中国EV市場「利益なき繁忙」が止まらないジレンマ 黒字化達成の「理想汽車」もやむなく全面値下げ

5/17 16:02 配信

東洋経済オンライン

 中国のEV(電気自動車)市場の過当競争が止まらない。4月22日には、これまで価格競争と距離を置いてきた新興EVメーカーの理想汽車(リ・オート)までもが、ついに値下げを発表した。

 2015年創業の理想汽車は、ライバルの蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(シャオペン)とともに中国の新興EVメーカー群をリードしてきた。2023年の販売台数は37万6000台に達し、3社の先頭切って通期黒字化を達成した。

 中国の自動車市場では急速なEVシフトが進む一方、自動車メーカーのEV事業の損益はほとんど赤字だ。2023年に通期黒字を計上したのは、最大手の比亜迪(BYD)のほかは理想汽車だけだった。

■顧客にキャッシュで返金も

 それだけに、今回の値下げは理想汽車にとって苦渋の決断だった。その対象は4月18日に発売したばかりの新型SUV「L6」を除く全車種に及ぶ。

 具体的な値下げ額は、車種やグレードによって1万8000~2万元(約38万4000~42万7000円)。高級ミニバン「MEGA(メガ)」に関しては3万元(約64万円)も値下げした。理想汽車は同社のEVを最近購入した顧客に対して、今回の値下げ分をキャッシュで返金するとしている。

 理想汽車が価格競争に消極的だったのは、創業当初から利益率を重視し、高級ブランドのイメージ作りに力を注いできたからだ。同社の経営陣は、「高級EVブランドとして持続可能な経営をするには、最低でも20%の粗利率が必要だ」と事あるごと強調していた。

 しかし2023年の後半以降、中国の自動車業界は利益を度外視した乱売合戦に突入。理想汽車は粗利率を維持すべきか、それとも販売量の確保を優先すべきか、難しい選択を迫られた。

 同社が危機感を募らせたのは、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が中堅自動車メーカーの賽力斯集団(セレス)と共同で立ち上げた新興ブランド「問界(AITO)」の躍進だ。

 問界は2023年9月、主力SUV「M7」のマイナーチェンジ・モデルを発売し、(先進運転支援システムなどの)スマート機能を強化すると同時に価格を大幅に引き下げた。これをきっかけに問界の人気に火がつき、2024年1月には月間販売台数が初めて理想汽車を追い抜いた。

■BYDやテスラも値下げに参戦

 理想汽車は3月1日、新型ミニバンのMEGAと主力SUV「Lシリーズ」の2024年モデルを発売したが、逆転の起爆剤にはならなかった。3月の販売台数を比較すると、問界が引き続き理想汽車を上回っている。

 世界の自動車業界を見渡しても、EV事業で利益を上げているメーカーは数えるほどしかない。量産メーカーでは、中国のBYDと理想汽車のほかはアメリカのテスラくらいだ。

 そんななか、BYDは2024年2月に主力車種のほとんどを値下げ。4月21日にはテスラも、中国市場で販売する全車種を一律1万4000元(約30万円)値下げした。

 さらに理想汽車も追随したことで、黒字の3社がそろって価格競争に加わった格好になった。中国のEV業界の収益は今後ますます悪化し、体力が弱い下位メーカーの淘汰が進む可能性がある。

 (財新記者:安麗敏)
※原文の配信は4月22日

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最終更新:5/17(金) 16:02

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