインテリアに驚き、そして2.8リッターのパワーとトルクに魅了された。

 まさに、次世代の日本車を実感した瞬間だった。正直なところ、あれから43年もの歳月が過ぎてしまったという実感がない。

■筆者がアメリカで経験したクルマたち

 さて、今回は2024年3月からのVintage Club by KINTO 「埼玉キャラバン」実施を前に単独取材をさせていただいた。

 試乗車は、1985年式の「セリカXX(ダブルエックス)2000GT(GA61型)」と1992年式の「スープラ 2.5GTツインターボエアロトップ(JZA70型)」。両モデルとも1980年代から1990年代にかけて、日本とアメリカで筆者が数多く乗ったクルマだ。

 特に「セリカXX」は、筆者にとって思い出深い。当時は北米仕様が「スープラ」を名乗っており、そのパーツが日本で人気となったり、初期のモデルではフェンダーミラーをドアミラーに加工する需要が高まったりした中で、筆者はアフターマーケット用パーツ開発に関わっていたからだ。

 そのセリカXX 2000GTで走り出した。ほぼ同世代の初代ソアラに通じるような斬新なダッシュパネルが、実にカッコいい。足元は15インチタイヤということもあり、近年のスポーツカーと比べると乗り味やハンドリングはマイルドな印象だ。

 「あの当時は、こんな感じで走っていたんだったよなぁ」と、感慨深い。

 エンジンはしっかり整備されており状態はとてもよく、アイドリング時の振動や音は静か。キャブレターからEFI(電子制御噴射装置)の時代になっていたとはいえ、しっかりメインテナンスされていることを実感する。

 アクセルワークに順応して実に扱いやすく、ゆったりとした気分で丁寧にシフトしながら、街中ドライブを楽しんだ。これが、「わナンバー」で乗れるのである。一般向けの貸出価格は、午前10時から午後6時で3万円だ。 

 続いて、スープラ 2.5GTツインターボエアロトップに乗る。こちらは、フロントのストラットタワーバーや吸気系のマイルドチューニングなどを施した仕様だ。

 セリカXX 2000GTと比べると、明らかに「時代が変わった」感じがして、走り味とハンドリングはスポーツカーとして洗練されている。

 1990年代はターボチューニングの全盛期だったが、この車両のターボチャージャーはノーマルのようだ。当時のターボエンジンらしい、3000rpmからはっきりとトルク感が実感できるセッティング。当時としては、かなり迫力のあるトルク感だったことを今、改めて実感した。こちらの貸出価格は、午前10時から午後6時で2万5000円である。

■昭和レトロと当時の憧れ

 埼玉トヨペット浦和美園支店でのVintage Club by KINTOの実施は、2023年2月からの第1回目に次いで、今回が2回目。

 先回はスープラ 2.5GTエアロトップのほか、1973年式の「セリカ 1600GT(TA22型)」と1975年式の「セリカリフトバック 2.0GT(RA25型)」を貸し出した。

 同店の本間拓氏は「昭和レトロブームもあり、当時を知らない20代と、当時は手が届かず乗る機会のなかった50代が主流だった」と顧客層を分析した。首都圏以外の遠方からの顧客もいたという。

 こうしたプログラムの実施効果については「GR Garageへの来店のきっかけとなっており、とてもありがたい」とし、今後については「弊社はトヨペットなので、歴代『マークⅡ』にも興味がある」と個人としての要望も添えてくれた。

 なお、各モデルの型式については、今回の取材に対して提示された資料に基づく。

■トヨタとKINTO、そして新明工業の3社で

 試乗後、Vintage Club by KINTOの実状について、KINTO本社に詳しく聞いた。まずは、実施に至った経緯からだが、起点は「とあるきっかけ」で前述の1982年式Z10型ソアラを譲り受けたことだという。

 それから「旧車で何かおもしろい企画ができないものか」と考えていたところ、トヨタと新明工業のエンジニアが旧車の活用先を模索していることを知り、3社が協力した構想を立案する。

 新明工業は、愛知県豊田市に本社を置く1949年創業の企業で、1957年にトヨタとパートナーシップを結ぶ。現在の事業内容は、電動化設備、組立設備、FAシステム、カーサービス、特装車制作の大きく5本立て。従業員は単体で1050人(連結1500人)、年商は単体300億円(連結400億円)だ。

 同社の沿革によれば、レストア商品の販売は1989年から開始し、1997年にアンティーク・ボディ・ショップ(クラシックカーのレストア専門工場)を設立している。

 トヨタとしては、SDGsという観点での旧車への取り組み、熟練技術者から若手への技術伝承、そして新車開発に「旧車とのふれあいから得られた知見をフィードバックさせたい」という思いがあったという。

 こうした新明工業とトヨタ、そしてモビリティサービスを提供する企業として「一人ひとりの『移動に感動』を」という企業ビジョンを掲げているKINTOの思いが合致し、このプロジェクトが始まった。車両のレストアと整備は、新明工業が担う。

 そして、事業の方向性が決まったVintage Club by KINTOは2021年4月、最初にSNS上のコミュニティを立ち上げた。特選旧車レンタカー事業が始まったのは、1年後となる2022年4月。当初は豊田市の新明工業を拠点に始めたが、全国各地での要望に応えて各地で期間限定キャラバンを実施している。

 第1回キャラバンは、2022年8~10月のGR Garage 東京三鷹、第2回が埼玉トヨペット浦和美園支店で、その後、三重、大阪、静岡、長野、兵庫、東京、大分と続き、今回は埼玉での2回目の開催となった。埼玉と同じ時期に、静岡と滋賀でも実施する。

 実施地の選定については、コミュニティのフォロワーからのリクエストをもとに、KINTOから販売店に声をかける形だ。その際、今回の埼玉トヨペット浦和美園支店のように、キャラバン実施中は丁寧なメインテナンスが必要であることを十分に理解してもらうことを、キャラバン実施の必須項目としている。

■条件は「走っていて・乗っていて楽しいクルマ」

 どんなモデルをラインナップするかは、コミュニティのフォロワーからのリクエスト、イベント出展時の人気投票、特選旧車レンタカー利用者へのアンケートを基に、Vintage Club by KINTOに関わるトヨタ、新明工業、KINTOの関係者全員が「ワイガヤ」で決めているとのこと。

 その際、重視しているのが「走っていて・乗っていて楽しいクルマ」だ。

 現在の車両ラインナップについては、Vintage Club by KINTOのホームページをご参照いただきたいが、以前は「スターレット 1300S」「トヨタスポーツ800(通称ヨタハチ)」も用意されていた。

 ラインナップには完全ノーマル車もあれば、車検対応のアフターマーケットパーツを装着するものもあり、それぞれの個体の状態や当時の流行を取り入れている。

 こうした旧車事業で気になるのは、修理コストだろう。特選旧車レンタカー事業開始から2年が経ち、その間での修復履歴データから修理や運用にフィードバックして対応している。交換部品は純正にこだわらず、ベース車を大切にしながら仕入れた個体を生かすことを重視し、コスト抑制につとめている。

■広い世代の心に刺さる「コト売り」の挑戦

 過去2年間で、SNSとYouTubeなどを合わせ、約6000人のフォロワーを獲得した。特選旧車レンタカーの利用者総数は、のべ約450人。人気車種は1975年式の「セリカ リフトバック(RA25型)」、1974年式の「カローラ レビン(TE27型)」、そして今回試乗した1985年式のセリカXX 2000GTだという。

 利用者の属性は、50代がもっとも多くて、次いで20代。20~30代が全体の3分の1を占めるという。利用シーンは、「家族や恋人との利用」が50%、「1人利用」が30%、「友人同士」が20%。

 これまでに「夫婦の思い出のクルマ」「若いころ憧れていたクルマ」「親孝行のためのプレゼント」など、さまざまな声があったそうだ。中には、AT限定免許を解除してMT車にトライした人もいたという。

 新規企画としては、今回試乗したスープラシリーズのように、セリカや4輪駆動車など、系譜やストーリーを生かしたラインアップの展開を進めているところだ。また、東京オートサロン2023で注目された「AE86」の電気自動車(BEV)コンバージョン「AE86 BEV Concept」など、話題のクルマのラインアップも実現している(現在は受け付け終了)。

 驚いたのは、「旧車の世界ではメーカー間の乗り比べなども大きな魅力となるため、今後は他メーカーの旧車も視野に入れて検討する」という回答があったことだ。トヨタの関連企業としてはなんとも大胆な発想であり、クルマ好きとしてはワクワクする。

 KINTOといえば、サブスク。クルマのサブスクといえば、KINTO。

 そんな企業イメージが徐々に定着しつつある中、旧車という広い世代の心に刺さる「コト売り」に参入したKINTOのさらなる挑戦を大いに期待したい。

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最終更新:3/21(木) 12:38

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