群馬県「移住希望9位→2位」に大躍進の納得の理由 知事は「トップを目指す」と意気軒高

3/8 9:02 配信

東洋経済オンライン

 認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが3月1日、毎年恒例の「移住希望地ランキング」を発表した。トップは静岡県で4年連続。そして今回、大きな話題になっているのは前年の9位から2位に躍進した群馬県だ。ふるさと回帰支援センターの分析では、「地震が少ない」「生活費や教育費の安さ」が相談増につながっているという。

 群馬県といえば、民間会社が行っている魅力度調査で毎年下位に低迷(2023年は44位)し、かつては県知事が抗議したうえ、県が独自の検証結果をまとめたこともある。イメージ先行の調査では下位ながら、窓口相談者の移住希望地調査では2位というギャップが面白い。群馬県の移住の実態、地域力、魅力を探ってみた。

■「子育て・働き世代の人気が高い」と知事が分析 

 2023年の窓口相談者が選んだ移住希望地のトップ10は次の通り。
①静岡県、②群馬県、③栃木県、④長野県、⑤宮城県、⑥福岡県、⑦北海道、⑧山梨県、⑨山口県、⑩広島県

 群馬県は2019年以降15位、10位、5位と着実に順位を上げてきたが、2022年は9位にランクを落としていた。そして今回、一気に2位に躍進した。山本一太知事はよほどうれしかったのだろう。情報解禁(3月1日午前0時)前に、「大変うれしいニュースが入っておりましたので、事前にここで発表させていただきたいと思います」と2月29日の会見で報道陣に発表したほどだ。

 知事は今回の結果について、年代別のランキングについて触れながらこう分析している。

 「20代と40代で全国1位です。30代で全国3位、つまり子育て・働き世代からの人気が高いことがわかった。今回のランクアップの要因は、群馬県が東京から近くて、住環境に恵まれた地域であることが広く浸透したからだと思っています。新型コロナを経験し、転職なき移住の適地として評価を受けたことも大きな要因だと考えています」(2月29日の会見)

 同時に、県内全市町村がふるさと回帰支援センターの会員になるなど「オール群馬」の取り組みの成果である点も強調。そして「こうなったら1位を目指すしかないかなと思います」といった言葉まで飛び出した。

 今回の調査結果とは別に、人口、移住者の実態はどうなっているのだろうか。県が公表しているデータによると、総人口は昨年12月1日時点で、1984年以来39年4カ月ぶりに190万人を割ってしまった。

 最新の2月1日時点では189万6175人。1月中の自然動態は2035人のマイナス。社会動態は転入5372人、転出5132人で240人の転入超過となっている。

 2023年の人口移動報告で詳しく見ると、日本人に限ると年間で2214人の転出超過。20-24歳の転出超過3316人が最大で、若者の県外流出が大きな課題だ。一方、子どもとその親の世代を見ると、0-14歳は234人の転入超過、30-44歳は375人の転入超過。子育て世代の支持を集めていることは間違いなさそうだ。

 では、実際の移住者はどれだけいるのだろうか。29日の会見で県の地域創生部長が2022年度に市町村で確認できた移住者数として1324人という数字を公表していた。実際にはもっと多いと見ているとのことだが、人口減を食い止める規模にまでは達していないのが実態だ。

 群馬県内で移住者数が多いのはどんな地域なのか。まずは2023年の転入超過数(日本人)で見てみよう。①高崎市299人、②吉岡町227人、③伊勢崎市105人、④甘楽町64人、⑤榛東村58人、⑥安中市49人などとなっている。上越・北陸新幹線の駅がある高崎市はわかるが、2位の吉岡町はいったいどんな自治体なのか。

■群馬県内で唯一人口の増加が予想される自治体

 県のほぼ中央に位置し、前橋市に隣接する吉岡町は人口2万2589人(2月1日時点)、面積は20.46平方キロメートルで県内で3番目に小さい。赤城・榛名の美しい山並みを望む田園光景が広がる一方、前橋市のベッドタウンとして知られ、人口増加率0.96%(2023年)は県内トップだ。

 子育て支援には力を入れている。子供の医療費無料化(18歳の年度末まで)、幼児教育・保育施設の保育料無料化、学校給食補助(小中学校の生徒1人当たり年間1万0450円)、産前・産後サポート事業(産後1年までの妊産婦への家事、育児援助)、出産応援ギフト(5万円)、子育て応援ギフト(5万円、双子の場合10万円)、そしておむつ替えや授乳ができる店舗や事業所などが「赤ちゃんの駅」として10カ所以上登録されている。

 その結果、2023年1年間の転入超過数227人のうち、0-14歳の子ども世代が48人、30-44歳の両親世代が79人となっている。子育てファミリーの流入が増えていることがわかる。国立社会保障・人口問題研究所が発表した2050年までの将来推計人口で、群馬県内で唯一人口が増加する自治体とされている。

 移住先として見た場合の群馬県全体の魅力は何か。経済、仕事、子育て、暮らしなどの面から気になる項目をピックアップしてみた。

 【物価水準】小売物価統計調査(2022年)によると、全国平均の指数100に対し群馬は96.2で、宮崎に次いで全国で2番目に低い。ちなみにもっとも高い東京は104.7。10大費目別で見ると、群馬は教育が78.6と極めて低い。住居も87.0と低く、物価水準が高いのは光熱・水道101.6ぐらいだ。住宅・土地統計調査(2018年)の家賃平均を見ると群馬県は4万3755円。東京都区部8万2347円の約半分水準だ。

 【一人当たり県民所得】内閣府県民経済計算(2020年度)によると、群馬は293万7000円で全国16位。トップである東京都521万4000円の56%の水準だ。

 【消費支出】総務省家計調査(2023年/2人以上世帯)によると、前橋市は28万3599円。東京都区部34万1320円の83%の水準だ。教育費は年間6042円で、東京都区部の2万4160円の4分の1の水準となっている。

■有効求人倍率は全国平均と比べても高い

 【自動車保有状況】自家用乗用車の世帯当たり普及台数(自動車検査登録情報協会/2023年3月末)によると群馬県内の1世帯当たり保有台数は1.585台で全国4位。ちなみに1位は福井県で1.698台。

 【有効求人倍率】2023年12月時点で1.50と高め(全国平均1.27)。

 【工場立地件数】経済産業省工場立地動向調査(2022年)によると、群馬県の立地件数は39件で全国6位。立地面積は32ヘクタールで18位。ちなみに立地件数トップは愛知県の61件。立地面積トップは茨城県の116ヘクタールとなっている。

 【温泉】日本有数の名湯・草津温泉を抱える。環境省の温泉利用状況(2023年5月)によると、温泉地数96、源泉総数459、湧出量5万2383リットル/分。

 このほかにも、だるま生産日本一(高崎だるま)、夏から秋にかけてのキャベツ出荷日本一(嬬恋村)、こんにゃく芋生産日本一(シェア9割以上)など、群馬の自慢は多い。

 自然環境に恵まれ物価水準が低い。それでいて就労環境も整備され、子育て環境は充実している。日々の暮らしに自動車は欠かせないが、幹線道路沿いには大型ショッピングモールや家電量販店が揃い、買い物の利便性は高い。アウトドア派には山も川も湖もある。キャンプ、登山、スキー・スノーボード、釣りと年間を通じて楽しむことができる環境だ。

 そんな魅力あふれる群馬県の泣き所は、気象条件。気象庁の歴代全国ランキングを見ると、最高気温の高さ上位24地点のうち、群馬県からは桐生と伊勢崎が40.5度で14位に、館林と上里見が40.3度で20位に入っている。昨年、群馬県内では桐生市で猛暑日が全国最多の46日を記録、過去最多となった。

 太平洋の湿気をたっぷり吸った暖かい南風が関東平野に吹き、その風が上毛三山(赤城山、榛名山、妙義山)にぶつかったり、山に囲まれた平野で温められると上昇気流が生じて積乱雲を生むことで雷の発生回数が多くなると言われている。そして冬は上州空っ風。山から関東平野に向けて吹き下ろす乾燥した冷たい強風がツラい。

■移住希望者への出身者からのアドバイス

 今回のニュースがネットに流れると、さまざまなコメントがあふれかえった。

 群馬出身者は「気候は地域によって同じ県かと思うくらい違いまして、南の方は日本一暑い、北の方は冬はほぼ東北です。移住を考えるならどのあたりに住むのかが結構重要」とアドバイス。

 高崎に住んでいたという人は「大きな公園や動物園、広場が多く子どもを育てるには困らない。土地も安いからめっちゃ広い庭付きが買える。子育て世代には高崎や前橋はおすすめ」と推奨している。

 東京から100キロ圏内の群馬県は、交通のアクセスはまずまず。上越・北陸新幹線の停車駅・高崎なら東京駅から約50分で着く。筆者の知人(大手メーカー勤務)もコロナ前から高崎に家を建てて新幹線通勤をしていた。コロナ禍を機にリモートワークが定着し、家族と過ごす時間が増えて、生活の質が向上したことを実感しているという。

 イメージ優先の魅力度調査では低人気かもしれないが、子育て世代を中心としたリアル移住ライフを考える人々の間では、群馬県の好感度、存在感はますます高まりそうだ。

 また昭和以降、群馬県からは福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三、福田康夫と4人の総理大臣を輩出している。

 今後、県として移住促進に力を入れるだけでなく、移住者の定住化に向けた対策の強化を図り、定住率などのデータを公表して、人口減対策に向けた「群馬モデル」を構築していってほしいものである。

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最終更新:3/8(金) 9:02

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