日本の「お葬式」を飲み込む低価格競争、葬儀業界のブラックボックスをこじ開けるか?

11/21 17:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

● 葬儀の低価格化が進展 背景に人口動態やコロナ

 葬儀費用の低価格化が進展している。経済産業省の特定サービス業動態統計調査によると、1件当たり葬儀費用は2000年の145万円から2022年には113万円と20%強も低下した。

 低価格化の背景には、以下の要因がある。

 (1)人口動態の変化

 (2)コロナ禍の影響

 (3)新興業者の台頭

 1960~70年代に見られた大家族は大幅に縮小し、現代では都市部を中心に核家族や一人暮らしが増加した。この結果、親戚数が減少し、葬儀への参列者数が減っている。

 また、コロナ禍では葬儀への参加人数が制限され、食事を伴わない最低限の葬儀が求められた。当時は仕方なくそうしたわけだが、コロナ禍収束後の今も葬儀単価は回復しないままだ。

 こうして、限られた家族や友人による小規模の葬儀需要が高まった。今では葬儀会社各社が家族葬を展開し、通夜を行わない「一日葬」や火葬のみの「直葬」等も増加している。

● 新興企業の台頭も 低価格化に拍車をかける

 葬儀費用の低価格化に拍車をかけるのが、ネット系・ポータル系と言われる新興葬儀会社の台頭だ。死亡者数が2040年まで増加する日本では、葬儀業界は数少ない成長産業である。

 成長産業には、他業界からの参入も含め、多くの新興企業が現れる。「小さなお葬式」や「イオンのお葬式」が好例だ。

 ポータル系と呼ばれる新興企業は、従来型のように自社の葬儀会館を持たず、依頼主である遺族と提携葬儀会館・葬儀社への仲介を行うビジネスモデルだ。

 一部の新興葬儀企業は、葬儀に伴う資材を海外から一括調達してコストを下げ、低価格を実現している。情報がフラットになり、全国の葬儀業者の価格を比較して決定することが可能になった。これらが当たり前になり、葬儀業界の価格競争が激化している。

● アメリカやイギリスでの 葬儀に関する法規制

 業界内のタフな競争による副産物として不正の増加がある。葬儀は各人にとって一生で何度も行うものではなく、情報劣位となりやすい消費者側と企業との間で情報の非対称も生じやすい。

 不正増加の背景には、葬儀事業や葬儀事業者を規制する法律がなく、誰でも葬儀社を名乗れる現状がある。葬儀費用はブラックボックス化しやすく、不正請求などトラブルも増加傾向だ。葬儀費用に関する国民生活センターへの相談は、2020年の686件から2022年には947件に増加した。

 全日本葬祭業協同組合連合会は、兼ねてより事業者届出制度の導入を要請している。2022年には国会予算委員会で厚生労働省副大臣が国内外の実態調査に取組むことを表明した。
 
 アメリカやイギリスでも葬儀の低価格化は進んでいる。欧米の葬儀は土葬という我々のイメージと異なり、最近では費用がかさむ土葬よりも安価な火葬が増加し、火葬比率は60%以上となっている。

 この2国でも葬儀業者による葬儀費用のブラックボックス化が問題となっている。アメリカでは1984年に連邦取引委員会が、イギリスでは2021年に競争・市場庁が、それぞれ葬儀に関する規制を定めた。

 これらの規則は不当な事業者から消費者や他の事業者を守ることを目的とし、イギリスでは葬儀業者による病院や老人ホームへのインセンティブ禁止なども織り込まれている。イギリスの生命保険会社Sunlifeが行った調査によれば、約9割の葬儀関係者がこの規制をポジティブと感じているようだ。

● 中国の葬儀トレンド デジタル墓地が出現

 一方、中国では別のトレンドが見て取れる。中国にも葬儀に関する「殯葬管理条例」という法律が定められているが、2018年の改正案の内容は驚きだ。改正案の内容は、土葬を規制し、火葬さらには散骨を奨励するというものであった。急激な人口増加を背景に死亡者数が増加している中国では、墓地不足が深刻な問題なのだ。

 北京では2035年までに公共墓地の面積を現在の70%にまで減らすことを計画しており、デジタル墓地も出現している。

 Beijing Jiuli Digital Technology Co.が運営するデジタル墓地では、建物の中に遺灰が保存できる。遺族はスクリーン上の写真やビデオを見て故人を偲ぶという仕組みだ。

 上海でもデジタル墓地の普及が始まりつつある。実は、かつての日本でも土地不足により土葬から火葬へのシフトが起こった。近い将来、日本でもデジタル墓地の必要性が高まる可能性もなくはない。

● 日本の葬儀業界を 確固たる成長産業に

 日本の葬儀業界は成長産業であるが、それゆえに新興企業も台頭し、低価格化に見舞われている。しかし、これは変化に対応できる企業にとって大きなチャンスでもある。

 アメリカやイギリスのように規制による消費者保護も多死社会の日本にとって重要だ。ただし、それにとどまらず、中国のように新たなビジネスモデルの追求も必要だ。

 葬儀業界で現在起こっている変化は他産業と大きな差はない。人口動態の変化、コロナ禍の影響、新興企業の台頭、IT技術の発達などは、どの産業でも直面する問題だ。

 葬儀業界は「我々は特殊な業界だ」という言い訳に逃げ込んではならないと考える。むしろ、消費者のニーズに機敏に呼応し、確固たる成長産業にしていく覚悟が必要であろう。

 (フロンティア・マネジメント 代表取締役 松岡真宏、フロンティア・マネジメント ディレクター 渡邉 あき子)

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最終更新:11/21(火) 17:32

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