生成AI「悪夢のシナリオ」
(文 鈴木 貴博) 「未来予測」を専門とする経済評論家の鈴木貴博です。
昨年、エネビディアをはじめとした生成AI株を推奨してきた私ですが、エヌビディアの株価が爆上がりした今は、かなり危うさを感じるようになりました。
前編『誰も言わない「エヌビディア・バブル」とその崩壊への「悪夢のシナリオ」…! 経済予測が専門の私が、生成AIの「不都合な真実」を徹底解説します! 』で紹介したとおり、生成AIの未来には暗雲が立ち込めているようです。
いま停滞が指摘されているEVのテスラは、仮に今年、販売台数が失速すれば、株価が大きく値を下げることも考えられますが、長期的なEVシフトのトレンドを考えれば、その時は「買い」と言えるでしょう。
ところが、生成AIはまだ、トレンドを確立しているとは言い難く、多くの難題が山積しています。この不確実性が明らかになったとき、生成AIブームの「エヌビディア相場」が一気に押し上げた世界の株高は、どうなるのでしょうか。
当然、「悪夢のシナリオ」が待っていると考えておくべきでしょう。
それに備えるにはどうすればいいのか。さらに詳しく「生成AI」の未来を読み解いていきましょう。
生成AIの「利用料」は高額になる
生成AIのサービスは学習の際に大量の計算能力を必要とするだけでなく、生成AIの利用の際にも大量の計算能力を必要とします。今は学習のための計算能力が主体のため世の中がなんとか回っているのですが、利用が中心の時代が来たとたん、インフラがパンクします。
さらに、その利用が拡大したとき、生成AIのデータ処理のコストを誰が支払うのかという問題が横たわります。私たちがマイクロソフトやグーグル、アマゾンの生成AIを本格的に使う時代には、インターネットのように無料でサービスを受けるのは無理だと予測されているのです。
インターネットの場合は検索にしてもSNSにしても、莫大な広告収入で元がとれるので大手IT企業のほとんどが無料でのサービス提供を基本のビジネスモデルに据えてきました。しかし、同じグーグルやアマゾンが生成AIのサービスを本格的に提供するとなると、コスト的には無料はほぼ無理です。
マイクロソフトの場合、オフィス365に生成AIを実装した場合に月額40ドルの利用料が加わるとされています。個人ユーザーから見ると痛い出費ですが、実はこの月額40ドルでもエヌビディアなどインフラへ必要とする巨額の投資はカバーできないのではないかと予見されています。
そうなると考えられる対策のひとつは、利用料の大幅な値上げです。
明らかになる「生成AIの死角」
それがビジネス利用であれば、たとえば月額5万円で生成AIを企業が利用するようになるような未来がやってきても、経済は回るでしょう。
企業からみればひとりあたりのライセンスが月5万円かかったとしても、月30万円の給料を支払っている社員の生産性が1.5倍に上がれば元は十分にとれます。アメリカ企業の場合は、もしお金が足りなくなるようであれば、生産性が1.5倍になった段階で社員の3分の1を解雇すればいいのです。
しかし生成AIをB2Cで提供するようなサービスであれば、おそらく消費者が払えるレベルの価格では採算が合いません。それでどうなるかというと、最初に起きることは、一定数の企業が生成AIの学習に関しての投資を終えたところで、生成AIのサービス提供への移行を断念するというシナリオです。
いい生成AIができたのだけれども、それを本格的なサービスとして提供すると、この先、データセンターへの投資が天文学的にかさみ、ビジネスとして成立できない。そこで研究開発段階で投資は終了として、サービスは行わないという判断が下されるようになるのです。
その場合、最初に起きる経済現象は、いまは誰もがこぞって購入しようとしているエヌビディアの半導体である「GPU(Graphics Processing Unit)」への投資額があるときを境に「ピークアウトする」という変化になるはずです。
今はエヌビディアへの需要が供給をはるかに上回っている状況で、それがまだしばらくは続きそうなのですが、その需要を支えているAI各社の投資意欲がどこかの段階で現実路線へと修正されるのです。
「エヌビディア・ショック」へのカウントダウン
このことから予想できることは、仮にその時期が来た場合、「エヌビディア・ショック」とでもいうべき反動が株式市場に起きることです。
日本でも過去、それぞれ原因は違う事象でしたが、ライブドアショックやソニーショックが起きて、そこで株式市場の潮目が変わるという現象が起きてきました。
エヌビディア・ショックの場合、もしそれが起きれば、その影響は世界的な影響になるはずです。そして将来、生成AIが必要とするであろう計算能力のことを考えると、それはタイマーの設定がわかっていない時限爆弾のようなもので、必ずどこかで破裂するはずです。
そのような未来が予測できることから、昨年私はAI株を買えと言っていましたが、昨今は「もう利食いしたほうがいいよ」と言うように口調が変化しています。
ただ、冒頭でお話ししたように仮にテスラ株が暴落した場合はテスラ株は買いだという論理と同じで、生成AI株の中にもエヌビディア・ショックで暴落が起きた場合に、そこからが買いとなる銘柄は予測できます。
やがて訪れる「大暴落」のあとに起こること
具体的にはマイクロソフト株がその筆頭で、グーグルとアマゾンもそれに続く可能性があります。共通点はB2Bのクラウドの最大手ということです。
セールスフォースやネットフリックスも生成AIをB2B利用する最大手という意
味で、そこからの株価回復が見込めます。
これまでお話ししたような事情からB2C向けの生成AIサービスはこの先、比較的早い段階でその現実性に黄色信号がともる時期がやってきます。
それがエヌビディア・ショックをもたらすことになるのですが、それでもB2B向けサービスは高価格設定によって成立する可能性が非常に高いと予測できます。
そうなれば、2025年から30年の間は、生成AIはB2Bの世界が主流となり、そのサービスは年々、世界のビジネスで必須のインフラになるでしょう。
結果としてデータセンターの計算能力拡充の巨額投資は、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、セールスフォース、ネットフリックスといったビジネス利用企業がまず最初に収益化することができるようになるでしょう。
「エヌビディア・バブル」のいま考えておくべきこと
このような話をしなくても、読者の皆さんの中で株式投資を行っている方は、今の急激な株価上昇に対して何らかの怖さをすでに感じ取っていることと思います。
株の格言に「休むも相場」という言葉があります。熱狂的な生成AI相場から少しだけ距離をおいて、しばらくはS&P500連動型やオールカントリー型の投資信託で運用を続けつつ、いざその気配が見てとれたら、一旦、運用資金を現金化する。
そのような柔軟な対応で未来に備えておく必要が強まってきたのではないかと私は考えています。
さらに連載記事『イーロン大ピンチ…! 「EV最強」テスラを猛襲する「中国勢」のヤバすぎる戦略と、「EV最終戦争」で広がる自動車産業「新たな地平」』では、今年に入り低迷するEVの不調の理由を詳細に解説していますので、こちらも参考にしてください。
マネー現代
最終更新:4/21(日) 10:21
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