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なんと標高4000m!TVマンが単独で目指した「チベット仏教聖地」である「天空の村」驚きの実態 「低酸素」「スマホなし」どこまで行けるのか?

3/17 5:11 配信

東洋経済オンライン

世界36カ国を約5年間放浪した体験記『花嫁を探しに、世界一周の旅に出た』が話題を呼んでいるTVディレクター・後藤隆一郎氏。

その後藤氏が旅の途中で訪れた、ヒマラヤ山脈にある辺境の地、チベット仏教の聖地「スピティバレー」で出会った「標高4000mに暮らす人々」の実態をお届けします。
*この記事のつづき:“日本人女性”も巡礼「チベット仏教聖地」驚く世界

■たどり着いたのは「電波の届かない」辺境の街

 カザに到着したのは、午後4時を過ぎた頃だった。

 空は透き通るような深くて濃い青色なのだが、街全体は妙に薄暗い。太陽が傾き、四方に囲まれた山々の影に入ってしまったようだ。

 到着する前にスマホをチェックしたが、インド北部では使用できたSIMの電波は完全にオフになっている。「まぁ、そうだろうな」とは思っていたが、やはり、ここではネットは使えないらしい。

 運転手と別れの握手をし、20キロのバックパックを持ち上げると、いつもとは違うズシリとした重さを感じた。足を踏み出してみると、太腿が鉛のように重い。

 カザの標高は3650mで、気圧が低く空気中の酸素濃度がかなり薄い。車に乗っているときとは違い、荷物を背負い実際に歩き出すと、わずかな坂道でもかなり息が上がってしまう。

 気温はおそらく10度前後だが、太陽の光がなくなってから急激に冷えてきている。俺はバックパックを開き、ダウンジャケットを取り出した。暗くなるまでに、今晩泊まる安宿を探さなければならない。

 インド縦断旅をしていると、バスや列車を降りた途端、観光客目当ての胡散臭い男たちがたくさん寄ってきて、「安い宿があるよ」と高額の宿を勧めてくることがよくあった。

 しかし、ここにはそんな人が一人もいない。

 それはとてもありがたいのだが、誰もいないとなると、なんだか妙に寂しく、あの鬱陶しさが懐かしくも感じられる。

■ほとんど何も調べずに来てしまったが…

 「ここに旅人を受け入れる宿などあるのだろうか」

 時間が経つとともにより深みを増す紺碧の空と山陰に覆われた静かな街が、俺の不安を増幅させた。

 インド北部の街マナリにいたとき、レー・ラダックへの旅情報はかなり入ってきたのだが、スピティに関する情報はブログなど数件しかヒットしなかった。

 英語で書かれたウィキペディアをざっと眺めてみたが、カザに関する詳細な情報は限られているようで、途中から調べるのが面倒くさくなり、リサーチをやめてしまった。

 つまり、ほとんど何も調べずにこんな辺境の街に降り立ってしまったのだ。

 ただ一人だけ、世界を5年近く放浪しているカナさんという30代くらいの日本人女性が数週間前にスピティに旅立ったという情報を得ていた。

 だが、彼女とはマナリの宿の食堂で小1時間くらい話したきりなので、まだこの街にいるのか、もう他の場所に旅立ってしまったのかもわからない。

 心のどこかで「ここにいればいいなぁ」と、うっすらと期待してしまっている自分がいた。

■RPGで見た“はじまりの街”に実際に立つ

 運転手に聞いた話によると、カザは新市街と旧市街に分かれていて、新市街のほうには学校や病院、割と新しい住宅があり、宿を探すなら旧市街のほうがいいとのこと。

 街ゆく人に英語で旧市街の場所を聞くと、多くの人が英語を喋れることに驚いた。道端に座っている40代くらいのジーンズをはいた男性に中心街の場所を聞くと、わざわざ立ち上がり、優しい笑顔を浮かべながら丁寧に行き方を教えてくれた。

 スピティはヒマラヤ登山やトレッキング目当てに人々が集まる場所としても知られている。その中心地であるカザの旧市街は、スピティ川が流れる渓谷に沿って約160kmにわたり点在する小さな村の「はじまりの街」と呼ばれている。

 その呼び名にふさわしく、ジブリ作品やロールプレイングゲームに登場する「旅の準備をする街」の様相を呈していた。

 商店が立ち並び、八百屋などの食料品や洋服などの日用品、雑貨。日本の登山ショップには到底敵わないが、リュックサックやクリップなどの必要最低限の登山グッズが売られている。

 観光客に向けた可愛いチベットのアクセサリーを売っている路面店も見かけた。ただ、常に人が溢れかえっていた北インド中心部の街々のような活気はなく、人通りが少なく物資も乏しいという印象を受けた。

 街の中心辺りで、チベット語と英語で書かれた小さな木造の観光案内所の看板を見つけた。

 案内所にはスピティバレー全域の村の地図と、ヒマラヤに生息している野生動物のイラストが描かれた看板がある。

 熊やキツネ、ヤク(標高4500~6000mの高原に生息する絶滅危惧種の毛の長いウシ科の動物)、マナリの旅宿にあった写真集で見つけたユキヒョウの姿もあった。

■絶体絶命、野宿の危機に現れた救世主

 「ここなら宿の情報を持っているに違いない」

 室内に入り、「エクスキューズミー、ハロー」と声をかけるが返事がない。どうやら無人案内所らしい。よくよく考えてみると、日が落ちてしまった時刻に、ほとんど観光客のいないこの街で、有人の観光案内所なんてある訳がない。

 すれ違う人の顔つきや洋服を見ると、観光客や旅人はおらず、100%この辺りに住む人々だ。顔が平たいチベット系の人々に交じり、皮膚が浅黒く鼻が尖った、インド北部のアーリア系の顔つきの人々もわずかに交じっている。

 道ゆく人に「ゲストハウスはないか?」と尋ねるが、「知らない。他の人に聞いてみて」という返答ばかりだ。こんな辺境の街で、初日から野宿なんてしたくないので、英語で書かれたHotelやGuest Houseの看板を探し、辺りをさまよった。

 もう、四方の山々の上空の明かりが消え、夕方ではなく夜になっている。気温はさらに下がり、ダウンジャケットを着ていても寒い。夏とはいえ、富士山の頂上に近い高さの街なのだ。

 「まぁ、なんとかなるでしょう」

 かなり良くない状況を覆い隠すように、自身を奮い立たせた、そのときだった。

 「ごっつさん」と遠くのほうから、日本人女性の声が聞こえてきた。

 「カナさん!」

 そこには、ラフなタイパンツに黒い洋服、首にはベージュ色の大きなマフラーを巻いたカナさんの姿があった。

 マフラーの上からヒマラヤ山脈の雪のような白い布をまとっている。そのいでたちは、山の女神さまの化身のように思えた。

■辺境の地を旅する「もう一人の日本人」

 「ごっつさん、スピティに来たんですね。てっきりラダックに行くと思っていました」

 「ところで、宿を探してるんだけど、イイとこ知らない?」

 「カザ、宿が少ないんですよ。私の泊まっているところ安いんで、そこに泊まります?」

 彼女は標高4166mに位置するチベット僧院・キーゴンパに行き(チベット語で寺院のことをゴンパという)、その帰り道、偶然にもカザの街に立ち寄ったとのこと。

 キーゴンパとは11世紀に設立された岩山の上に砦のように建つスピティ最大の修道院で、ラマ(チベット僧侶)のための宗教訓練道場。標高4000m超えの村からカザに下りてきたから、息がしやすく過ごしやすいとサラリと話していた。

 彼女の泊まっている宿に行き部屋に入ると、そこは、まるで山小屋の一室。

 簡易なベッドだけがあり、テーブルもない。電灯もなく、部屋に大きなキャンドルが1つあるだけだ。

 やはり、5年近く旅を続けているので宿の節約術にも長けている。

※後編へつづく

東洋経済オンライン

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最終更新:3/17(日) 7:18

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