ウクライナ出身の国際政治学者「800億円の現金と現代戦の経験こそ北朝鮮が派遣した最大の理由」

11/13 12:02 配信

東洋経済オンライン

開戦から3年目に入り、1日1000人以上の死傷者が発生しているウクライナ戦争で、北朝鮮軍の派兵という最大の変数が登場した。中国とロシアの間で崖っぷちの綱渡り外交を繰り返してきた北朝鮮は、戦争で軍需品が枯渇したロシアに派兵という勝負をかけた。
1万人が派遣されたと推定される北朝鮮軍は、ロシア領土内の「クルスク回復作戦」に乗り出したとみられる。韓国外国語大学で国際政治を講義するウクライナ出身のオレナ・グセイノヴァ教授(36)に、朝ロ関係に対する分析と展望を聞いた。

■派兵は実用的・冷静な計算から

 ――北朝鮮はロシア派遣を通じて何を得ようとしているのか。

 北朝鮮がロシアに軍隊を派遣することを決定したのは、マスコミがよく報道するように、2024年6月に平壌で締結された「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づく義務ではなく、実用的で冷静な戦略的計算によるものと思われる。

 北朝鮮は2017年に強力な経済制裁が科せられた後、今回の北朝鮮軍派兵で枯渇した現金を確保することができる。北朝鮮はロシアに5000人から2万人の兵力を配置することで、年間1億4300万~5億7200万ドル(約217億~870億円)の収益を生み出すと推定される。

 この推定値は、ロシアが外国人新兵1人当たり4600ドル(約70万円)の1回限りのボーナスと、月給2000ドル(約30万円)を支給するという提案に基づいている。

 北朝鮮政権はまた、兵士を派遣することで、現代戦での貴重な直接戦闘経験を積むことができ、ウクライナの戦場で西側の現代兵器へのアクセスを確保し、自国の軍事的ニーズに合わせて利用することができる。最近の金正恩総書記の行動、とくに韓国に対する言動は、彼が実際に戦争の準備をしている可能性があることを示唆している。

 一部の情報報道によると、金総書記はウクライナでロシアが勝利していると判断した後、ウラジーミル・プーチン大統領を支援することを決定したという。金総書記の考えは単純な戦略的論理によるものかもしれない。

 ロシアが勝利すれば、中国はとくにインド太平洋でより強硬な態度を示す可能性があり、これは台湾だけでなく南シナ海で潜在的な導火線となり、緊張が高まる可能性がある。

 南北朝鮮ともに、アメリカや中国との安全保障条約に縛られているため、インド太平洋の不安定性は必然的に朝鮮半島につながるしかない。

 ――北朝鮮軍の派兵で中朝関係が硬直したように見える。

 外交的な観点から見ると、金総書記は中国だけでなく、アメリカと韓国にもシグナルを送っている。

■派兵はアメリカと韓国向けのシグナルだ

 最近の中朝関係の明らかな冷え込みの兆候は、北朝鮮によって始まったと思われる。とくに北朝鮮の場合、対外経済の依存度において中国が98%に達する状況で、金総書記は中国と距離を置くことで、北朝鮮内政に対する中国の干渉を減らそうとしているようだ。

 ロシアとの関係を強化することで他の戦略的選択肢があることを示し、中国に対する影響力を高めようとする目的もある。

 中国が現在、インド太平洋地域の安定が望ましいと考えていることを知っている金総書記は、少なくとも核実験に関しては「賢い行動」で中国と金銭的対価を交換することができるだろう。

 ――北朝鮮の兵士派遣が、韓国やアメリカに与えるメッセージは何か。

 北朝鮮とロシア間の「包括的なパートナーシップ」という表現は意図的に曖昧であり、北朝鮮が攻撃された時の自動軍事支援に対する明示的な約束はない。このような曖昧さのおかげで、両国は戦略的態勢を取ることができ、拘束力のある義務ではなく、柔軟な選択権を持つことになる。

 朝鮮半島で紛争が発生した場合、北朝鮮が軍隊を派遣した見返りにロシアも自国の軍隊を派遣する可能性があるが、その可能性は不確実だ。

 北朝鮮とロシアは、アメリカがどこまで我慢できるかを試している可能性がある。アメリカが拡大を自制すれば、欧米の決意が弱まったと認識し、そのため金総書記はより大胆な行動に移す可能性がある。

 ――ロシアが派兵と引き換えに先端技術を北朝鮮に渡すのでは。

 歴史的に、ロシアはイランや北朝鮮のような予測不可能な政権と危険な技術を共有することを控えてきた。冷戦時代、ソ連は北朝鮮に最初の研究用原子炉を提供したが、ソ連は衛星国に対して平和目的の核技術は提供したものの、北朝鮮にはそういったものにアクセスできないようにした。

 ロシアは軍事的必要性から、命中率が50%に満たない北朝鮮の短距離弾道ミサイル「火星11型」などの改善を支援する可能性が高い。短距離ミサイルの精度向上によって、意図せずとも長距離ミサイルシステムに適用できる基盤技術を北朝鮮に提供する可能性もある。

 北朝鮮は核とミサイルプログラムをほぼ独自に発展させてきた歴史がある。ロシアの支援を通じて北朝鮮が長距離ミサイルシステムを改善することは、アメリカがとくに懸念していることだ。

■派遣規模は最大2万人か

 ――北朝鮮軍の派遣規模を最大2万人と予測した。

 海外派兵の上限を超えると、中核的な防衛能力が損なわれ、軍の作戦および防衛能力が深刻に損なわれる可能性がある。一般的に、防御準備態勢を最大限維持するためには、兵力の1~5%を派遣する。

 北朝鮮は120万人の兵力を保有しており、このうち60万人が戦争勃発時、即時動員対象である「教導隊」に分類される。理論的には、北朝鮮は最大10万人を派遣することができるが、北朝鮮の現役兵力の約3%に相当する2万人がより現実的な派遣規模だ。

 標準的な軍事教義によると、ロシアは攻撃を成功させるために9万~12万人の兵力が必要だ。山岳地形で訓練された北朝鮮軍は、開放されたクルスク地域では戦闘力が低く、ウクライナ戦争に決定的な影響を与えることは難しい。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/13(水) 12:02

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