日本の永住権所有者が震え上がる「入管法改正」の中身、実習制度の改善の裏で実は起きていること

3/22 11:41 配信

東洋経済オンライン

 「永住」から「永続的な不安定さ」へーー。国会にまもなく提出される入管法の「改正」草案を読んでみると、日本に長期在留する外国人の状況がいかに不安定になっているかがわかる。

 2024年初、法務省は承認された「記者クラブ」の少数のメンバーに対し、日本の入管法改正案草案を提示した。改正の正式な目的は外国人技能実習制度を改善することである。1993年の開始以来、この制度は実習生の転職を不可としており、ブローカーや人材紹介会社による実習生の酷使が蔓延していた。

■ひっそりと盛りこまれた「罰則」

 日本のメディアはこの改正を主に大きな改善として紹介した。「長時間労働、セクハラなどの人権侵害が批判されてきた技能実習は、本人の権利保護により重きを置いた制度に近く一新される。3年後には「特定技能」に移行し、家族も呼び寄せて安定して生活できる道が整いつつある」と朝日新聞は1月16日に報じている。

 また、2月9日には共同通信(英語記事)が「日本が新しい外国人技能実習制度の人権保護を強化するよう承認した」と報じている。

 明らかな改善の1つは、実習生の転職を許可することだろう。ただし、1~2年働いた後にのみ許可され、その間、実習生はこれまで同様酷使される可能性が残っている。実際、実習生への酷使や、身体的暴力の記録が無数にあるにもかかわらず、実習生を搾取したことで起訴された日本の企業は1つもない。

 実習生の待遇をほぼ改善していない一方で、同改正は税金や年金・保険の未納や、一定の犯罪を除き、1年以下の拘禁刑を受けた場合(1年を超える場合は今でも退去強制手続が開始される)に政府が永住許可を取り消せることを承認することにより、多くの永住者の待遇を弱体化することが盛りこまれた。

 実はこれは、実習生だけでなく、その数の3倍に当たる、90万人近くに上る日本の永住者に影響を与えるが、草案の議論中にこの点は決して論じられなかった。議論の関係者によると、これは、自民党の右派の議員の意向を受けた出入国在留管理庁(ISA)によって、土壇場になって加えられたとのことだ。

 唯一、『信濃毎日新聞』がこの措置の重大性を取り上げ、翌日に一面に掲載した。英語圏の人々は、それが「埋もれた見出し」だと話している。草案の上部に取り上げられるべき部分だが、本文の中に隠されたのだ。

■立場の弱い外国人が影響を受ける可能性

 永住者は、当然ながら法に従い、応分に納税するべきである。しかし、それを怠った場合には、国民の場合と同様の待遇をすでに受けている。税金未納の場合、国税庁が財産を差し押さえる十分な権限を持つ。罪を犯した場合は、司法制度により日本人と同様に厳しく処分される。

 それにもかかわらず、なぜ、特に税金未納に対して永住権を取り消すという人生を揺るがすような罰を加えられるのだろうか。自民党の85人の党員が寄付金を申告せずに長年税務当局を騙してきたことで、彼らは何の制裁も受けていない。同じことに対して永住者の待遇を取り消すことは非倫理的ではないだろうか。

 この改正案が可決された場合、たとえば、退職したり、納税申告をする際に間違ってしまったりする社会的弱者や高齢者が大きな影響を受ける可能性がある。

 歴史的なマクリーン判決(1978年)で決定されたように、永住者は法務省が認めた限りの権利のみを有する。2021年に名古屋入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんが収容中に死亡したように、法務局が永住者が生きるか死ぬかの決定権を持っているのだ。

 永住へのハードルは高くなる一方で、申請に対する受け入れ率は2016年まで約70%に推移していたのが、現在は約55%に減っている。帰化に関しては、2017年の1万315人から2022年の7059人へと減少している。

 一般的に考えれば、永住権を取り消すことは、それを取得する困難さと一致するべきである。婚姻による以外は、永住者になるためには非常に長い期間と労力を要する。

 現在、永住権を申請するには、10年以上日本に在留していると同時に、そのうち5年以上、就労資格・居住資格を持っていることが条件となる。信じられないことに、これは帰化のための居住要件(5年)よりずっと長いのだ。当然、その間の素行は良好でなければならない。

■「永住権取得はあきらめた」という外国人経営者

 条件だけ見るとハードルは高くないように見えるが、日本の一流企業の役員で、日本で15年以上働いている外国人経営者は、永住権を取得するのがいかに大変だったかをこう振り返る。「永住権の申請にはとても時間がかかったので、5年ビザの更新も同時に申請した。そうしないと、オーバーステイになって日本から追い出される危険性があった」。

 「私は日本人の妻と結婚して25年になるが、配偶者ビザを取得するために、25年に及ぶ結婚生活を綴った長いエッセイを書かなければならなかった」と、外資系企業を経営する別の外国人経営者は話す。

 「2回目の申請でも、1年間の配偶者ビザしか取れなかった。3度目は5年間のビザを取得できた。妻にも収入があるのに、入国管理局は、1年以上のビザを取得するために私の収入を確認するよう求めてきたが、なぜ夫が妻と暮らすための長期ビザを取得するために収入を正当化しなければならないのだろうか」。彼は入管での手続きの面倒さと不合理さに辟易して、永住権の取得を完全にあきらめた。

 今回の改正により、法務省の担当者は外国人の納税記録を査定しなければならなくなるため、仕事量が増えるだろう。さらに永住権からビザに「降格」した人たちの申請の審査もすることになれば、さらに多忙になるのは避けられない。

 中には外国人の永住権は日本人には関係ないと考える人もいるだろう。だが、すでに多くの場面で外国人は日本に暮らす人々の生活を支える事業やサービスの従事しているほか、今後さらに人口減が進む中で、第一次産業から第三次産業までにおける貴重な労働力となることは間違いない。

 こうした中で、日本が外国人を惹きつける唯一の方法は、彼らの滞在中――特に永住権を取得した後は――彼らを日本人のように扱うことである。

■日本における「永住者」が置かれた立場

 約25年前、詩人の大岡信氏の別荘で、新年会に出席する栄誉にあずかった。同氏は、あるとき長いフライト中に、日本人のビジネスマンのグループが自然に輪になって議論していることに気がついた、と来客たちに語った。このことで、日本社会が輪のように機能することを同氏は認識したという。

 グループでは、人々が受け入れられるために苦闘し、固い結びつきのコミュニティを形成し、深刻なミスを犯した場合のみ追い出される。このイメージが現在の外国人への永住権の待遇を完全にとらえている。

 つまり、永住権は、厳しい審査の後に与えられ、その保有は日本国民と同等の安定性を保証する。大岡信氏の言葉では、一度永住者になれば、外国人は、自分が日本人による「輪」の中にいる「点」のように感じる。しかし、今回の改正案は、外国人は決して完全には日本の一部となることが認められないということを示している。彼らは「非永住者」であり続けるのだ。

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最終更新:3/22(金) 11:41

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