廃業した「ガソリンスタンド」なぜ放置? 跡地活用のハードルが高いワケ《楽待新聞》
あなたの街に、長らく放置された「ガソリンスタンドの跡地」はないだろうか?
需要の減少や運営コストの増加などを理由に、ガソリンスタンドはどんどん数を減らしている。しかし、跡地の活用方法が決まらず、そのままにされていることも珍しくない。
もちろん、そもそも人通りも少ないような場所のために再活用が難しい場合もある。
だが筆者は、交通量の多いロードサイドなど、比較的魅力的な立地にあるにも関わらず未活用のまま放置されている例もよく見かける。不動産としての価値は高そうなのに、なぜなのだろうか?
今回は、ガソリンスタンドが置かれる苦しい現状と、その跡地の活用が進まない理由について考えていく。
■10年で25%減少した都道府県も
経済産業省が2024年7月に発表した「揮発油販売業者数及び給油所数の推移」によると、販売事業者数とガソリンスタンド(給油所)数はともに減少が続いている。
2014年度に3万3510カ所あった給油所は、2023年に2万7414カ所まで数を減らしている。10年間の減少率としては18.2%だ。
ガソリンスタンドの廃業が続いている背景には、原油価格の高止まり等による粗利益率減少や、消防法改正により安全性に関するさまざまな規制強化などが挙げられる。
加えて、人口減少やハイブリッドカーや電気自動車の普及で、ガソリンの需要自体が減少していることも廃業に輪をかけているようだ。
ちなみに、最もガソリンスタンドが多い都道府県は北海道(1668カ所)で、最も少ないのは鳥取県(194カ所)である。
2023年度末では、ガソリンスタンドが3カ所以下となった市町村が372あり、「SS(サービスステーション)過疎地問題」として国も対策を推進している。
直近10年間のガソリンスタンドの減少数・減少率を算出してみると、上位となったのは関東地方の都道府県が多かった。
また、事業者向けに行っているアンケート結果を見ると、近年は5%前後の事業者が「廃業を考えている」と回答していた。
■跡地活用に立ちはだかる「コストの壁」
東京都・千葉県・神奈川県をはじめ、廃業したガソリンスタンドの跡地が、しばらくそのままにされているのをたびたび見かける。土地の需要が高そうな地域もあるのに、一体なぜなのか。
そもそもガソリンスタンドは、ガソリンや軽油を貯蔵する地下タンクに、再利用できないよう砂を入れた状態にしなければ、廃業できない。
跡地に新たな建物を建てる場合にも、建築基準法により地下タンクの適切な処置が必要と定められている。地下タンクを掘り起こして除去することが望ましいが、そうでない場合は地盤を安定させるための工事が必要となる。
さらに、ガソリンには特定有害物資が含まれているため、土壌が汚染している可能性がある。再利用するためには、土壌汚染対策法に則って土壌の調査を行い、汚染されていた場合には除去作業をしなければならない。
つまり、跡地を再利用できる状態に戻すためにはかなりのコストがかかる。規模や土壌の状態によっては、費用が1000万円を超えるケースもあるようだ。
このことが、好立地であったとしても跡地が活用されにくい大きな要因となっている。
ガソリンスタンドの跡地は転用のハードルが高いため、再びガソリンスタンドとして利用される事例が多い。
筆者の近所で廃業したガソリンスタンドは、それまでとは別系列のガソリンスタンドとしてリニューアルした。おそらく、廃業前に事業の譲渡先を見つけて売却したのだろう。
また、ガソリンスタンドの持っている自動車整備の設備を再利用する形で、車検専門店としてリニューアルしたところもある。
一方で、ガソリンスタンドの建物をそのまま再利用し、マッサージ店として開業した変わり種もある。
ガソリンスタンドは、敷地のうち給油設備が大部分を占めており、事務所部分(居住空間)は決して大きなスペースではない。
そのため、別業種で建物をそのまま利用しようとしても、商売を行う上では十分なスペースとは言えない可能性がある。これも、ガソリンスタンド跡地が再利用されにくい理由の1つなのだろう。
半面、駐車スペースは大きく、自動車関連の設備が備わっていることから、例えば中古車販売店や自動車整備工場など、自動車関連業種は活用しやすいのかもしれない。
そして案外知られていないが、ガソリンスタンドは安全性が高い物件である点も特長だ。消防法の厳しい基準をクリアしているため、一般的な建物よりも耐震性・耐火性に優れている。
国もガソリンスタンドを一時的な避難所として利用することを推奨したり、災害時も燃料供給を続けられる「住民拠点SS」の一覧を公開したりしている。
◇
ガソリンの需要減少は続き、今後もガソリンスタンドの廃業は続くだろう。しかし、好立地にあるガソリンスタンド跡地が、土地需要の強い大都市圏でいつまでも放置されることはないと筆者は考えている。
いずれは、自動車関連への再利用や、あるいはガソリンスタンドの持つ耐震性に優れ、安全性の高い建物・設備に着目した新たな事業に再利用されることになると期待している。
手を出しにくいガソリンスタンドの跡地だからこそ、別の事業者によって大化けする可能性があるのかも知れない。
鷲尾香一/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
関連ニュース
- 総投資額870万で「31物件」運営、「地方築古投資」はまだ儲かるのか
- 投資家の妻でも所得税・住民税がゼロに、「年収の壁」引き上げでいくら節税できる?
- 最近よく聞く「セゾンファンデックス保証」の不動産ローン、融資条件や使い勝手を調査
- 玉木雄一郎が熱弁、年収の壁を「178万円」とすべき理由…自公案は「ケチ」くさい?
- マンション解体で立ち退き求めたオーナー側が敗訴、借地借家法の「正当事由」がカギに
最終更新:2/16(日) 19:00