【子持ち様】も【子持ちでない様】も悪くない!不毛な論争に終止符を打つ「本当の解決策」とは?

5/11 11:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

 昨今、SNS上で盛り上がりを見せる“子持ち様”論争。育休を取得したり、育休から復帰後も職場を早退したりする子育て中の社員を揶揄するネットスラングだ。子育て中の社員が「子持ち様」として冷遇される組織と、安心して仕事と両立できる組織は何が違うのか。後編となる今回は、子育て社員をめぐる対立を解消する具体的な方法を紹介する。(取材・文/ダイヤモンド・ライフ編集部)

● みんなが不幸になっている “子持ち様”論争の根本原因

 「子育て社員をサポートする側は、業務量が増えたり、残業を余儀なくされたりするのに、それが報酬や評価に繋がっていないケースがあります。一方で子育て社員も時短勤務を余儀なくされて、給料が減ったり、キャリアの幅が狭まったりしています。現状では子育て社員も、その周囲もどちらも不幸になっています」

 “子持ち様”批判をめぐる現状をこのように分析するのは、「共働き子育て世帯」に特化した転職サービスを提供するXTalent代表の上原達也さんだ。

 子育て社員と受け入れ側が対立してしまう根本的な原因については次のように分析する。

 「どんな人にも何らかの事情はあります。それは介護や不妊治療、ペットの病気かもしれない。しかし、こうした事情では会社を休むことができない。それなのに、子どもの事情なら休むことができるのであれば、子育てが“特権化”されていることになります」(上原さん)

 子育て社員を含むすべての社員が抱える個別の事情を理由に休むことができるシックリーブ(有給病気休暇)や突発的な事情にも対応できる時間休のような「制度」を整えることは、対立解消の前提条件となる。

 しかし、制度すら十分に整っているとは言えないのが現状だ。勤務先に「テレワーク制度等が導入されている」就業者の割合は37.6%(令和4年度 テレワーク人口実態調査 - 国土交通省)、病気休暇を導入している企業は21.9%(令和5年就労条件総合調査 - 厚生労働省)、時間単位年休制度を導入する企業は22%(年次有給休暇の現状について - 厚生労働省)となっている。

 そして、仮に制度があったとしても、制度だけつくっても上手くいかないと上原さんは付け加える。

 「『組織のパフォーマンスを最大化させるために、従業員が抱えるさまざまな事情は会社もサポートするよ』というメッセージが伝わらなければ、社員は休みづらいでしょう。特に、組織のリーダーがそうした価値観を率先して実行しなければ、従業員の意識を変えることはできません。突き詰めて考えると、組織の“文化”が鍵となります」

● みんなが幸せになる 「お互い様」文化の育て方

 休暇やテレワークの制度はあるのに、「誰も使っていないから」とか「昇進に響くから」という理由で使えないというケースは少なくないだろう。

 前回記事で体験談を共有してくれた典子さんの事例でも転職先の会社について、「取締役が育休をとっている姿を見て感動した」と話してくれた。社員の「休みやすさ」には、リーダーの率先垂範が欠かせない。逆にリーダーが休暇制度やリモートワークを積極的に利用することで、従業員が子どもの都合を優先しても、「お互い様」として受け入れられる文化を醸成することができる。

 例えば、フランスでは個人が好きなタイミングでバカンスをとって、同僚に仕事を任せることが一般的だ。反対に同僚がバカンスに行く際はその人の仕事を引き受けることが当たり前に行われている。「お互い様」という意識がほとんどの従業員に共有されているうえに、業務の透明性が常に高い状態にあるので、突発的な休みでも仕事を引き継ぐことができている。

 従業員が一斉に休みを取る日本では、日常的に業務を任せたり、任されたりする機会が多くないだろう。そうした環境の中で、仕事を任されるだけで任せることができない人が、割を食っていると感じても不思議ではない。

 また、上原さんは”子持ち様”批判の対象が主に女性であることを指摘する。保育園の送り迎えや行事対応といった育児の負担が女性に偏っていることが、“子持ち様”批判を増長させることに繋がってしまっているという。

 確かに、夫婦で育児負担を均等に分担することができれば、それぞれの職場で早退や業務の引き継ぎで生じる同僚の負担も半分にすることができる。

● 「女性管理職を増やす」 だけでは解決しない

 さらに「育児負担が女性に偏重すること」と「男性が育児参加を妨げられること」は表裏一体でもある。育児に参加する男性が職場で受ける冷遇について上原さんは次のように話す。

 「男性が育児休暇を取得したり、保育園のお迎えに行ったりすると、『なんで奥さんにやってもらわないの』とか『あいつはもうキャリアを降りたんだよね』と言われてしまう。「自分の事情を理解しようとしてくれない」と会社に居づらくなった男性社員の方が転職を検討され、ご相談に来られるケースもあります」

 上原さんがアメリカに駐在していた知人から聞いた話では、現地では男性が保育園の送り迎えをするのは当たり前だという。こうした“文化”があれば、育児負担が女性に偏ることもなければ、男性が育児に参加を妨げられることもない。

 一方、日本では男性が長時間勤務をして、女性は家で子供を育てるという労働観や家族観が前提となっている組織は少なくない。厚生労働省の調査によると時短勤務を「利用している」または「以前は利用していた」の合計が女性で51.2%なのに対して、男性はわずか7.6%。時短勤務を取得するのは、ほとんどが女性だ。

 さらに上原さんは、経営層がこの問題に取り組む際の姿勢が、成否を分けると説明する。

 「子育て社員のサポートをトップが経営課題として捉えられないと、人事のタスクとして「女性管理職比率を上げる」「育休復帰比率を高める」ことだけが目標となってしまい、子育てをしている女性のための施策や制度が多く生まれてしまいます。経営のあり方として、どんな事情を抱えた社員でも活躍できるあり方を、経営としてどう考えるかを根本から見直し、コミットする必要があると考えています」

 子育て社員を含むすべての従業員がそれぞれの理由で休める制度を整えることで「子育ての特権化」を防ぐ。そして、リーダーが率先垂範して制度を利用することなどを通して、組織の文化として定着させる。”子持ち様”をめぐる対立の解決策が見えてきた。

 働きやすく人が集まる会社と、働きづらくて人が辞めていく会社……人手不足のこの国では大きく明暗を分けそうだ。

※育休明け直後に転職した当事者に「会社を辞めた理由」を聞いた前回記事はこちらからご覧いただけます。

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最終更新:5/11(土) 11:32

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