マスク氏の「スターリンク」巡り闇市場も-不正利用が安全保障脅かす

3/27 12:58 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 資産家イーロン・マスク氏率いる米宇宙開発企業スペースXの「スターリンク」は、「地球上のほとんどどこでも利用できる」というのがうたい文句だ。

実際、人工衛星を介して提供されるこの高速インターネットサービスの利用は、強権的な政権に支配された地域を含め、スペースXと取り決めを結んでいない国々にも広がっている。

ブルームバーグ・ニュースは、スターリンクのキットが違法に取引・利用されている例が広範囲に及んでいることを調査で確認した。

こうしたキットが密輸され、闇市場で大量に出回っていることは、スターリンクの不正利用がグローバルかつシステミックな問題であることを裏付けており、国家安全保障に関わるシステムを運用するスペースXの管理体制に疑問を投げかけている。

約10年続く内戦の渦中にあるイエメンでは、政府の当局者がスターリンクが広く使われていると認めた。

欧米の外交官によれば、1年にわたる内戦で大量虐殺や人道に対する罪が告発され、何百万人もの人々が住む家を失ったスーダンでは通常のインターネットが数カ月不通で、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の兵士らは兵たんのためスターリンクを利用しているという。

キャンベラにある独立系シンクタンク、オーストラリア研究所のエマ・ショーティス上級研究員(国際・安全保障問題担当)はスターリンクについて、「規制されず、民間企業が主導していることは非常に問題だ。誰がアクセスし、どのように使用されているのか、説明責任を欠いている」と語った。

スターリンクは、スペースXが2019年に展開し始めた衛星約5500基のネットワークからブロードバンドインターネットを提供する。

すでに約260万の顧客を持つスターリンクは、スペースXにとって大きな稼ぎ頭になる可能性を秘めている。火星探査というマスク氏の夢を実現する手段としてスタートしたスペースXは、今では米政府が進める宇宙計画の最も重要な民間請負会社で、国家の安全保障分野において圧倒的な存在感を示している。

最近まで世界一の富豪だったマスク氏は、スペースXの打ち上げ事業の収益には上限があると述べているが、スターリンクは最終的に年間売上高が300億ドル(約4兆5500億円)に達する可能性がある。

スターリンクは地上のブロードバンドが届かないエリアや、自然災害や紛争で寸断された地域をつなぐため、さらに何万もの衛星を打ち上げる計画だ。

だが、米国の民間企業1社がインターネット事業をコントロールすることは安全保障上の懸念を生む。そのため、スペースXはまず各国政府と取り決めを結ぶ必要がある。

アフリカの地理空間・ガバナンス・リスク専門家でニューヨークを拠点とするマニュエル・ヌトゥンバ氏は、「取り決めのない所では人々は適切なカバレッジがないままスターリンクを利用しようとしている。これは違法であり、もちろん許されるべきではないが、管理するのは難しい」と述べた。

米軍の評価

中央アジアでは今年、カザフスタン政府が違法端末を取り締まったが、その使用はほとんど減らず、闇市場での値上がりを招いただけだった。報復を恐れて公には話したくないと言う輸入トレーダーが明らかにした。政府が介入する前は、購入した顧客はその製品を現地から郵送できたという。

21日に提示した質問リストについて、スペースXにコメントを求めたが、同社は回答しなかった。スペースXの最高経営責任者(CEO)を務めるマスク氏はソーシャルメディア、X(旧ツイッター)のオーナーでもある。

スペースXは2月、「スターリンクの端末が制裁を受けたか許可を得ていない利用者により使用されているという情報を得た場合、その情報を調べ、確認されれば端末を停止する措置を講じる」とXに投稿した。

スターリンクの魅力は、高速で信頼性の高いインターネットが使いやすいパッケージで企業にも消費者にも提供されるということだ。だが、それ故、接続が不安定な地域で闇市場が拡大。通信ツールとしての有効性が多くの点でセンシティブな問題を引き起こしている。

米軍もスターリンクの顧客だ。 空軍は北極圏で端末をテストし、「信頼性が高く高性能」と評価した。

マスク氏の衛星通信「スターリンク」、北極圏での米軍のテストに合格

スターリンクのこうした特性が、戦争を仕掛けてきたロシア軍に対するウクライナ軍の防衛に不可欠なものとなった。スペースXはロシアが侵攻を始めた当初、スターリンクをウクライナ政府に提供。以来、スターリンクはウクライナの通信インフラにとって極めて重要な役割を果たしている。

その後、米国防総省はスターリンクとウクライナへの機器供給契約を結んだが、その条件は公表されていない。

説明責任

ウクライナは今年2月、ロシアが戦争で使うためスターリンクを配備していると指摘。Xへの投稿画像はキットを開けるロシア兵の姿を捉えているように見えたが、これは確認には至っていない。

米国では民主党の下院議員2人が、スペースXのグウィン・ショットウェル社長にウクライナの主張を巡り書簡を送付。マスク氏はXを通じ、「われわれの知る限り、スターリンクは直接、間接を問わずロシア向けに販売されていない」と説明した。

世界中の安全保障当局が懸念しているのは、衛星アンテナがどこに設置されるかという不確実性だ。スターリンクのキットはベネズエラで使用するためにも販売されているが、マドゥロ大統領の権威主義的な統治の下で、同国の個人や団体は10年近く米国の制裁の対象になっている。

スターリンクのウェブサイトに掲載されている通信可能地域の地図では、ベネズエラは黒く塗りつぶされている。しかし、ソーシャルメディア上では、孤立した地域に牧畜場や金鉱があるこの国でのスターリンク機器のパッケージ取引が宣伝されている。

ノーススター・アース・アンド・スペースのディレクター、キャンディス・ジョンソン氏はスペースXについて、「基本的に全ての送信機を特定することができる」ため、ウクライナのロシア占拠地域でロシアのスターリンク使用を阻止できるはずだと主張し、「国家に対し、企業に対し、株主に対し、利害関係者に対し、もっと説明責任を果たす必要がある」との考えを示した。

ノーススターは、スペースXと競合するロケット・ラボUSAのロケットで1月に人工衛星4基の打ち上げに成功したカナダ企業。ジョンソン氏は宇宙スタートアップに投資するベンチャーキャピタル、セラフィム・キャピタルのパートナーでもある。

原題:Elon Musk’s Starlink Terminals Are Falling Into the Wrong Hands (抜粋)

--取材協力:Fabiola Zerpa、Daniel Flatley、Mohammed Alamin、Mohammed Hatem、Andreina Itriago Acosta、Nariman Gizitdinov、Ray Ndlovu、Eric Johnson、Jake Rudnitsky.

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:3/27(水) 12:58

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