融資を受けようとしたら、怪しい「投資商品」を押し売りされるワケ《楽待新聞》
融資取引において、資金の「出し手」である金融機関と「借り手」となる利用者の関係は、表向きは対等です。
しかし実際には、取引先からの膨大な情報を保有する金融機関と利用者の間には、圧倒的な情報量の差(情報の非対称性)があります。
さらに、金融機関との良好な関係自体が、借り手の信用力の裏付けとなっている商慣行もあります。そのため、金融機関と借り手の関係は、必ずしも対等ではありません。
今回は、金融機関と良好な関係を構築して融資交渉を有利に進めるためにも、投資家が知っておきたい「金融機関のノルマの実態」についてご紹介していきたいと思います。
■ノルマ主義が招いた「押し売り」
冒頭で述べたような背景から、過度な利潤を求めた金融機関による組織的な暴走が、時に発生します。
代表的なものとしては、顧客に対する「優越的地位の濫用」が挙げられるでしょう。例えば、2005年の「三井住友銀行」や2023年の「千葉銀行」などのケースがこれに該当します。
<問題となった事例>
三井住友銀行(2005年12月)
【概要】金利系デリバティブ商品の1つである金利スワップを、事業者に「融資の条件である」旨を明示ないし示唆するなどして購入を押し付けた。
【顛末】
・公正取引委員会から、独占禁止法第19条の規定違反による違反行為の排除措置勧告
・金融庁より、半年間の金利系デリバティブ商品の販売勧誘停止などの行政処分
千葉銀行・ちばぎん証券・武蔵野銀行(2023年6月)
【概要】ちばぎん証券が扱う「仕組み債」を、千葉銀行・武蔵野銀行が属性の合わない顧客に提案し、ちばぎん証券に紹介。ちばぎん証券がその顧客に対し、仕組み債の勧誘や販売を行った。
【顛末】
・金融庁による金融商品取引法に基づく業務改善命令
・日本証券業協会より適合性の原則違反に伴う「制裁処分」として過怠金5000万円賦課
借り手としては、あてにしていた融資が直前で断られれば事業が行き詰まるという懸念から、金融機関の求めに嫌々応じるといったケースも実態としてあるでしょう。
金融当局、すなわち金融庁や各地方財務局側も、このような実情をよく理解していたはずです。
そもそも、融資や預金は、「自宅や土地の購入」「車を購入するための貯金」といった真のニーズを叶えるための金銭面での支援という役割にすぎません。
したがって、行員・職員に求められる本来あるべき対応は、利用者の真のニーズを叶えるために最も適切な金融商品やサービスを選択し、利用者の立場に立って紹介することになります。
「(とにかく一律に)今はこれを売れ」という組織の方針に則り、利用者にとって必ずしも最適でない商品やサービスを販売することは、金融機関側の都合を優先した押し付けにすぎません。
それゆえ、金融当局側は、金融機関に対し「(どうにかして)行員・職員が自ら考えて行動する」ことを望んでいます。ノルマを廃した(少数の)金融機関の出現を、業界紙・誌が取り上げるのは、そうした金融当局側の意向を汲み取っているからでもあります。
■ノルマなしでは回らない金融機関の実態
金融当局側の思惑とは裏腹に、金融機関の行員・職員はノルマなしには動きません。一度ノルマを外したもののうまくいかず、改めてノルマを課すことになってしまった事例もあります。
一度外したノルマを再度課すことになった金融機関を見てみると、当初は行員・職員の自律自走を期待しノルマを課すのをやめた経営者が、数値が落ち込み競合相手に劣後したことで、我慢できなくなる場合が多いようです。
ノルマがないという体面を保つため、「必達目標」を「自主目標」などの名称に置き換えて、実質的なノルマを復活させている金融機関も珍しくありません。
よって投資家各位には、こうしたノルマは「どこの金融機関にもある」「担当者であれば例外なく課されている」ものであることを念頭に置いたうえで、金融機関と付き合うことをおすすめします。
■銀行員に課されるノルマの種類
ノルマの中身は、金融機関によって異なります。ここでは「行動」と「実績」の2つの切り口で分類し、解説します。
(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)
「行動」に含まれるノルマのうち「定例訪問先数」は、1カ月ごとなど定期的な訪問が許される顧客(※必ずしも取引先とは限らない)の数のことです。
「有効面談数」は、営業担当者が顧客の勤務先や住所などを訪問し、不在や謝絶に遭うことなく実際に面談できた人数(のべ回数)を指しています。
「新規開拓日」とは、集金など事務サービスを目的とした訪問をせず、終日新規開拓に専念する日のことです。この日付の設定数をノルマ化する金融機関があることを知っておくとよいでしょう。
行動へのノルマがある金融機関の場合、「毎月決まった日程に訪問・面談しても構わない」「アポなしあるいは当日のアポでの来訪でも数回に1回は10~15分程度面談に応じる」といった顧客の対応は、担当者に喜ばれます。
ただし、その際は、「課されたノルマの消化に協力している」とアピールするのを忘れてはいけません。
数字に追われている行員・職員は、身勝手な思考に陥りがちで、気を遣われていることに気付かない場合も少なくありません。人はやってもらったことを忘れる一方、やってあげたことは忘れないもの。したがって、端的に「貸し」と認識させるのが良いのです。
「実績」に含まれるノルマには、多くの種類があるため、ここではそのうちの一部を紹介していることをご理解ください。これらに関して、行員・職員があなたに何かを頼んできたら「ほぼノルマ」と認識いただければ間違いありません。
ノルマは、中小規模の金融機関ほど細かく、大手ほど粗くなる傾向があります。メガバンクなどでは、収益金額だけが与えられて「中身は自分で考えて設定せよ」と命じられることも多いようです。
■「毎年恒例」から「期間限定」まで
ここまで「行動」と「実績」の観点で銀行員が背負っている多種多様なノルマを分類してご紹介しましたが、以下のような視点で分類することもできます。
<季節もの>
例年設定されるノルマで、ニーズ発生時期をとらえたノルマ
例)フレッシャーズキャンペーン(新規給与振込口座の獲得)、ボーナス定期預金、教育ローン、クレジットカードの獲得、地区担当役員から顧客への訪問挨拶先の設定 など
<トピックもの>
その時の情勢が反映されたノルマ
例)ゼロゼロ融資、物価高応援ローンの獲得 など
<アピールもの>
金融機関が株主・出資者、地域社会ならびに預金者などにアピールしたい内容が反映されたノルマ
例)SDGs絡みの説明会・講演会、創業セミナー、二世経営者の会の参加者獲得 など
「季節もの」には、何年にもわたって長く続ける中で新鮮味がなくなったキャンペーンも多く、「いつまでやらされるのだろう」と感じている行員・職員も少なくありません。
日本銀行の総裁交代後、長らく続いたゼロ金利やマイナス金利が解除され、定期預金にもようやく金利らしい金利が付与されるようになりました。
こうした中、可能な限り長い期間の定期預金を調達して、仕入れコストの上昇を遅らせるノルマを課す金融機関もみられます。こういったものも「トピックもの」に該当します。
「アピールもの」では、取引先のBCP対応の支援のほか、地域の中堅企業・小規模企業者に入社された新入社員向けの合同新入社員研修、児童向けの金融教室などといったイベント開催が最近多くなっています。
イベントへの勧誘は、金融機関の企業風土上、「興味関心のある方はご無理のない範囲でご参加ください」とはなりません。
行員・職員は、「やる以上はできるだけ多くの方に参加してもらうよう最大限動く」「他支店よりも参加者が少ないというみっともない実績にはしない」といった思考の下、行動します。
彼らのノルマ消化のために付き合わされる側からすれば、自己中心的な考え方に思えますが、「競争」「ノルマ」の中にいる彼らには、そうした感覚が麻痺している場合も多いのです。
◇
このようなことから、金融機関と長期安定的な関係を構築する対策として、彼らに課されたノルマを念頭に置き、時に協力するのも一案です。
バカバカしいと思われる方もいるかもしれませんが、求めに応じて彼らとの距離を縮めることが、融資交渉を有利に進める材料となる可能性もゼロではないでしょう。
佐々木城夛/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:5/18(日) 19:00