地方自治体が抱える課題とは? 人口減少や高齢化などについてわかりやすく解説

3/22 7:30 配信

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地方の問題を解決することは、企業にとってもメリットがある。地方が抱える課題を知ることは、社会の問題に目を向けることでもある。一極集中の現状を省みて、地方に足りないものを考えることも必要だ。この記事では、地方の課題解決をする方法を解説する。

■多くの地方自治体は「人口減少」「高齢化」「経済縮小」に直面

富士通総研の資料(※)によると、地方は人口減少や高齢化からくる経済縮小に直面している。また、地域経済の縮小はさらなる人口減少や高齢化につながるため、悪循環を加速させるリスクも危惧されている。

(※)2019年6月に公表された「地域・地方の現状と課題」。

地方がこのような課題を抱える主な要因は、東京への一極集中とされている。首都圏は求人数が多く、平均所得も地方より高いため、安定した生活や仕事を求めて地方から移住してくる若者が多い。その影響で、都市部でも待機児童や混雑の増加といった問題が顕在化している。地方自治体の課題は、都市部の社会問題にもつながっているため、日本全体が抱えている課題と言えるだろう。

■地方自治体の重要政策課題と現状

地方自治体の課題は古くから指摘されてきたが、現在はどのような状況にあるのだろうか。ここでは重要政策課題と考えられる「人口減少」「高齢化」「経済縮小」に分けて、主な弊害や現状を紹介する。

●1.人口減少による生活利便性の低下

総務省統計局の「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)」によると、日本の総人口は約1億2,494万人であり、そのうち約11.23%が東京都に居住している。都道府県別人口のトップ3とワースト3は以下の通りだ。



(※人口と割合は概数)

(参考:総務省統計局「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)」)





上記の通り、都市部と地方の人口には大きな差があり、東京都・神奈川県・大阪府だけで総人口の25%以上を占めている。この差がさらに拡大すると、生活関連サービスの縮小や地域コミュニティの機能低下、地域公共交通機関の撤退などの弊害に拍車をかけることになる。

他にも空き家や耕作放棄地の増加、生活必需品を購入できる店舗の減少など、地方の人口減少はさまざまな問題を引き起こす。単に生活がしづらいだけではなく、場合によっては病気の際に治療を受けられないようなリスクもあるだろう。

●2.高齢化による労働力不足

総務省統計局の同資料によると、15歳未満の人口が75歳以上の人口を上回っている自治体は、沖縄県のみである。人口が集中している地域についても、少子高齢化の悪循環から抜け出せていないのが現状だ。



(参考:総務省統計局「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)」)





超高齢化社会の最大の問題は、あらゆる産業での労働力不足である。トラックドライバーをはじめ、すでに人材不足はさまざまな業界で顕在化しており、将来的にはGDP(国内総生産)が下がることも懸念される。

また、消費の低迷によって経済成長率が低下し、税収や社会保障費が不足する可能性もあるだろう。つまり、若者を中心に人口流出が続いている地方は、生活利便性までも大きく低下するかもしれない。

●3.経済縮小による働き口の減少

前述の富士通総研の資料によると、都市部と地方の財政力指数(※)には大きな差がある。需要に十分な収入を維持しているのは東京都のみであり、その収入の半分未満となる都道府県は25にも上る。

(※「収入額÷需要額」で計算される、需要に対する収入の割合を表した指標。)



(参考:富士通総研「地域・地方の現状と課題」)





このまま地方経済が疲弊すると、地方企業の連鎖的な倒産を招きかねない。働き口が減少するため、東京への一極集中はさらに加速するだろう。中には観光業で潤っている自治体もあるが、労働力が減ると観光客の移動や動態調査などが難しくなるので、貴重な観光資源を活かせなくなる可能性もある。

●4.経営者の後継者不足

地方自治体における経営者の後継者不足も、地域経済に深刻な影響を与える問題だ。多くの地方で、特に中小企業や家族経営の事業所において、後継者が見つからず事業継続が困難になりつつある。2025年には、70歳を超える中小企業経営者の約半数の後継者が未定になると予測されている。

後継者未定の中小企業の約半数は、黒字の企業だ。地方経済を支えている多くの中小企業が後継者不足で経営を継続できないと、地方での仕事の選択肢がますます少なくなり、大都市圏への人口流出はますます深刻化するだろう。

●5.災害時の備えが不十分

日本は、地震や台風など自然災害が頻繁に発生する国だが、多くの地方自治体で災害時の備えが不十分な状態にある。「過疎地域で自然災害が発生すると、どのような問題が発生するのか」を改めて突きつけられたのが、2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」だ。

能登半島地震では、甚大な被害が発生した珠洲市や輪島市など、過疎地域の被災が多く1週間経過しても建物被害の全容を把握しきれないなどの問題が発生した。地震で重要な道路インフラが寸断され、災害時の備えが手薄な状態で、なかなか支援物資が行きわたらない問題も見られた。

今回の被災地では、空や海からの支援が難しいこともあり、孤立状態になる地域もあった。しかし今回被災した能登半島以外の地方は、大丈夫なのだろうか。多くの地方自治体で災害時の備えが不十分な状態にある。

特に過疎化が進む地域では、人手不足や資金不足が原因で十分な防災設備の整備や防災訓練の実施が難しいのが現状だ。自治体は、「地域住民と協働で避難計画の策定や防災意識の向上活動を進めること」「国や他地域との連携を深めて支援体制を整えること」が求められている。

■企業が地方の問題を解決するメリット

地方の問題を解決する方法の1つに、企業誘致がある。地方への企業誘致は、地方だけでなく企業にもメリットがある。企業のメリットには、以下のようなものがある。地方は物件のコストが安いので、少ない予算で会社を構えることができる。東京都千代田区では、オフィスを借りるのに平均1万4,000円/坪かかるが、徳島県徳島市なら平均4,000円/坪で済む。

人件費を削減できるのもメリットだ。地方では最低賃金が低いため、都心より安い給料で人を雇うことができる。人件費を抑えられることは、地方の最大のメリットと言えるだろう。企業に対して優遇・支援制度を準備している自治体も多い。例えば、長野県には「信州特化型ビジネス創業応援事業補助金」があり、上限200万円を助成している。

■地方の課題を解決するためには?

地方の課題を解決するには、各地域の重点課題をピックアップし、その課題に合わせた施策を考える必要がある。以下では企業が取り組むことを想定して、実行までの流れを解説する。

●1.重点課題をピックアップする

まずはさまざまな観点から現状を把握し、重点改題をピックアップすることから始める。例えば、土地や施設、交通網、自然景観、住民の利便性といった分野に分けて、それぞれの状況を整理するところから始めたい。地域の現状を知る方法としては、行政資料の活用や住民アンケートの実施、ワークショップの開催などがある。地域住民の声を聞きながら分析すると、以下のような課題が見えてくるはずだ。

<地方経済の縮小に伴う倒産の増加>

生産者人口すなわち労働力が減ることで、倒産する会社が増えている。さらに、多くの企業は後継者問題も抱えている。2019年1~4月に倒産した会社は119件で、過去最高だった2018年を上回るペースだ。好景気と言われているが、実際は倒産が相次いでいるのだ。

<人材不足による社会保障の危機>

大阪府の救命救急センターがクラウドファンディングで資金を集めようとしたことで話題になった。人材不足は企業だけでなく、医師や看護師などにも波及しており、地方医療の存続は近年常に危惧されている。地方で就労する若者が減ると地方の社会全体にも影響を及ぼすのだ。

<無居住化問題>

地方から都会へ人口が流出することで、無居住化が進むとの指摘もある。2050年の人口が2010年時点の半分以下になる地点が6割以上、また2割の地点が無居住化するという予測もある。無居住化することで、安全の確保が難しくなることが懸念されている。

<都市基盤の持続性の低下>

地方自治体の財政基盤がぜい弱化すると、都市基盤の維持が困難になる。老朽化したインフラ、人口減少、環境変化により、都市機能が維持できなくなる。この問題には、水道や電力供給などのライフラインの老朽化、公共施設の維持管理費用の増大、気候変動による自然災害の頻発といった複数の要因が絡み合う。

都市基盤が持続できなくなると、都市の安全性や経済性、生活の質が低下し、将来の世代への負担が増加する可能性があるため、地方自治体や国家レベルでの計画的な対策と投資が必要だ。

上記を例に、その地域にとって何が深刻なリスクになるのかを判断し、優先的に解決すべき課題を見極めよう。

●2.課題の取り組み方を考える

地方であっても強みがある自治体は、地方創生で成功できることが多い。課題に取り組むには、官民が一体となるだけでなく、地域住民の協力も欠かせない。

旧態依然の取り組みでは、変化する地方の課題に対応することは難しいだろう。地方の問題と片付けずに、全ての国民が地方の課題に取り組む必要がある。今こそやるべきことを見極め、地方の住人を巻き込んでの大幅な課題への取り組みが必要だ。

近年ではAIやIoTを活用することで、地方の利便性を高めている例も増えてきている。例えば、災害時の避難ルートや物流ルートなどをAIで構築すると、効率的かつ低コストで課題を解決できるかもしれない。最先端の技術にも目を向けながら、自社にできることや提供できるモノを検討してみよう。

●3.実行しながら効果検証をする

地方課題の解決策を考えたら、実行と同時に効果検証をすることが重要だ。施策によっては逆効果になったり、新たな問題が生じたりする可能性もあるため、当初の計画を強引に進めるべきではない。

総務省の「自治体におけるAI活用・ガイドブック」においても、運用開始後には導入効果の検証が推奨されている。

運用開始後は、一定程度の期間をおいて、AIの精度やKPI、費用対効果等の観点からサービスを見直し、導入効果の検証を行います。見直しの頻度は、導入するシステムにも依存するものの、年に1回~数回程度実施することが望ましいですが、AIサービス・製品の特性に応じて設定をしましょう。


(引用:総務省 情報流通行政局 地域通信振興課「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」)


施策の効果検証は、あくまで地域住民の目線で行うことが重要だ。企業の自己満足とならないように、指標となるKPIなどは慎重に設定したい。

■地方自治体の主要な課題を解決する手段の具体例

●1. 地域活性化・文化振興

地方自治体は、観光資源の発掘とプロモーション、文化イベントの開催、地域固有の文化や伝統の維持・伝承に力を入れている。例えば札幌市では、ビッグデータ解析を用いた観光客の誘致促進を実施している。

また移住促進策として、住宅支援や起業支援、地域との交流機会の提供などを行い、新たな住民との結びつきを深めている。加えて自治体は、地元産品のブランディングやデジタル技術を活用した観光アプリの開発にも注力している。

石川県加賀市の「e-加賀市民制度」は、住民票を持つ住民でなくともネット上の住民になれる制度で関係人口の創出として期待されている制度だ。

●2. 防災・防犯対策

防災・防犯対策も重要だ。地方自治体では、被災時の迅速な対応を目指し、事前の災害シミュレーションに基づく避難計画の策定、避難所の整備、交通インフラの強化を進めている。さらに災害情報のリアルタイム共有システムの構築や、地域住民が主体となる防犯ネットワークの拡充も推進中だ。

具体例としては、静岡県藤枝市の災害ダッシュボードの構築が挙げられる。災害ダッシュボードによって、藤枝市は災害の正確な情報提供や避難の支援をサポートする住民への正確な情報提供と避難支援を行う。

●3. 都市基盤整備

財政の厳しい地方自治体が都市基盤を維持・整備するための方法の一つがコンパクトシティ構想だ。コンパクトシティ構想とは、居住空間と生活に必要なサービス施設を密集させて人の流れを集中させることで、都市開発と結びついた効率的な公共交通システムを整備・強化する戦略である。

コンパクトシティを推進することで、効率的な都市運営と持続可能なコミュニティの形成を目指す。コンパクトシティの事例としては、富山県富山市や熊本県熊本市、埼玉県蕨市などが挙げられる。







■地方の課題を解決している4つの成功事例

ここでは企業ではないが地方自治体に焦点を当て、3つの成功事例から課題の解決法を学びたい。

●1.北海道札幌市

「スマート・AI・シティ・サッポロ」をテーマとして、先端技術を活用した次世代都市を目指している。地方企業に加えて大学もプロジェクトに参加しており、産学官連携による札幌AIラボを立ち上げた。市民の健康や公共交通機関の利用を促すために、歩数に応じて「健幸ポイント」が付与される取り組みが特徴的である。

●2.鳥取県全域

人口減少や高齢化が目立っていた鳥取県は、県をあげて人口減少対策に取り組んでいる。県内企業の増設や誘致、自然を活かした新しい魅力づくりなどに注力しており、2020年には県外への転出超過が改善した。移住・定住相談窓口の設置など、転入者へのサポートを充実させることで、都市部から移住する流れも生まれてきている。

●3.岩手県遠野市

遠野市は2016年に設立された団体「Next Commons Lab」を中心に、事業につながるプロジェクトを生み出している。例えば、広い栽培面積や空き家を活かしてクラフトビールを研究・提供する環境を整備しており、全国から起業家を呼び寄せるきっかけを作った。また、2023年にはインドネシアのプルバリンガ市と友好関係を結び、実習生の受け入れを想定している。

●4.富山県富山市

富山市は、人口減少や高齢化という国内多くの自治体が直面する課題への対応策としてコンパクトシティ構想を採用し、重要な施策を進めている。その一つが、ライトレール交通システムの導入だ。市民と観光客が中心地にアクセスしやすくなったことで、中心市街地の活性化が図られている。

また「トヤマチ∞ミライ」という未来ビジョンをもとに、富山駅周辺エリアでのにぎわい創出と発展を目指している。この取り組みでは、エリアマネジメントや官民連携を駆使して都市の持続可能性と地域経済の活性化が図られている。

これらの取り組みにより、富山市は持続可能な都市開発を目指す自治体にとってのモデルケースとなりつつある。

■地方自治体の課題に関するよくある質問

●Q1. 日本の地方自治体が抱える問題とは?

日本の地方自治体が抱える問題には、人口減少による生活利便性の低下、高齢化による労働力不足、経済縮小による働き口の減少、経営者の後継者不足、災害時の備えが不十分、などが挙げられる。

●Q2.地方衰退の何が問題なのでしょうか。

地域が衰退すると、公共サービスや社会基盤の継続的な運営が難しくなり、安全な環境の保持や居住条件の質の低下、災害のリスク増加、日常の便利さの減退を引き起こす。このことが結果的に人口の減少につながり、さらなる衰退を引き起こす負のスパイラルに陥りやすい。

●Q3.地域の課題の見つけ方をわかりやすく教えてください。

地域の課題を見つけるには、まず現地での実地調査や住民との対話を通じて直面している問題を把握する必要がある。公的統計やデータを分析してトレンドを読み取り、他地域の事例研究を参考にして比較検討するとよいだろう。

またアンケートやワークショップを行い住民の声を集め、地域全体のニーズと課題を明確にすることが重要だ。

■地方の問題を解決することで地域を活性化

地方で事業を展開するなら、まずはそこにある課題に向き合う必要がある。課題に取り組む中で、事業で収益を上げるヒントが見つかるだろう。地域を活性化することで、地方の企業もまた活性化する。

地方の問題を解決することは、社会の問題を解決することでもある。地方の問題は国民の問題、ひいては自分自身の問題でもあると認識することが大切だ。

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最終更新:3/22(金) 7:30

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