増殖し続ける湾岸タワマンの泣き所、公共交通のキャパ不足は克服できるか《楽待新聞》

4/6 19:00 配信

不動産投資の楽待

今年2月1日、東京の湾岸エリアを走る東京BRTが、ターミナルとなる新橋駅から東京五輪選手村跡地を結ぶルートの運行を開始した。

BRTとはバス・ラピッド・トランジット(Bus Rapid Transit)の略称で、日本では一般的に「バス高速輸送システム」と訳される。

一般的な路線バスとBRTの違いを明確に説明することは難しい。なぜならBRTの定義は定まっておらず、導入している自治体や事業者も「これまでの路線バスとは、なんとなく違う」くらいの意識で運行していることが見てとれるからだ。

そんな東京BRTだが、周辺不動産とは密接な関係がある。今回は、東京BRTがメインに走る、湾岸エリアの不動産と交通システムについて考えていく。

■増え続ける湾岸エリアのタワマン

東京BRTは2020年10月からプレ運行(一次)を、2023年4月1日からプレ運行(二次)を開始している。

新橋駅をターミナルに、西は虎ノ門ヒルズへと路線を延ばしているが、東京BRTの運行は、あくまでも湾岸エリアに主眼が置かれている。

すでに日本では人口減少が顕著になり、地方都市のみならず東京や大阪といった大都市でも空き家や限界分譲地といった住環境をめぐる問題が深刻化している。

そうした中でも、東京の湾岸エリアのタワーマンション需要は衰える気配がない。それを如実に物語るのが、東京都内で新築されるマンションの平均価格が高騰を続けていることだ。

2023年、東京都内の新築マンション平均価格はついに1億円を突破。もはや庶民の手に届かないレベルの価格帯まで跳ね上がっているが、それでも東京23区の新築マンション市場は依然として活況を呈している。

新築マンションの価格が上がっている原因には、円安によるエネルギー価格の上昇、資材価格の高騰、労働力不足を補うために人件費のアップなどがある。

この状況下、鳴り物入りで東京五輪の選手村跡地に整備された「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。今年1月には入居が開始となった。

晴海フラッグは、湾岸エリアに建ち並ぶタワマン群の象徴とも言える存在で、晴海フラッグによって周辺地域では再びタワマン建設が活発化した。

例えば、「グランドマリーナ東京」プロジェクトの一環として、新築分譲タワーマンションの「パークタワー勝どきミッド」や「パークタワー勝どきサウス」が2023年8月に竣工している。

さらに、ミッド棟の北東側にはノース棟の建設も進んでいる。2028年の竣工を予定しているようだ。

その他にも「グランドシティタワー月島」や「ザ・豊海タワーマリン&スカイ」といったタワマンが今年に販売開始を予定している。

これらの計画を見ると、東京湾岸エリアのタワマン需要は今後も堅調に推移することが予想される。

■人口増に耐えられない? 公共交通が課題

湾岸エリアのタワマンは超高級物件となる。先ほどは庶民の手には届かないレベルと形容したが、必要な元手資金の額が大きくなるだけに、不動産投資家にとっても容易には手を出せない。

タワマン建設が続く湾岸エリアは、人口増という魅力的な要素の一方で弱点もある。それが、公共交通の整備が行き届いていない点だ。

もともと湾岸エリアを含む東京の東側は、1970年代前半ごろまで東京都電車(路面電車)が地域住民の足になっていた。

湾岸エリアは埋立地ゆえに地下鉄の建設が難しく、都電廃止後も都バスが主要な公共交通として重宝されていた。

1988年、ようやく営団地下鉄(現・東京メトロ)有楽町線が開業して、湾岸エリアにも地下鉄が走るようになる。その後、2000年には都営大江戸線も開業した。

また、その間の1996年には東京臨海高速鉄道りんかい線が新木場駅~東京テレポート駅間で開業。2002年には大崎駅まで延伸して全線を開業させている。

さらに、2001年には新橋駅~有明駅間でゆりかもめが開業。2006年には有明駅から豊洲駅まで延伸させた。

湾岸エリアを縦横無尽に走る都バスや、相次ぐ新線の開業状況を見れば、公共交通が弱点という印象を抱くことはないかもしれない。

しかし、湾岸エリアではタワマンの建設ラッシュが続く。タワマンは1棟完成すると、人口が500~1000人単位で増えていく。

また、タワマンの購入者は共働きのパワーカップルが多いという点も、通勤ラッシュを激化させる要因になっている。

パワーカップルは男女共に正規雇用で働いていることが多いため、自宅から都心のオフィスへ通うのが1世帯で2人になる。単純計算ではあるが、世帯数の2倍ずつ通勤者が増加してしまうのだ。

そのため、既存の公共交通だけでは対処しきれない実情がある。東京BRTが運行される以前から、湾岸エリアを走る都バスは混雑が激しく、特に通勤時間帯は周辺にタワマンが立ち並ぶ豊洲駅の混雑も激しかった。

そうした状況を受け、東京都には早急な公共交通の整備が求められていた。ここに登場したのが東京BRTだった。

公共交通を早期に整備する目的で、2020年10月から都がプレ運行(一次)を開始。2023年4月1日からプレ運行(二次)へと移行し、今年2月1日から晴海フラッグに直通するルートも運行を開始した。

足かけ3年以上の歳月をかけて、東京BRTは本格運行へと至ったのだ。

■BRTは臨海地下鉄の「つなぎ」か

しかし、これで湾岸エリアの公共交通は十分に整備されたと思ってはいけない。

なぜなら、2022年前後から鉄道・バスの運転士は慢性的に不足する事態に直面しており、東京近郊でも減便という対応を取る事業者が出てきているからだ。

鉄道・バスの運転士不足は、自動運転というイノベーションによって解消する手段も講じられているが、まだ実用段階ににでは至っていない。特にバスの自動運転化は、鉄道よりも難しいとされている。

自動運転が実用化できても、乗務員をゼロにすることは難しい。運転士(ドライバー)は不要になっても、安全を担保するために必ず鉄道・バスに乗務員が必要になる。これら乗務員の確保すら、現在はままならない状況になっている。

また、東京BRTの運行により、湾岸エリアの公共交通は一定レベルで確保できているが、今後もタワマンの建設が続くことが予想される。さらなる人口増に備えるため、都は引き続き公共交通の整備を迫られている。

そこで小池百合子都知事は、東京駅~東京ビッグサイト間を約6.1キロメートルで結ぶ「都心部・臨海地域地下鉄」(以下、臨海地下鉄)事業の構想を2022年11月に発表。

同構想では、2040年代までに臨海地下鉄を整備する青写真を描いている。

臨海地下鉄では、始点と終点を含め全7駅が計画され、途中駅に勝どき駅や晴海駅、豊洲市場駅なども開設が予定されている。

現在のところ、駅の位置も確定しておらず駅名も仮称だが、臨海地下鉄のルートと東京BRTの運行ルートは重複する部分がある。

バスやBRTなどに比べて、鉄軌道の優位性が発揮できるのは、時間通りに運転される「定時性」と、所要時間が短くて済む「速達性」、一度に大量の利用者を運ぶことができる「輸送力」の3点が挙げられる。

特に、運転士不足に陥っている昨今の公共交通の状況を鑑みれば、臨海地下鉄の輸送力は魅力的だろう。臨海地下鉄が走り始めれば、上記3点で劣る東京BRTは役割を終えるかもしれない。

湾岸エリア住民の足を確保する名目で導入された東京BRTだが、臨海地下鉄との併存は考えづらい。ルートが重複している2つを残せば、利用者の奪い合いが起きてしまい、共倒れリスクを抱える。

つまり、東京BRTは臨海地下鉄が開通するまでの「つなぎ」でしかないのだ。

臨海地下鉄が開業すれば、公共交通の問題はクリアできると考えがちだが、臨海地下鉄の開業は早くても15年以上も先の話。15年後の東京は、当然ながら現在よりも人口減少が深刻化しているだろう。

また、リモートワークなども進んでいることが予想される。2020年のコロナ禍では企業各社がリモートワークに取り組んだが、その際にはTHE・都心でもなくTHE・地方でもない、ほどよい都会が選ばれた。

そこには、家賃の高いTHE・都心に住む必要はないと考えながらも、たまには繁華街へと外出したいという欲求が見てとれる。

こうしたトレンドからも、湾岸エリアのタワマン需要が15年後も続いているかは不透明と言える。

■新陳代謝が激しい湾岸エリア

それでは、現在の湾岸エリアはどんな状況になっているのだろうか?

筆者はプレ運行(一次)の頃から、断続的に東京BRTに乗車し、周辺の街にも足を運ぶなどして取材をしてきた。

2月1日から東京BRTの乗り入れが始まった選手村ルートにも乗車してみたが、晴海フラッグの周辺は荒涼とした風景が広がり、そこに期待感を抱くことはなかった。

これは、まだ晴海フラッグ周辺のタワマン群が建設中であり、街そのものが未完成だったからという理由もある。

注目の湾岸エリアには、臨海地下鉄と並んで「豊住線」という鉄道計画も以前から検討されている。豊住線とは、有楽町線の豊洲駅と都営地下鉄新宿線・東京メトロ半蔵門線の住吉駅を結ぶ路線のことだ。

有楽町線の支線的な扱いになる約5.2キロメートルの豊住線は、途中駅として枝川駅(仮称)・東陽町駅・千石駅(仮称)が開設されることが想定されている。

豊住線の北端となる住吉駅は半蔵門線とも接続するが、現段階では豊住線の電車が半蔵門線に乗り入れることは想定されていない。

豊住線は、江東区が2030年代半ばまでの開業目標を掲げて計画を進めている。将来的に開業時期が変わる可能性は否定できないが、臨海地下鉄よりも早く開業することを想定して整備が進められている。

また、現在も豊洲にはゆりかもめの駅があり、公共交通の利便性という点で、豊洲は晴海の地位を脅かす存在になっている。

湾岸エリアのタワマン計画は百花繚乱で、街の新陳代謝は激しい。そして、湾岸エリアのみならず、新しい街は常に生まれ続けている。

タワマンで注目を浴びる湾岸エリアといえども、常に新しい街との競争が起こり、そして話題の「風化」との戦いも待ち受けていることを失念してはならないだろう。

小川裕夫/楽待新聞編集部

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最終更新:4/6(土) 19:00

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