「なぜそんなに強気なのか」「現場を知らないのでは」…と批判噴出。セブン「上げ底疑惑」で社長発言がマズすぎた理由

10/31 16:32 配信

東洋経済オンライン

 日本を代表するコンビニチェーン「セブン-イレブン」の社長発言が、ネット上で注目を浴びている。長年SNS上などでは「弁当容器の上げ底疑惑」が伝えられていたが、それにトップみずからが言及したのだ。

 社長発言が文春報道されたことで、X上では「上げ底弁当」がトレンド入り。ネットユーザーのモヤモヤに、ようやくある種の公式見解を出した形となるが、長年ネットメディア編集者として「上げ底疑惑」をウォッチしてきた筆者からすると、消費者の溜飲を下げるような十分な回答ではない、いやむしろ「マズすぎる」とすら感じられる。

■10年前頃から出ていた「上げ底疑惑」

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)は2024年10月10日、同社を「7-Eleven Corporation(仮称)」に社名変更して、コンビニ事業に注力する方針を示した。

【画像11枚】「なぜそんなに強気なのか」「現場を知らないのでは」…との声も。セブンの最近の商品を検証すると…

 あわせて、祖業であるスーパーマーケット「イトーヨーカ堂」をふくめたコンビニ以外の事業は、中間持株会社「ヨーク・ホールディングス(HD)」へ分離するという。

 ヨークHDをめぐっては売却検討の報道も出ており、一大流通企業の転換点となりそうだ。

 そんな中、セブン&アイHDの専務で、セブン-イレブン・ジャパン社長である永松文彦氏の発言が、話題になっている。

 10月25日公開の「文春オンライン」記事では、セブンの弁当が「上げ底」になっているといったインターネット上の風評に、永松氏は「なってませんでしょう? (笑)」「アコギなことはできないんですよ」「事実をもって投稿してほしい」と真っ向から否定。電子レンジで加熱するため、弁当容器には多少の傾斜が必要と主張していた。

 これらのコメントが報じられたことで、Xでは「上げ底弁当」がトレンド入りした。ユーザーからは「なぜそんなに強気なのか」「現場を知らないのでは」など、手厳しい言葉が続出している。

 セブンをめぐる「上げ底疑惑」は、降ってわいた話題ではない。X(当時のツイッター)の過去投稿を検索すると、すでに2010年ごろには言及されていた。弁当容器の形状に限らず、パッケージ容器に「具材が透けてみえているような模様」を施し、内容量を多く見せたがったのではないかとの指摘もある。

■悪評は、放置期間が長いほど、払拭するのが難しくなる

 こうした「疑惑」については、たびたびネットニュースでも扱われてきた。たとえば「弁護士ドットコムニュース」では、2020年に「セブンのサンドイッチ、『中身スカスカ』で騒動に…『上げ底惣菜』に法的問題は?」、2021年に「セブン『新作いちご飲料』のラベルが物議『果肉と思ったら絵』 法的問題は?」といった記事を出し、弁護士による見解をまじえて伝えている。

 一方で、拡散されている画像には、「意図的な角度から撮影されたものだ」「セブン以外のコンビニ各社の画像を使っている」との指摘もある。また、そもそも「上げ底」と感じるか否かは、個人の主観によって左右されることから、考えすぎなのではとの見方もある。

 今回のコラムは、上げ底の検証が目的ではない。内容量の増減や、容器形状の変化は、他の書き手に任せるとして、筆者は専門分野である「ネット炎上」の観点から考えたい。

 このタイミングで、セブンのトップが「上げ底疑惑」に触れたのは正解だったのか。背景を踏まえつつ、永松氏の発言を見つめてみると、あらゆる点からマズいように感じてしまう。まずは「なぜ聞かれるまで答えなかったのか」だ。

 先に紹介したように、SNS上での疑惑は、すでに10年以上前から出ていた。悪い風評は、放置期間が長ければ長いほど、払拭するのが難しくなる。事実でないのだとしたら、一刻も早い段階で、企業としての見解を示しておくべきだった。

 セブンは以前から、プラスチックごみの削減を理由に、弁当容器のリニューアルを発表してきた。これらのニュースに絡める形で、「上げ底疑惑の否定」と、「形状や素材、パッケージデザインの正当性」をアピールしていれば、今回ほどの批判は起きていなかったと考えられる。

■取材に対してのリスクマネジメント不足

 次に「言い方」だ。その受け答えから、永松氏がどこか質問者を軽んじている印象を残してしまったのは事実だろう。あくまで取材に対してのフランクな口調だとしても、その先にいる読者には、異なる印象を残しかねない。

 もっとも、挑発とも捉えられかねない「(笑)」あたりは、文春側のカラーが多少なりとも出ている表現と思われる。とはいえ、そう書かれる可能性を意識するべきだった点で、リスクマネジメントが不足していたのではないか。

 そして、一番の悪手は、「事実をもって投稿してほしい」発言によって、消費者の責任を問う姿勢を取ったことだ。永松氏は、電子レンジでの加熱を理由として挙げているものの、あくまでそれは「理由のひとつ」にすぎない。

 たとえば、この説明では「実際の内容量より多く見えるパッケージデザインが施されているのではないか」といった指摘に対応できていない。上げ底疑惑は、あくまでも消費者がセブンに対して抱いてきた不信感のあらわれのひとつであり、指摘を受けてきた商品は他にもあった。今回の発言では、サンドイッチのように、加熱を前提としない商品への疑惑には触れられていないのだ。

 それらに対する具体的な否定材料を示さないまま、一方的かつ総合的に「事実ではない」と断じて、ネットユーザーのモラル低下に着地させてしまうことは非常に危険だ。実際にSNS上では、「根拠のない断言」との読後感を覚えたユーザーからのコメントが散見される。

■「他社商品との比較」が不信感につながる

 これらの観点から考えると、永松氏による一連の発言は、消費者の要求を満たしている回答とは言いづらい。むしろ、セブン側が「一部ネットユーザーが騒いでいるだけ」と認識しているような印象を覚え、どことなく殿様商売のような雰囲気を感じさせてしまう。

 一貫して「他社商品と比較して、“上げ底”といえるのか」といった論旨を展開したこともマズかった。ネットで疑惑を投稿する人々は、他社商品ではなく「過去のセブン商品」と比較しての実感から拡散している。そもそもの比較対象が異なることも、「本質に気づいていない」「論点ずらしだ」と悪印象につながりかねない。

 百歩譲って、こうしたネットの風評が、その一部分のみトップへ伝えられていて、回答に足る前提知識が共有されていなかった可能性もある。これは永松氏に対してのみならず、「歴代トップへと伝えられない理由」があった可能性は否定できない。

 しかし、仮に現場から情報が上がってこなかったとしても、経営者は消費者の反応に敏感であるべきだ。それこそSNSであれば、いつでもスマホひとつで情報収集できる。いかなる理由があったとしても、悪評には敏感になっている必要があっただろう。

■「疑惑の否定」ではなく「新たな提案」を打ち出す

 セブンは全国2万1000店を超える一大流通チェーンだ。セブンへの疑念は、小売業全体への疑念につながるほどの影響力を持っていることを忘れてはいけない。あらゆる弁当や総菜が「どうせ上げ底だ」と諦められる前に、とれる手段はあるはずだ。

 しかしながら、社長が「否定」コメントを出しても、なお疑念がうずまいている現状を打開するには、どのような手を打てばよいのだろう。やはり、企業側から進んで「比較」をする必要があるのではないか。

 今回の再編により、総合流通グループから、コンビニ運営企業に特化する。このタイミングで「ライバルは“過去のセブン”」と打ち出すのだ。仮に、これまでの疑惑が事実無根ならば、「その悪印象を払拭するほどのインパクトを持つ新商品」を用意すればよい。

 それは必ずしも、ボリュームを増やせばいいというワケではない。違いが感じられる質の向上や、他社にないオリジナルメニューなど、これまでの商品開発の延長線でも、十分対応できるだろう。大事なのは、広報戦略などの「見せ方」だ。

 現状維持ではなく、パワーアップしたと、消費者に印象づける。「疑惑の否定」ではなく「新たな提案」とすることで、ポジティブなイメージは醸成されていく。まさに消費者を「いい気分」にできるか否かに、新生セブン-イレブンの先行きはかかっている。

【画像11枚】「なぜそんなに強気なのか」「現場を知らないのでは」…との声も。セブンの最近の商品を検証すると…

■ちなみに、弁当を買って検証してみると…

■サンドイッチ、ビリヤニは…

東洋経済オンライン

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最終更新:10/31(木) 16:32

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