「乳酸菌飲料バブル」で窮地に追い込まれた「飲むヨーグルト」、逆襲の手立てはあるのか?

5/19 5:21 配信

東洋経済オンライン

 「今、明治の飲むヨーグルトは置いてないです。(乳酸菌飲料の)ピルクルに替わっちゃいましたね」――。都内スーパーの店員は淡々と話す。

 明治は昨年10月、「明治ブルガリアのむヨーグルト 900g」の製造・販売を終了した。業界からは「あれほどのシェアを持っていた明治が、まさか」と驚きの声が上がった。

 終売の理由について、明治は「個食化が進み、大容量品の消費量が減少しているため」と説明した。代替品として400グラムの商品を発売したが、売り上げは社内の計画値に届いていない(2023年度第3四半期決算時点)のが現状だ。

 森永乳業も昨年10月、「計画に対し思うような実績が得られなかった」として「ビヒダス のむヨーグルト」(900グラム)の製造・販売を終了している。

 市場全体を見ても、飲むヨーグルトの販売金額はこの6年間で17%も減少している。一体何が起きているのか。

■健康か味か、どっちつかずの存在に

 市場縮小の背景には、乳酸菌飲料などへの需要の流出がある。

 調査会社インテージによれば、乳酸菌飲料の2023年の小売店販売金額は1341億円。ヤクルト本社の「Y1000」(「ヤクルト1000」の店頭専用商品)が発売された2021年に市場が急拡大し、その後も伸びが続いた。

 一方、飲むヨーグルト市場は2021年に前年比200億円超の縮小となり、その後も停滞が続く。2023年の販売金額は1443億円で、乳酸菌飲料に追い越されるのは時間の問題だ。

 両市場の拡大と縮小の時期はほぼ重なっており、飲むヨーグルトの人気が乳酸菌飲料に移っている実態がうかがえる。

 さらに近年は、「キリン おいしい免疫ケア」など乳酸菌入りの清涼飲料水も台頭している。これらは法令上の乳酸菌飲料ではないが、小売店では飲むヨーグルトや乳酸菌飲料のすぐ隣に並ぶことも多く、飲むヨーグルトの需要を一部奪っているとみられる。

 業界では「飲むヨーグルトは替えがきくものになっている」との指摘がある。以前は健康といえばヨーグルトと考える人も多かった。飲むヨーグルトはフレーバーが豊富で、手軽に摂取できる強みがあった。

 だが、機能性表示食品制度が始まり、「睡眠の質向上」や「ストレス緩和」など具体的な機能をうたう乳酸菌飲料が登場すると、人気が揺らぎはじめた。

 「健康の機能を求める消費者は簡単に乳酸菌飲料へスイッチしてしまう。味を求めるならジュースを飲めばよく、ヨーグルトはどっちつかずのポジションになってしまった」(業界関係者)。

■長所が伝わらないのはなぜ? 

 飲むヨーグルトにもメリットはある。含まれる乳酸菌数、または酵母数は、乳酸菌飲料と同等かそれ以上だ。さらに無脂乳固形分が多いためコクがあり、乳酸菌飲料よりもタンパク質や炭水化物、ビタミンやミネラルを多く含むのが特徴だ。

 だが、こうした価値はうまく消費者に伝わっていない。乳酸菌飲料と比べて原価が高く、広告宣伝の費用が限られるのが要因の一つだ。

 一方、乳酸菌飲料や乳酸菌入り清涼飲料水には水分が多く含まれ、原材料費を抑えやすいうえ、機能性表示食品の場合は高単価なことも多い。収益性は高く、マーケティングにも力を入れやすい。

 飲むヨーグルトとほかの飲料との違いはわかりにくく、消費者が「広告でよく見る商品を買おう」となるのは容易に想像できる。

 では、飲むヨーグルトはどう反転攻勢を仕掛けるのか。メーカー各社は健康面の価値の訴求に力を入れる。

 機能性表示食品や「医師の○%が奨める」などとうたう飲むヨーグルトを展開する。「食後の尿酸値の上昇を抑える」や「記憶の維持」、「注意力の維持」など目新しい機能をうたう商品も続々と登場している。乳酸菌飲料ではなかなか耳にしない機能も多く、飲むヨーグルトならではの価値を伝えるために差別化しているのだ。

 また、これらの高付加価値商品は100~200グラム程度の小容量品で展開する。一般的な飲むヨーグルトより単価を高めに設定でき、容量も少ないため収益性を高められる。

 明治は昨年10月、「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ The GOLD」を発売。同社が「強さひきだす」と表現する素材「R-1乳酸菌EPS」を従来品の2倍配合した商品だ。希望小売価格(税込み)は257円で従来品より約100円高いが、滑り出しは好調で、今年3月まで計画比10%増の売れ行きとなっている。

 プロバイオ事業を担当する発酵マーケティング部の山本俊一氏は「サプリや栄養ドリンクなどを購入する層が新規で購入している。少し高くてもよいものを選ぶ人は多く、顧客獲得の余地がある」と分析する。

■「健康疲れ」で、味を重視する消費者も

 市場分析を重ね、味を重視する消費者の動きに着目したのは森永乳業だ。「コロナ禍の初期に健康意識が一気に向上した反動で、一部の消費者が『健康疲れ』をしているのではないか」(ヨーグルト・デザート事業マーケティング部マネージャーを務める田中泰徳氏)。

 最近はデザート系の商品が人気だ。昨年9月に森永が投入した「マミーのむヨーグルト」の販売は好調で、今年4月にはピーチ風味を投入するなど、味を重視した提案を進めている。

 「今後も乳酸菌飲料の勢いに押されたままとは考えていない。機能とおいしさの両軸に力を入れ、価値をしっかり伝えていく」(田中氏)。

 「乳酸菌飲料バブル」の中で人気が揺らぐ飲むヨーグルト。改めて、健康面の価値と味の良さを消費者にアピールしていくことが、復権のカギとなりそうだ。

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最終更新:5/19(日) 16:11

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