「あえて変形地を選んで買う」、アパグループの高収益の裏にある成功哲学《楽待新聞》

5/12 11:00 配信

不動産投資の楽待

不動産投資で参考にするべきは、超高収益な企業の「哲学」なのかもしれない。長らく成長を続けている企業には、秘訣がある。その原理原則を知ることは、個人投資家の成功の助けになるはずだ。

今回、紹介するのはアパホテルを運営するアパグループ。あのド派手な広告で知られる、日本最大のホテルチェーンだ。

アパホテルを分析すると、ホテル企業というよりも、超高収益な不動産投資企業であることがわかる。

そのノウハウには、個人の不動産投資家も学べる成功法則が詰まっているはずだ。

■営業利益率30%の秘密

アパを語る上で欠かせないのが、その収益力の高さだ。

2023年11月期の売上高は1912億円、営業利益は566億円で、営業利益率は30%となっている。

一般的なホテルの営業利益率が10%程度であることを考慮すると、いかにアパが高収益であるかがわかるだろう。

なぜ、これほど高い利益率となっているのか。

その秘密は、他のホテルとは異なるビジネスモデルにある。

一般に、ホテルビジネスのフローはそう複雑ではない。保有する土地に施設を建設し、従業員を雇ってサービスを提供していく、というものだ。

家族経営の地方の旅館や1つの施設だけを運営するホテルなどでは、このすべてを自前で運営するケースが多い。

一方で、全国規模でチェーン化するホテルブランドの場合は、すべてを自社で担うのではなく各プレイヤーで役割分担をするのが一般的だ。

具体的には、ホテルのビジネスは3つの役割に分かれて成り立っている。

1つが、所有。ホテル事業を営むために必要な土地や建物の持ち主だ。

もちろん、所有者が自前でホテルを運営するケースもあるが、収益が出るのであれば自分たちで経営する必要はないと考えるオーナーも少なくない。

そこで登場するのが、2つ目のプレイヤーである経営主。所有者に家賃を払ってホテル資産の運用をするのが役割だ。

この経営主も、自分たちでホテルの運営をする場合と、さらに専門業者に委託するケースに分かれる。

このホテル運営の専門プレイヤーが、運営主。これが3つ目だ。

運営主は、ヒルトン、ハイアット、星野リゾートなどといったブランド力を強みにして、運営を任された物件をお馴染みのホテルブランドに変えていく。

つまり、街中で目にする有名ホテルたちの多くは、ブランド主が所有しているものではなく、別に持ち主がいるということだ。

有名ブランドの看板を掲げれば集客には強いが、プレイヤーがそれだけ増えるということは、利益が分散することを意味する。

仮に全体の営業利益率が30%の高収益だったとしても、それを3つのプレイヤーで分割すれば単純計算で10%ずつになってしまう。

アパはこれらの役割全てを担うことで、利益を「全取り」しているのだ。

ホテルの約9割を自前で所有し、経営、運営まで手掛ける。それが、高収益を叩き出すカラクリの一端なのだ。

■本質は「不動産投資」にある

なぜ、アパはこの一気通貫のビジネスモデルを選んだのか。

理由は、その成り立ちにある。もともとアパは、ホテルから始まった企業ではなかった。

創業は1971年、元谷外志雄会長(妻が広告で有名な芙美子氏)が始めたのは、住宅ローンと注文住宅をセットにした住宅事業だった。

石川県の信用金庫に勤めていた外志雄会長は、そこで住宅需要の拡大とローン制度の整備の必要性を認識する。

信金時代に長期住宅ローンの制度をつくり、そのノウハウを元に起業したのがきっかけだった。

元手に乏しかった起業時は、オーダーメイドの注文住宅からスタートし、投資資金を増やしながら、徐々に建売住宅やマンション建設にシフトしていく。

ホテルビジネスに参入したのは、創業から13年後の1984年のことだった。

建売住宅やマンションの販売とホテル運営の大きな違いは、最終ゴールが「販売」か「運用」か、という点だ。

住宅やマンションは販売によって短期的に大きな収益を生み出すが、ホテルは稼働率に応じて長期で安定的に現金が入ってくる。

アパの本質は、この不動産の長期保有にある。

2022年にアパグループの社長に就任した一志氏(外志雄会長の長男)は、ホテルビジネスの参入についてこう語る。

「不動産は長期保有し、減価償却をしながら運営することで利益を生み出せます。そのために最適だったのが、ホテルという形態でした。長期保有することで安定して利益を生み続けられますから。会長は、ホテル参入時から本業としてチェーン化する計画でした」

アパがホテル運営を選んだのは、不動産投資に対する最大リターンを得るためであり、ホテル運営そのものが目的だったわけではない。

言い換えれば、アパは自社のビジネスを、取得した不動産を最大限に収益化する「空間活用ビジネス」と定義してきたのである。

その発想は不動産投資ビジネスそのものだ。

■チャンスは良い時より「悪い時」にあり

もちろん、不動産投資にはリスクがつきものだ。

とりわけ、高値で不動産を取得してしまった場合、どれだけ効率化しても高い利回りを得るためのハードルが高くなってしまう。

優良物件をいかにお値打ち価格で仕入れられるかが、今も昔も不動産投資の肝である。

アパの場合、これまでは外志雄会長の目利き力と、「拡大のチャンスは良い時より、悪い時にある」という哲学によって成功してきた面が大きい。

急拡大に至る最初のきっかけは、1987年の8月に起きたブラックマンデーでの気づきだった。

ニューヨーク証券取引所で株価の大暴落が起き、世界的な株安が引き起こされるも、不動産価格は下がらなかった。

違和感を覚えた外志雄会長は、日本の不動産バブルの崩壊を予測し、保有していた不動産を一気に売却。そこで得た売却益を元手に、バブル崩壊後に値下がりした不動産を取得して拡大を果たしていったのだ。

リーマンショックや東日本大震災の後も同じで、不動産市況が悪いタイミングで、一気に不動産を取得している。

現在の好調な不動産市況では、同じような戦略は取りにくいが、それでもできるだけ安価に取得するために工夫をしているという。

一志社長はこう明かす。

「ほとんど同じ立地に、2つの土地があるとします。Aは整形地、Bは変形地で2割安い。Aを選ぶ業者さんが多いのが実情です。でも、同じ室数を確保できるとしたら、私たちはBを購入します。規格外の野菜でも、スープにするのであれば安い方が良いという発想です」

■収益を最大化する「超効率化」ホテル

もう1つ、アパの強さとして挙げられるのが、その合理的な空間活用術だ。

アパホテルに宿泊すればわかるが、とにかく部屋が狭い。シングルルームは9~10平米しかなく、一般的なビジネスホテルの13~15平米と比較すると小さい。

しかし、それも「あえて」なのだとアパは説明する。

もともとホテルの多くは旅行客をメインに、複数人で過ごすことが前提で設計されていたが、ビジネスパーソンの出張が増加して需要が変わってきたという。

旅行客狙いだと土日が稼働のメインになるが、ビジネスパーソン向けにすれば平日5日で高稼働が見込める。アパはビジネスパーソンをターゲットにホテルを増殖させていった。

ビジネスパーソンは出張時、ほとんどホテルで過ごさない。営業に出たり、会食をしたりするなどして、部屋に求めるのは良質な睡眠と疲れを癒す入浴くらいだろう。

そこで、部屋のサイズを必要最小限にする一方、米トップブランドの1つシーリー社と共同開発した良質なベッドを採用している。

部屋にはゆったり入れるバスタブを設けるが、浴槽を卵形にすることで湯量を通常の8割で済むように設計する、という工夫もしている。

その他、客室内の必要なスイッチは、すべて枕元に設置し、ベッドに寝たまま操作できる仕様になっている。どこにライトのスイッチがあるかわからず、ホテルの部屋の中を行ったり来たりした経験がある人は、少なくないだろう。

あるいは、セルフチェックイン機を早くから導入し、フロント業務に配置する人員を極力減らせるように工夫している。

そうした細かな改善の積み重ねが、顧客の一定の満足度とコストカットによる高収益を実現しており、今でもその取り組みは続いている。

「私たちは基本的に、1つのホテルがオープンするごとに1つのイノベーションを盛り込むようにしています。開業から5~10年が経過すると古い設備は陳腐化するので、その際に新たな改善をキャッチアップする改装をしています」(元谷一志社長)

アパのこうした取り組みは、まさに低価格で物件を取得し、独自ノウハウで物件価値を上げて収益を高めていく、やり手の不動産投資家のようだ。

■2代目として、果たしたいこと

アパグループHPのニュースリリースの欄を見ると、ホテル開業や起工式、土地取得のニュースが並んでいた。かなりのスピードで拡大を続けていることが見て取れる。

2024年も開業ラッシュで、12月には大阪の繁華街、なんば駅前に2000室超え、地上40階建ての超高層タワーホテルをオープンする予定だ。

こうした開業を重ねて、27年3月末には現在11万7000室の客室数を15万部屋にまで拡大していく方針を取っている。また、2016年に買収した北米のコーストホテルを足がかりにグローバル化も推進していく計画だ。

創業者の後を継ぐ、一志社長の役割は決して小さくない。日本最大のホテルチェーンを継いだ身として、今何を思うのか。最後に、語ってもらった。

「私が大学4年生の頃、就職活動のタイミングで父と将来について話しました。『財産をすべて放棄します』という一文にサインをしたら、好きにしていいと。サインしないのであれば、家業に備えた就活をしろ、ということでした。自分で起業しても、きっとアパのような規模にはできない。であれば、家業に戻って雪だるまをもっと大きくするように、成長に携わっていきたいと決意しました」

ただ、2代目は歴史に名前が残りにくい傾向がある。徳川家も足利家も、2代目はあまり知られていない。一志社長は自身の務めについて次のように話した。

「私は自分の役割を、送りバントだと思っています。業績の半分は初代、もう半分は3代目のものだという前提で、経営にあたっています。創業家の私の目的は、会社を育てる、つなぐことであって、自分の名前を残すことではありません。そこを間違えずに、経営の舵取りを担うつもりです」

不動産投資の楽待

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最終更新:5/12(日) 11:00

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