大手銀行が新卒採用を削減!AI時代に「淘汰される若手」「求められる若手」の違いとは?
AIの進化が大手銀行の新卒採用計画にも影響を及ぼし始めた。2027年度の計画数は5年ぶりに減少するという。就職活動は売り手市場が続いてきたが、一部の業界・企業では新卒採用の戦略を修正しつつある。AI時代に「淘汰される」人と「求められる人」の違いとは?(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
● 5年ぶりに銀行の新卒採用が減少 AI時代の働き方の大変化
AI(人工知能)の影響で、世界的に働き方が変わり始めている。その変化は、日本人にとっても「自分事」として降りかかってくるようになってきた。
例えば、国内大手銀行の2027年度の新卒採用計画数は全体で2180人と、26年度と比べて5%ほど少ないという。減少の背景には、AI活用による業務の効率化があるとみられる。人がAIに代わられる典型例といえるだろう。
昨年まで、全体として就職活動は売り手市場が続いた。実際に筆者が、就職活動を行っている学生と話していても、就職先に困るような学生はあまりいなかった。基本的には人口減少・少子高齢化が進み、人手不足だ。
また、長く続いたデフレからインフレにシフトしている。物価上昇により私たちの生活負担は増えているので、高い賃金を求め、転職する若手も多い。若手社員を確保するために初任給を引き上げる企業も増えている。
そうしたトレンドもある一方で、一部の業界・企業では新卒者の採用戦略を修正しつつある。リクルートワークス研究所による採用見通し調査(新卒:2027年卒)では、大学生・大学院生の採用見通しについて、「増加」が約12%、「昨年と同水準」が約50%、「削減」が約6%だった。前年までと比べると、やや慎重な姿勢がみられる結果だ。とりわけ慎重さが目立ったのが、大手銀行など金融業界だ。
銀行は、資金決済などのシステムを運営する装置産業である。1990年代にIT革命が起きる以前は、手作業で入出金を集計し、コンピューターに入力して決済業務を行っていた。しかしデジタル化が進み、紙やハンコありきの業務はITシステムが代替するようになった。
さらに今度は、凄まじいスピードでAIが業務を代替可能になっている。主に新入行員が担うような定例業務は、AIによって、従前よりも少人数で済むようになった。
AIを活用することで、人材育成のコストも削減できる。金融機関の中には、前年度と比べて採用計画を2割程度抑えるところもあるという。
こうした変化は、金融以外の分野に押し寄せている。ある大手機械メーカーは、来年入社予定の大卒・大学院卒者数を今年の4分の1程度に減らした。飲食、総合電機などの業界でも、人員構成の適正化やAI導入による省人化などを理由に、新卒者の採用を絞る傾向があるという。
新卒採用の変化の影響は、彼らを管理・監督する中間管理職層にも当然及ぶ。企業の採用人員が減ることは、突き詰めて考えると、AIで代替可能な人とそうでない人の選別が鮮明になることといえそうだ。
システム化できる定例業務は、主にAIに任せる。一方、人にしかできない、高度な専門性や能力を持つ人材の需要は高まることが想定される。
いわゆるJTC、Japanese Traditional Company(伝統的な日本企業)は、新卒一括採用でジョブローテーションによりゼネラリストを育ててきた。特定の企業に就職し、長くその組織で多様な業務を行う――こうした従来型の働き方は、確実に変化していくはずだ。
● AIが仕事を奪う?そう単純でもない IBMが欲しい人材の4条件
海外に目を転じると、AIが仕事を奪うケースは拡大している。それに伴い、必要とされる人材の要件も変化している。大手コンサルティングファームや投資銀行では、アナリストやアソシエイトと呼ばれる若手社員の採用を大幅に削減している。
データの収集や資料作成は、基本的にAIで代替できる。というより、処理は速く正確性も高い。欧米の金融業界全体で、若手採用は最大で3分の2ほど減少したとの調査もある。
こうした変化に関して、スタンフォード大学の研究者の分析が参考になる。それによると、AIが代替可能な職種では、22〜25歳の雇用数が他の職種に比べて最大で19%低かった。その差はChatGPTの出現以降、拡大している。例えば、カナダのEC大手Shopifyは、人員を採用する前に、AIで代替可能な業務かを徹底的に検証しているという。
一方で、興味深いポイントがある。若手の採用・雇用を削減した後で、再び採用を増やす企業も出始めていることだ。
米IBMは2023年、顧客と実際のやり取りが発生しない約2万6000人従業員のうち、7800人(全体の約3割に相当)を5年程度でAIに置き換え可能と公表した。
しかし今年2月、IBMは一転して若手社員の採用を拡大する方針を示した。変わったのは、職務内容=ジョブ・ディスクリプションである。数年前の若手社員の職務内容は、AIでもできることだった。現在、IBMは若手にも中途採用者にも、「部門横断で業務を推進し、意思決定を下す力」を求めている。
プログラミングのような専門スキルはAIに任せる。逆に、人間にしかできないことを確実に実行できる人材を確保する。海外では、そうした採用戦略の修正が加速している。
IBMは、部門横断的に事業の成長を実現できる人材の要件を4つ掲げた。
まず、学ぶ意欲。AIの成長で世界が激変する中、常にキャッチアップする姿勢を重視している。次に、AIの回答を検証する力。原典を参照するなどして、客観的に事実を確認する能力を問い始めた。3点目は、不確実な状況下での意思決定能力。最後がコミュニケーション能力である。
特に、新卒学生に関しては4点目を重視しているという。顧客と上司の円滑なやり取りを行うことが出来る資質を求めているのだろう。
● 若手にとどまらず管理職も 重要性高まる社会人の学び直し
AIは、作業の自動化を加速できる。かなり複雑な計算処理も高速化している。文字、数字で表現し処理できる業務は、代替可能だ。
この影響は、若手社員にとどまらない。経理、人事、システム管理などの管理職の業務に対しても、同じようにAI代替は加速する。関連職種の雇用は減るだろう。AIによる雇用喪失懸念の主たる内容だ。
一方、特定の能力を持つ人は必要になる。例えば、IBMが求めるようなチーム全体の目標を設定し、組織をまとめる能力を持つ人。曖昧な状況の中でベストな意思決定を下すことができる人。そうした人材への需要は増え、賃金も追加的に上昇するだろう。
こうしたマネジメント人材を、労働市場から期間限定で採用する企業が世界的に増えている。海外では、「フラクショナル・エグゼクティブ」(有期限・複数社兼務の専門幹部)という呼称の働き方の人が増えているのだ。
米大手コンサルティングのデロイトがまとめたAI関連の年次調査報告書では、2027年までにAI(AIエージェント含む)を業務に組み込む計画がある企業は74%に達したという。しかしその内、必要な管理体制を整備できているのは21%に過ぎなかった。
このギャップを埋めるため、フルタイムで最高技術責任者(CTO)を1人雇うのではなく、必要なスキルを持つ専門家を月額契約と成果報酬で起用する。中には、AIシステム構築・運営の助言だけでなく、実装まで組織横断的に指揮する契約もあるという。
AIの機能が進歩したことで、専門性の深化と応用できる分野は拡大するだろう。それに伴い、私たちが収入源を多様化できる可能性は高まっている。重要なのは、多様な人や組織と出会うことで新たな知見を会得し、専門性を高めることだろう。
これは人にしかできない。そうした能力を磨くため、社会に出てからの勉強、つまり学び直しの必要性が高まっている。例えば、人事の専門家が、法律やシステムに習熟することができれば、活躍範囲を広げることができる。
学び直しによって、これまで縁のなかった分野でビジネスチャンスを見出すこともできるだろう。いかに自分を高めるかは、私たちの人生にとって極めて重要なファクターになりつつある。意識変革が必要だ。
真壁昭夫
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