漁師めしにこだわる異色の漁師YouTuber「はまゆう」。登録者80万人の魅力はどこに。

5/25 6:02 配信

東洋経済オンライン

早朝から漁に出て、ひたすら魚を追い求める――。一見するとハードに見える漁師の仕事だが、実際の姿はどうなのか。ここでは、香川県・小豆島で漁師を営み、今や「小豆島の漁師はまゆう」で、チャンネル登録者数約80万人を誇る漁師YouTuberのはまゆう(濱田祐輔)氏にインタビュー。漁師になった経緯や仕事の魅力などについて語ってもらった。

週刊東洋経済6月1日号(5月27日月曜日発売)では、「全解剖 日本の魚ビジネス」を特集。漁獲量がピークから7割以上減った日本の漁業の現状や、サンマやウナギなど獲れなくなった魚種の行方、今後の復活のカギを握る日本の養殖ビジネスなどを取り上げている。

■高校を中退して実家に戻った。開業資金は400万円

 ――17歳で漁師を始め、今年で30歳を迎えました。そもそも、なぜ、この仕事に就いたのですか? 

 祖父や父が漁師だったこともあり、物心がついたときには自分もなろうと思っていた。子どもの頃、将来の夢に「漁師」と書いていたくらいで、他の選択肢はなかった。そうしたこともあって水産系の高校に進学したが、なじむことができずに中退し、半年間は実家の海苔養殖を手伝い、その後は一緒に建て網漁を始めるなど、徐々に経験を積んでいった。

 ただ、20歳の頃に何か自分で始めたい、社長になりたいと思い、漁師を辞めて営業の仕事に就いたが、結局は肌に合わず、実家の手伝いに戻ったこともあった。23歳になり、それなりの経験を積んだので、中古の船を150万円で買ってサワラ漁などに取り組んだ。開業資金はもろもろで400万円はかかったが、貯金や融資などでまかなった。

 YouTubeを始めたのは、25歳のときに「梧桐ゆずりは」さんという漁師YouTuberの動画を観たのがきっかけで、自分も挑戦したいと思った。動画はいきなりブレイクしたわけではなく、ひたすらクオリティを磨いたことで徐々に右肩上がりを続け、登録者数もようやく78万人を超えた。「動画で紹介していた魚を買ってみた」「さばいてみた」というコメントは当初からあり、その輪がどんどん広がっていったと実感している。

 ――漁師とYouTuberを両立させるのは大変なのでは? 

 最初は漁師めしを作ることから始めた。仕事の合間に実家の台所を使い、撮影に3~4時間、編集に7時間くらいかけ、2~3日おきに動画をアップしたが、再生数は100回にも満たない。コストと労力に見合わない時期が数カ月も続いたことはつらかった。

 今は漁の様子もアップしているが、陸上や屋内で撮るのとは異なり、その日の天候がどうなるのか、どれだけの魚が獲れるかもわからない。自然任せという点では大変だ。普通に漁をしている分は楽しいが、撮影をしながらだと、いつもの2.5倍くらいはしんどい。

 一方、そうであるからこそ、参入障壁は高い。適当なコンテンツだと伸びないと思っていて、漁師の枠組みなど、柱から外れない動画作りに徹している。いまは漁師めしと漁、魚食と関係が深いお酒が中心だ。漁師めしであればさばくときの画角を使い、あえて船上で洗わないままのまな板を使い豪快さを残すなど、さまざまな工夫を凝らしている。漁師のイメージを大切にしたうえで調理することにこだわっている。

■カキ養殖を始めたのは自分が食べたかったから

 ――漁師の仕事に加え、取り組んでいる事業もあるようですが。

カキの養殖や水産物のオンラインショップ「はまゆうの台所」などもやっている。カキを扱ったのは、単純に自分が作ったものが食べたいと思ったから。「自分が食べたいものをいろんな人と共有したい」という理念があり、おいしいと思ってもらえることが好きなので、こうした取り組みはどんどん広げていきたい。組織は法人化していて、撮影から編集、カキの仕分けなど、パートナーとの2人体制ですべてをこなしている状況だ。

 ――収支も含めて、事業はうまく回っているのですか。

 それなりに稼いできたが、事業への再投資に回すことがほとんど。いまは閉店したが、期間限定の居酒屋事業には1000万円以上を投じている。カキ養殖にもすでに500万円を使った。お金は事業優先で使うので、手元にあまりキャッシュは残らない。私自身の収入は法人から受け取る年600万円の役員報酬くらいだ。

 ――漁師を目指す方へ何かアドバイスをお願いします。

 漁師になりたくてもなれない環境が、現在の水産業にはある。自分の子どもしか組合員になれない漁業協同組合(漁協)もあり、私も漁師の息子でなかったら、なりたくてもなれていなかった。

 一方で新規参入に前向きな組合もある。志望者を歓迎しているなど、受け入れ体制がしっかりしている組合にたどり着くことが、最短で最善のルートだ。あるいは、学校や塾を開くなど、志望者をサポートしている自治体を探すのも手だろう。

 また、どうしても生活にお金はかかるので、ある程度収入が見込めるところも選ばないといけない。操業期間などの制約があり、収入が少ないとなると長続きしないので、下調べをしたり、頭を下げてでも教えを請うたりする姿勢が求められる。

 ちなみにうちは兄も漁師で、私は13年前に漁協に入ってから、ずっと一番年下の若手だ。この仕事には定年がなく、いつまでも漁に出られるので、新陳代謝が起きにくいのかもしれない。

■YouTuberはできる限り続けたい

 ――改めて、この仕事のやりがいとは。

 私は魚が大好きで、あがってくるすべての魚がうまそうに見える。それらを持ち帰って調理して、お酒と一緒に食べることに幸せを覚えている。

 また、単価の高い魚が獲れたときは宝くじに当たったときのような、トレジャーハンターのようなワクワク感もある。天然物相手だと収入は安定しない面もあるが、大儲けしている漁師もいるし、それはそれで素晴らしいと思っている。稼げる職業でないと、担い手は集まらない。

 ――最後に将来像を聞かせてください。

 YouTuberをいつまでやるかわからないが、できる限りは続けたい。大きな目標を掲げるわけではなく、毎日のクオリティを高めていくことを心掛けている。

 漁師に関しては天然物相手だけでは難しいと判断している。カキ養殖を始めたのはそういう理由もある。漁業歴13年、30歳の私がずっと若手ということは、このままだと水産業はなくなるということ。だから養殖などを通じて担い手を増やしたいと考えている。

 新しい漁師が増えるようにサポートできる体制も必要だ。天然資源が減って、若者の魚離れで漁獲単価が下がると、漁協も破綻する。私の場合、漁業や養殖が生活の糧になっているが、さらに事業を拡大してこの仕事を将来につながる職業にしたい思いがある。

(はまゆう氏も応援する、漁師になりたい人のイベント「漁業就業支援フェア2024」~主催:全国漁業就業者確保育成センター~が7月6日に福岡、15日に東京・浜松町、27日に大阪で開催されます。漁業に関心ある方はぜひともご参加ください)

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最終更新:6/3(月) 9:32

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